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建設かエンタメかクルマか…5Gキラーコンテンツへ携帯大手がしのぎ

異業種連携や実証実験の機会広げる
建設かエンタメかクルマか…5Gキラーコンテンツへ携帯大手がしのぎ

ドコモはコマツと共同で建機の遠隔制御に5Gを使う実証を進めている

 2020年の実現を目指す次世代通信技術「第5世代通信(5G)」―。スマートフォンの普及に合わせて拡大した「4GLTE」の後継で、高速・大容量通信、低遅延、他端末接続を強みとする。これらの特徴は建設やエンターテインメント、自動車など産業界全体に変革を及ぼす。5Gで何を実現し、未来はどう変わるのか。携帯大手3社は異業種連携や実証実験の機会を広げ、可能性を見いだそうとしている。

 「5Gは『遠隔操作』で高いニーズがあると肌でヒシヒシ感じている」―。NTTドコモの中村武宏5G推進室室長は、こう手応えを話す。ドコモはコマツと共同で、建設機械の遠隔制御に5Gを使う実証実験を進めている。油圧ショベルカーに取り付けたカメラで撮影した4K映像を、オフィスなど離れた場所に5Gで送信。遠隔地でも工事状況を把握でき、映像を確認しながらリアルタイムにショベルカーを操作できるようにする。建設業界の人手不足は深刻だ。帝国データバンクによると、建設会社の68%が人手不足と感じる。遠隔操作が実現すると、工事現場への派遣人員の削減や作業負担の軽減を見込める。

 5Gの特性である高速・大容量通信は、高画質映像のリアルタイム配信に多く活用される。こういった技術をスポーツ観戦に取り入れる動きもある。KDDIは「自由視点」という新しい観戦スタイルの実現を目指す。3月に国際電気通信基礎技術研究所(ATR)などと共同で、50台のタブレット端末に4K映像を同時配信した。実証会場に選ばれたのは沖縄セルラースタジアム(那覇市)。スタジアム内に28ギガヘルツ帯の実験エリアを構築し、事前に撮影した4K映像をタブレットに電送した。ズーム機能や角度を変えて観戦する機能をのせた。今後は試合映像をリアルタイムで配信することを目指す。松永彰シニアディレクターは「スポーツ観戦だけでなくインバウンド(訪日外国人)向け観光案内のほか、セキュリティー関連サービスに5Gを活用したい」と抱負を語る。

 一方、自動関連事業に活路を見いだす動きもある。ソフトバンクの湧川隆次先端技術開発本部本部長は「100年変わらなかった自動車産業に、大きな技術革新が起きている。(5Gにとって自動車は)非常に大きな事業だ」と強調する。ソフトバンクはトラックの隊列走行で実証実験を進める。先頭車両のみに運転手を配置して後続車両は自動運転で追従する。実証では後続2台に設置したカメラの撮影映像を先頭車両へ電送したり、先頭車両のアクセルやブレーキ、ハンドル操作などの運転制御を後続車に電送したりする。隊列走行は運転手不足の解消や人件費削減につながり、国交省も20年度の実用化を目指す。

 ただ運転制御を誤れば大惨事になりかねず「制御を通信が担うことでリスクが高まるならやるべきではないし、今後検証を進める」(ソフトバンク)と慎重な姿勢もみせる。
日刊工業新聞2018年5月22日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
4GLTEはスマホをきっかけに普及した。だが5Gを普及させるキラーコンテンツが何になるのかは未知数だ。通信事業者は業種業態を問わずに顧客企業と実証を進め、その解を模索している。魅力的なサービスを作り上げていけるかが5G普及のカギを握る。 (日刊工業新聞社、大城蕗子)

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