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キリン「一番搾り」が23年ぶりに販売増に転じた秘密

必要なときに資金を投入し思い切った販促。他の商品にも好影響出始める
 キリンビールの主力商品「一番搾り」ビールの合計販売数量が、1―6月期で前年同期比約6%増となった。上期の販売数量増加は23年ぶりという。一番搾りだけでなく最近の同社は発泡酒「淡麗」、第三のビール「のどごし」でも好調さが目立つ。

 【独り負け】
 「5年下げ続けてきたシェアが下げ止まり、V字回復の兆しが出てきた」。キリンビールの布施孝之社長は手応えを感じている。昨年前半までの同社は文字通り“負の連鎖”。消費増税後の需要喚起策、マイレージキャンペーン、プレミアムビール強化などすべてが出遅れ、ビール4社の中で独り負けの状態だった。変化が見え始めたのは昨年9月のプリン体ゼロ発泡酒「淡麗プラチナダブル」発売。業界各社の競争を勝ち抜きシェアトップに立ったほか、今年1月に発売した第三のビールのプリン体ゼロ「のどごしオールライト」もヒットし、反転攻勢のきっかけとなった。

 【小さな成功から】
 シェアを下げ続けてきた負の流れを変えるのは、簡単なことではない。必要なのは、小さな成功を積み重ねること。成功具体例ができたことで社内でも営業とマーケティング、生産部門などの歯車が次第にかみ合い、一体感が醸成された。5月に発売した、横浜や仙台など全国9工場の地域限定一番搾りビールは、予想の3倍になるヒット。「社内のベクトルがかみ合っていない時だったら、この商品はできなかった」と布施社長は振り返る。

 【販促も強化】
 居酒屋など業務向けの営業やマイレージキャンペーンなども、強化した。従来は収益を気にするあまり思い切った販促が打てなかったが、必要なときに資金を投入するやり方に変えたことで営業マンもやる気が出てきたという。新規開拓の店はそれまでの約1・8倍になり、同業他社が強い店にも進んで訪問するようになった。

 ただ、伸び率は大きくても数量ではアサヒビールの「スーパードライ」とは大きな開きがある。7月以降はビール類最需要期の“夏”。この戦いに敗れれば流れが逆戻りする可能性もある。布施社長は年後半の注力課題を「一番搾りと機能系酒類」と表現する。戦いに勝てればトップシェア奪回の悲願の可能性も見えてくる。
日刊工業新聞2015年07月10日 建設・エネルギー・生活面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
ちょうどビール業界を担当していた約20年前、アサヒの「スーパードライ」がトップブランドを伺おうとしていた。キリンは「ラガー」がまだ主力で、「一番搾り」は若若くし勢いのあるブランドだった。特にビールは、一つのブランドを育て、維持していくのは非常に難しい。アサヒはいろいろ言われながらも営業の動きが素早い。最近はやや組織が官僚化している印象も受けるが。キリンはこのチャンスを逃さないようにしないと。

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