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コクヨの9万円オフィス椅子が人気になったワケ

身体に沿った動きを実現、腰の負担を軽減
コクヨの9万円オフィス椅子が人気になったワケ

可動部分に対面式ブランコの機構を応用したイング

 コクヨは2017年、身体の動きに追随するオフィス椅子「イング」を発売した。価格は、約9万円から、と手頃とはいえないが、身体のラインに沿った動きを実現し、腰への負担や座りにくさによるストレス減少を狙った製品。身体への負担を抑え、仕事の効率化が図れることを訴求する。イングで働き方改革に挑戦する、ファニチャー事業本部ものづくり本部1Mプロジェクトリーダーの木下洋二郎氏に聞いた。

 ―開発の経緯は。

 「イングの開発の起点になったのは15年頃だが、その数年前からいろいろと考えることがあった。座りすぎが健康リスクを高めるという研究成果が発表されていた。座ることははたして悪なのか、と椅子の開発に携わっていることから自問するようになっていた。当時、コクヨの経営方針として新規事業を求める動きも強かったこともあり、新たな椅子づくりに着手した」

 ―新たな椅子のヒントはどこから得たのですか。

 「開発チームで禅寺へ赴き、座禅を組むなどして開発の糸口を探ったこともあった。そうした開発活動の中で、それまでの経験をもとに得た理論を肉付けしながら、複数の試作品を作製した。従来の椅子の構造と異なり、バネを使用しない試作品に楽しそうに座る人がいた。その試作品を基本に、開発を進めることになった」

 ―イングの特徴は。

 「バネの代わりに、対面式のブランコの機構を可動部分に応用した。ブランコであれば、揺り戻しなどで、座っている人の体重に合わせた動きが可能だ。その機構をつくるため、従来比2倍の約100点もの部品を採用。身体の動きに合わせ360度、椅子が動く構造を実現した。ただ、従来と発想を異にすることで生まれた苦労もあった。社内外の規格に合わず、新たな試験項目を独自に設定して安全性を担保した」

 ―販売状況はいかがですか。

「椅子の可動部分が360度動く点の訴求に力を入れ、初年度販売目標は15億円と設定した。PRが功を奏し、17年中は想定の2倍売れるなど滑り出しは上々。現在は個人向けの販売が中心だが、18年度は法人向けの採用が増えてくると期待している」
日刊工業新聞者2018年5月8日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
「座り続けるのは体に悪い」という昨今の指摘に対して、椅子をはじめ、さまざまなオフィス家具を手がけるコクヨが導き出したのが「イング」の製品化だった。同社は社員が実際に働く全国の職場を「ライブオフィス」と位置付け、ショールームとして消費者に開放。より良い製品の追求のため、自社製品を使いながら消費者にアピールし、技術革新を進めている。イングも、そうした土壌から生まれた製品のひとつだ。本丸の法人市場開拓に拍車がかかる。(日刊工業新聞社大阪支社・石宮由紀子)

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