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まだまだITアレルギーが強い教育現場で、EdTechベンチャーじわり

経産省も推進
まだまだITアレルギーが強い教育現場で、EdTechベンチャーじわり

未来の教室とEdTech研究会のワークショップ

 教育の次世代化に向けた取り組みが加速している。IoT(モノのインターネット)の進展など第4次産業革命の流れで経済の激変が想定される中、求められる人材像は大きく変わる。このため経済産業省は産業振興の観点から、教育改革に本腰を入れ始めた。キーワードが、ITなどを駆使した先端的な教育法「EdTech(エドテック)」だ。昨今、ベンチャー企業などが革新的なエドテックサービスを打ち出し、教育の可能性を広げている。ただ教育現場では変革への抵抗感があるなど、課題も存在する。

世界で“学びの革命”


 1月、経産省で次世代教育をテーマに新たな研究会が発足した。会の名は「未来の教室とEdTech研究会」。学校や塾など教育現場へのエドテックの導入を促し、新たな学びの形を確立する構えだ。「変革を主導する“チェンジ・メーカー”を生み出せる教育にしたい」と会の運営に携わる浅野大介経産省教育産業室長は、将来像を描く。

 経産省が学校などの教育について議論することは珍しい。学習塾など教育サービスを所管する立場にあるものの、これまで担当部署は問題時の対処などが主な役目で、教育の内容に関与する機会は限られていた。

 では、このタイミングで新機軸を打ち出したのは何故か。「産業の変化に伴い、世界中で“学びの革命”が起きている」と浅野室長は理由を説明する。第4次産業革命の時代では、社会課題を劇的に解決し得る非連続的なイノベーションが求められる。知識重視型の従来の教育だけでは、イノベーションの担い手となるチェンジ・メーカーは生まれにくい。このため、新たな時代で産業競争力を確保するには、教育改革による人材力の強化が不可欠となる。

 実際、世界の教育は大きく変わっている。米国では、オバマ政権時代にエドテックの普及策がスタート。新たな教育関連法規が2015年に成立し、初めてコンピューター・サイエンスが重要科目として明記された。

 また、中国は11年に教育IT化の発展に向けた10カ年計画を発表。15年ごろから、段階的にプログラミング教育の必修化が始まっている。年間4兆円超(推計)の予算が教育IT化に充てられるなど、その勢いは目を見張るものがある。

 国内でもエドテック関連のベンチャー企業が台頭している。代表格が、10年に創業したスタディプラス(東京都渋谷区)だ。主力の学習管理プラットフォーム(基盤)「Studyplus(スタディープラス)」が受験生らに支持され、累計会員数は300万人を突破した。

 経産省の取り組みは、こうした動きに対応したものだ。未来の教室とEdTech研究会には、教育機関関係者、学者、ベンチャー経営者など多様な人材が集結。

 特に傘下に置かれたワークショップには100人近くが参加し、エドテックをどう現場に導入するかなどについて、活発に議論を重ねている。

現場の意識、変えられるか


 「基礎学力の習得の生産性は、エドテックによって引き上げることが可能」「午前中に勉強を終わらせて、午後は全部自由に遊ばせられる環境が作れたら理想」などエドテックへの期待の声が聞かれる一方、「保育園の場合、年配の園長が多く、ITへのアレルギーが強い」など課題の指摘も少なくない。3月、計4回のワークショップを経て、経産省はさらに議論を深めるべきポイントを整理した。

 教育の次世代化に向けては、学習者の多様性への対応、エドテックベースの教育プログラムなどを検討すべき課題に設定。また、エドテックで追求すべき可能性については、学習の効率化をはじめ五つのテーマを掲げた。

 こうした論点を基にさらに検証を重ね、5―6月ごろに報告書をまとめる予定。報告内容は、エドテックの導入実証など学びの革命に向けた諸政策に反映するという。

 問題は、どれだけ劇的に教育現場の意識を変えられるかだ。ワークショップで意見が出たように、ITアレルギーを持つ従事者も少なくない。
 
日刊工業新聞2018年5月3日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
日本の教育は独自の慣習や不文律の下で機能してきた面もあり、変革を起こす上で国の推進力が問われることになる。 (日刊工業新聞社・藤崎竜介)

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