競技未経験の指導者がだどり着いた弓道指導の極意

<名将に聞くコーチングの流儀#12>清真学園高校・中学弓道部顧問・佐久間 和彰氏

 競技経験や知識の不足を、人生経験に基づく客観的な分析で補い、選手の力を最大限に引き出す知将がいる。清真学園高校・中学校(茨城県鹿嶋市)の佐久間和彰教諭は競技未経験者ながら強豪弓道部の顧問に就任。その後、本格的に弓道を学んだ異色の経歴の持ち主である。同部は2016年に男子が団体戦で全国高校総体(インターハイ)、全国選抜弓道大会で優勝し2冠を達成。試行錯誤の末にたどりついた独自の指導方法が栄光を引き寄せた。教師になるまでのさまざまな経験を指導のなかでの哲学として活かし、競技力だけでなく将来を見据えた力を養うことを目指す。不利な条件をどのように補い、自身のモチベーションを高めながら部員たちを牽引していったのか。そのプロセスを聞いた。

自分の居場所を確保し、生きていく



 ─弓道部を指導するようになったきっかけは。
 佐久間「27歳のときに清真学園に体育科の教員として採用されたことがきっかけです。弓道の競技経験はありませんでした。以前、常勤講師を務めていた公立高校で弓道部の顧問だったことはありましたが便宜上の名ばかり顧問でした。しかし、面接では何とか自分を採用してもらおうと「弓道部の顧問だったこともあります」と自己ピーアールをしました。そのことが採用の決め手になったそうです。退職した前任者が弓道部の顧問で、学校側は後任者を探していたのです」

 「当部は県内では強豪校として認識されていました。前任者は弓道の経験者であり、部員は非常に熱心に部活動に取り組んでいました。就任当時に部員から言われた言葉が忘れられません」

 ─どんな言葉だったのですか。
 佐久間『先生は引率だけしていただければ結構です』と言われました。前任校でも確かに名ばかりの顧問でしたが、実際にはっきり言われると非常にショックでした。ただ、弓道のことは部員のほうがよく知っていることは事実ですし、実績も残しています。だから、部員から認めてもらえるようになろうと思ったのです」

 ─どのようにモチベーションを維持しましたか。
 佐久間「認めてもらいたいという気持ちに加えて、「自分の居場所を確保し、生きていくため」と思っていました。普通であれば、あんな辛辣なことを言われたら決定的な溝ができると思います。しかし、私学教師は学校間の定期異動がないので、生徒や部員との関係が崩れたらやっていけません」

 「私はどうしても教師になりたくて、公立高校の常勤や非常勤講師も経験しました。でも常勤講師という立場は長期休業中の仕事がないのです。そのため、ゴルフのキャディやイベント会社などあらゆる職場で働きました。そうしたなかでようやく手に入れた学校教師としての職業だったので大切にしなければと言い聞かせました」
 


─競技未経験という事実をどう克服しましたか」
 佐久間「当時は隣の敷地に系列の短期大学があり、その弓道部に筑波大学弓道部出身の指導者がいたので、教えを請いました。同時に茨城県高校体育連盟(高体連)弓道専門部会に「どんな仕事もするので役員に入れてほしい」とお願いして書記として、会議や大会運営などに携わらせてもらいました。実技を学びながら、人脈を広げ、情報を得ようと考えました」

十分な対話で懸念点を解消



 ─部員との信頼を構築する際に心がけたことは。
 佐久間「実績のある男子部員には練習内容や運営をほとんど任せました。一方で当時、女子は男子に比べると実績がなかったので指導のしがいがありました。手探りでしたが、私が学んできたことをもとに、対話を重ねながら指導するという運営を行いました」

 「弓術は大きく分けて正面打越しと斜面打越しがあります。当部は斜面打越しのなかでも少数派の「日置流印西派」(へきりゅういんさいは)という流派に基づいています。一方で私が講師だったときに顧問だった高校は正面打越しを採用しており、そのことに対しても抵抗感があったことがわかりました。私としては強制しようとしていたつもりはまったくなかったのですが、誤解があるようでしたので対話をしながら、懸念点を解消していきました」

 ─徐々に信頼関係を構築していったのですね。
 佐久間「『自分は弓道のことはわからないので、学びながら、部として目指す方向に導きたい』と日頃から言っていたことが徐々に伝わったのだと思います。加えて、女子に実績がついてきたことが大きかったようです。高体連の専門部会で書記を務めたことで、さまざまな指導者とお会いして広げた人脈をもとに、練習試合を行い、強化が進みました。試合で女子の実績が出始めると男子の見る目が変わってきたような気がしました。私自身も少しずつ手応えを感じるようになりました」
自己暗示
部員が携行する全10項目の自己指示の確認書
「1」から全幅の信頼が伺える


客観的なデータを示して、考えさせる



 ─現在の指導で心がけていることはどんなことですか。
 佐久間「目標を正しく定めさせることです。掲げた目標を確実にやりきることが大切だと考えています。インターハイで優勝や入賞をしている学年を見ているとその下の学年は高い目標を立てようとします。威勢が良いのは良いことですが、あまりにも実力からかけ離れているようでは修正する方向へ導かなければならないと思っています」

 ─目標の修正を促す際、部員のモチベーションを下げないようにするためにはどうしますか
 佐久間「そのときのポイントは「現状の実力や今の努力で本当にその目標は成立するのか」と問います。先輩たちが同じ時期に出場した大会や練習内容などの記録を示し、考えさせます。数字やデータは客観性がありますから言い逃れはできません。ほとんどの部員はこうすることで適切な目標を設定し、努力するようになります。自分の能力を客観的に見定めるということは社会に出てからも必要なことだと思っています」

 「また、目標達成には計画性が大切です。計画性を養うために日程管理の重要性を指導します。ほとんどの部員は大学へ進学するので、基本となる中間・期末テストなどの定期考査が重要になります。その目標を意識させつつ、部活動で自己を高めるには計画的な行動ができるかが鍵になることを指導しています。中学生は提出物や宿題といった身近な管理を確実にやりきる意識を持たせます。計画性が重要なことは前職のイベント会社で学びました。この2本の柱で自己管理力と競技力を高めることを意識しています」

 ─弓道は個人競技である一方で団体競技でもあります。組織の力を高めるために必要なことは。
 佐久間「月並みですが、選手には自分だけで試合が成り立っているのではないことを教えることです。遠征に行けるのは選手と介添え(かいぞえ)という補助者の限られた人数です。全国大会では選手がベストなコンディションでいられるように、練習会場でのサポートや宿舎では翌日の試合準備のすべてを介添えが行います。こうしたことを選手に気づかせます。サポートする人へ感謝することを教え、介添えにもモチベーションを高く保ってもらい、チームワークを高めます」

 「また現在の部員は60人近くいます。インターハイや選抜大会のような県外の大きな大会に出ることができない部員が多くいます。しかし、そうした部員にも1度入部したからには最後まで続けてほしいと願っています。そのためには「試合に出られなくても弓道部で良かった」と思ってもらうことだと思います。そう思ってもらうには指導者の声がけが大切です。他愛のないことでもよく話しかけます。学校生活や交友関係、進路など、1人ひとりに関する情報をできるだけ多くつかみ、それぞれに寄り添った声がけや励ましを心がけています。どこまで踏み込むか難しいこともありますが、すべてのことは情報戦だと思っています」
基本姿勢の確認


 ─佐久間先生が考える理想の指導者とは。
 佐久間「指導教科や部活指導などすべてのことについて自分がわからないことや知らないことを謙虚に受け止め、学ぼうとすることが必要だと思います。学校教育の現場は狭い世界です。関係者とばかり交流しがちですが、それではいけません。私は今の職に就くまで、さまざま経験をしてきました。ほかの教師にはない経験をしっかり活かしていかなければならないと思っています」

 「幸いにも、民間企業に就職したOBやOGが学校に来て部活動に顔を出してくれたりします。社会で活躍している教え子と交流があるのはありがたいことです。外の情報を持ち込んで、私と部員を刺激してくれるからです。人に物事を教えるということは常に最新の情報を保有していなければならないと思います。卒業後も後輩の指導に関わってくれるということは、「清真学園弓道部で良かった」と感じてくれているからだと思います。こうした姿を励みに、さらに指導者として精進していきたいと思います。
(聞き手=成島 正倫)

〈私のコーチングの流儀〉あわてず、あせらず、あきらめず


 組織は毎年、人が入れ替わるので良い成績が残せるときもあれば停滞が続くときもあります。過去の栄光は忘れ、そのときにいる人材で最大限のパフォーマンスを残すことを考えるべきです。

〈略歴〉
さくま かずあき
1964年茨城県日立市生まれ。中学・高校では水泳に打ち込んだ。日本体育大学卒業後、高校の体育の常勤や非常勤講師、水泳インストラクターやゴルフのキャディ、ギター講師などさまざま職種を経て、1992年から清真学園高校・中学校体育科教諭。赴任と同時に弓道部顧問に就任。2016年には男子が団体戦で全国高校総体(インターハイ)、全国選抜弓道大会の2冠を達成した。


日刊工業新聞「工場管理2018年3月号」

宮里 秀司

宮里 秀司
04月28日
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名選手が必ずしも名指導者になるとは限らないという好例でしょう。他の指導者に教えを請うことも必要です。自己暗示にかけるという取り組みがユニークですね。

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