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懐石料理店や空港にもロボットが続々と。人手不足解消プラスアルファの価値を生む

先駆者の挑戦を追う
 ロボットの利活用領域が着実に広がっている。懐石料理店や空港など、これまでロボットと縁遠かった現場での導入も始まった。「ロボット新戦略」を掲げる政府も、本格的な普及に向けアクセルを踏む。ただ現場ニーズと技術のギャップなど、課題も存在する。人手不足対策や生産性向上が急務となる中、ロボットは救世主になれるだろうか。

先端技術と伝統和食文化が協調


 刺し身、天ぷら、寿司など昔ながらの日本料理が、ロボットに載り次々と運ばれてくる-。世界屈指の観光都市・京都の市街地に位置し、森鷗外の小説「高瀬舟」の舞台としても知られる木屋町通。趣あるこの通りにたたずむ懐石料理店「がんこ高瀬川二条苑」で、ロボットが和食を配膳するユニークな試みが2017年12月に始まった。台車型のロボットが店内を自律的に動き回り、客が待つテーブルへ料理を届ける仕組み。先端技術と伝統ある和食文化が協調する珍しさもあり、子どもをはじめ多くの来店客から好評を博している。

「XFシリーズ」を基に開発した搬送ロボット

 「人間だけでオペレーションするだけでは限界が来る」。ロボットの導入は、この店を運営する小嶋淳司がんこフードサービス会長の危機感から始まった。ここ数年、人材の獲得競争は激しくなるばかり。労働力人口が減る中で持続的発展を遂げるには、「ビジネスモデルを変えないといけない」と小嶋会長は心に決めた。

 そこで目をつけたのが、ロボット技術だ。採用したのは、シャープがAGV(無人搬送車)「XFシリーズ」を基に開発した搬送ロボット。付加価値を生まない運搬作業をロボットに任せ、人が接客や調理に専念できるようにした。

 新村猛副社長らが調べたところ、従業員の全作業時間のうち、運搬業務にかかる時間は約4割。これを削減できれば、他業務の時間を大幅に増やすことができる。特に接客に労力を割くことは、サービス業としての付加価値を高める上で非常に重要だ。「極端に言うと、このロボットの1000万単位のコストに対して1円分も投入労働量が下がらなかったとしても、1000万を超えるほどサービスの付加価値が上がれば投資の価値がある」と新村副社長は言い切る。

新村猛がんこフードサービス副社長

 導入から3カ月余り。当初は従業員の間で戸惑いもあったが、最近は現場から運用改善のアイデアが出るなど、積極的な姿勢に変わりつつある。また綿密な事前検証の効果により、安全面のトラブルもみられない。

 ただ一方で、「ロボットのシステムはまだ開発途中」と新村副社長は課題を指摘する。従業員からはさまざまな運用アイデアが出ているが、技術が全てに応え切れていないのが実情だ。

 例えば時間帯に応じて停車場所を変えるなど、現場で動作の微調整ができれば、さらに導入効果は高まるという。こうした“使い勝手”を改善すべく、メーカー側との連携をさらに深める構えだ。

 政府は、がんこ高瀬川二条苑のような新たなロボットユーザーを増やすべく、2020年までを“ロボット革命”の実現に向けた集中実行期間に設定。飲食分野をはじめとしたサービス産業のほか、市街地、空港、駅など公共空間のロボット化も進める方針だ。

超高齢化社会で役立つロボット


 都心からのアクセスの良さもあり、国内外から多くの人が集まる羽田空港。2016年度から、空港内のさまざまな現場でロボット導入に向けた実証が始まっている。運営する日本空港ビルデングの志水潤一事業企画部次長は、「空港も労働力確保の問題に直面する」と取り組みの意義を説明する。

 2016年度の実証で注目を浴びたのが、インディ・アソシエイツが開発した人形型案内ロボット「カイバ」だ。愛らしい見た目や動作、そして人が遠隔地から操作し案内できる機能などが特徴。実証中は外国人観光客からも人気を集めた。

人形型案内ロボット「カイバ」


人が遠隔地から操作

 「超高齢化社会で役立つものを作りたい」―。カイバは岡田佳一インディ・アソシエイツ取締役の強い想いから生まれた。きっかけは数年前、地方のある空港でのこと。生き生きと働く高齢の案内員に心動かされた岡田氏は、「社会参加したい高齢の方はたくさんいる」と感じ、就労支援につながる製品の開発を決意した。

 カイバの特徴はインターネットを介して、高齢者など誰もが遠隔操作できることだ。想定用途は案内や警備など。また、「引きこもりの方とか対人恐怖症の方とか、コミュニケーションをあまり取るのが上手じゃない人が、こういったロボットを使って人とコミュニケーションをとるというのも一つの手段」と岡田氏は可能性に期待する。

岡田佳一インディ・アソシエイツ取締役

 事実、「口下手な方でも、このロボットを操作している時はすごく明るくなったり、いつもより人とのコミュニケーションを上手にとれるようになったりしている」という。良い意味で〝仮面〟となりコミュニケーションを円滑化することが、ロボットの新たな役割として世に受け入れられるかもしれない。

 将来的には、脳から直接インターネットを介して操作できるロボットを開発したい考え。「病床に伏しているような方でも、脳さえくっきり動いていればロボットを介して動いたり人とコミュニケーションをとったり、もしかしたら目が見えない人がロボットを介してものを見るという、そういったことができると理想」と岡田氏はほほえむ。

 サービス産業や介護分野の人手不足など、ロボットが解決し得る問題は限りがない。先端技術が世に浸透するには、両者のような先駆者の挑戦が不可欠だ。諸課題を乗り越えつつ、新たなビジネスモデルをどう確立するかに注目したい。
<ロボット活用ナビ>
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