義足で速く走るポイントは「歩幅」

産総研の保原研究員、400人以上の障害者アスリートの走りを解析

  • 0
  • 0
「選手一人ひとりの走り方を計測し、強化ポイントを見つけたい」と力を込める保原研究員
 2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、障害者スポーツに注目が集まっている。各競技の選手の強化策が検討されるが、義足を使った陸上競技の研究者は意外と少ない。世界の研究をリードする一人が産業技術総合研究所の保原浩明研究員だ。

 研究テーマの一つが、障害者の短距離走で使う義足。その進化は速く、100メートル走では炭素繊維製の義足で1・5秒タイムが縮まった。早ければ20年に400メートル走のパラリンピック選手がオリンピック選手に勝つとの予想もある。

 ただ義足と走り方の研究は世界的にもまだまだ途上だ。手足の長さや筋力に応じて最適な義足を選ぶことは難しい。保原研究員は「選手の感覚で選ばれている」と指摘する。

 競技用義足は人間の脚よりも軽いため、脚の回転数は多くなる。一方で一歩一歩の地面を蹴る力は弱い。つまり健常者と障害者では走り方の戦略を変える必要がある。保原研究員は464人の障害者アスリートの走りをデータ化し、歩幅や回転数の関係を解析した。

 健常者では一歩の歩幅を伸ばすと回転数が落ちる。そのためタイムは歩幅と回転数にはあまり依存しない。一方で障害者は義足が長くても軽いため回転数は落ちにくい。そのため歩幅が顕著にタイムを縮めることを保原研究員は証明した。

 また国・地域別に選手の走り方を解析すると、日本人は脚の回転数と歩幅が米国のトップ選手に劣ることが判明。ただ義足の設計や訓練を直せば、逆転の可能性もある。「選手一人ひとりの走り方を計測し、強化ポイントを見つけたい」と力を込める。

 自身は柔道選手の卵として順天堂大学に進学。周囲のレベルの高さに圧倒された。研究の面白さを知り、大学院から早稲田大学に進んだ。「大学4年生で研究者の道を選ぶと決め、中高生向けの算数ドリルから勉強し直した」と振り返る。挫折と挑戦を繰り返し、タフさを身につけた。

 「産総研で、体育大学出身の研究者は自分くらい」と笑う。産総研で走り方の研究を立ち上げ、今後は義足のモノづくりに挑戦する。タフな挑戦者が障害という壁を壊す。
 (文=小寺貴之)

日刊工業新聞2015年07月01日 科学技術・大学面

COMMENT

斉藤陽一
編集局第一産業部
デスク

こうした研究がアスリートだけでなく、一般の障害者の方々がより快適に生活できるようにするための技術開発などにもつながっていけばいいと思います。

関連する記事はこちら

特集