下請け加工メーカーがダイヤのように輝く“コマ大戦力”

エイト工業がステンレス製のカフスを自社ブランドで商品化するまで

 愛知県犬山市― 典型的な家族経営の加工メーカーが、この春からダイヤモンドのカフスを作って販売を始めた。ダイヤモンドといっても本物ではない。ステンレスを58面体のブリリアンカットに3次元加工で美しく仕上げたもの。なぜ下請けの切削屋が、自社製品の開発に乗り出したのか。そこには今や国内外の中小製造業が注目するイベントの存在があった。

 エイト工業は昭和44年に創業、現在の社長の日比野秀年(46)は、2008年に父親の後を継いだ。子どもの頃から機械部品を削る父の背中を見ながら、「いつか自分もこの仕事をやるんだろう」と漠然と思っていた。

 ここ数年、自動車の安全関連向けの試作開発用の仕事が増え始めしかも短納期。そこで昨年9月に新しいマシニングセンター(MC)を導入した。いろいろなことができる機械を前に、日比野の心は躍った。「これがあれば念願だった自社製品が作れる」―。日比野は本業をこなしながら、毎日、アイデアを巡らせた。おそらく3年前だったら日比野を微塵もそんなことを考えなかっただろう。

 日比野のマインドを劇的に変えたのは2年ほど前から関わり始めた「コマ大戦」の活動。北名古屋市を中心にしたチームのメンバーは、中小企業ながら多くが自社製品の開発に乗り出していた。中核メンバーのクリタテクノはラッピング加工でリングの内径の真円度を1ミクロン以下にした世界に一つだけの“円ゲージリング”を製品化し人気に。エイト工業も以前、チタンでリングを作って展示会などで披露したことがある。しかし、PRにはなったが「すごい技術ですね」で終わった。

 とにかく他社にできないものを作ろう、しかも外に自社ブランドで売れるものを。日比野の闘志にさらに火がついた。いろいろネットで調べていると、ステンレス製のカフスを販売している業者があった。しかしそれはただの丸い形。「こんなのは誰にでもできる」。日比野の製品イメージは固まった。
 
 昨年暮れから難削材のステンレスを使って、曲面を丁寧に加工する作業を繰り返した。100分の1をいじるだけで、模様が微妙に変化してしまう。キラキラ光るように、刃物の当て方を一面一面で変えながら綺麗に角を出すのは、まさに職人技。年明けに完成し、すぐにコマ大戦の仲間にフェイスブックで知らせた。
 
 モノを作ったはいいが、下請け企業だけに値付けやプロモーションの仕方も分からない。それも周りの仲間からいろいろアドバイスをもらった。一緒に売り出したタイカップを含め、入れ物の箱にもこだわった。「先代(父親)は綺麗にビニールでくるんだ注文品を出荷していた。そういうところは遺伝ですね」という。もちろん沢山売れれば嬉しいが、これで儲けるつもりはない。とにかく自社製品を生み出したという自負と、仲間に肩を並べられたという喜びが先にある。
 
 「全日本製造業コマ大戦」は、全国の中小企業が自社の誇りを賭けて作成した直径20ミリメートル以下の小さいケンカゴマを持ち寄り、土俵の上でぶつかり合い勝者を決めるイベント。全国各地で開催され、今年2月には世界6カ国のチームが参加した世界大会も開催された。

 なぜ、コマ大戦に参加した人は自社製品を作りたがるのか?日比野は「今まで明るいところに出たことのない裏方の下請けが、自分もできるんじゃないか?と触発される独特の雰囲気がある」と話す。
 
 愛知県のチームは強豪で名が通っている。今年9月には2013年に続き「北名古屋場所」が開催され、行政も全面的に支援している。日比野らのメンバーは約20人。30―40代で2代目経営者が多い。毎月2回ほど飲み会を開きながら、コマ大戦や自社の仕事について情報交換しているが、全国にも同じような風景が着実に広がっている。
(敬称略)

 

<プロフィール>
 日比野秀年(ひびの・ひでとし)
愛知県立犬山高等学校卒業後 株式会社上広金型で2年間、 株式会社タチ製機製作所で8年間修行して エイト工業に入社。身長182センチ、 体重 70キロ。 好きな食べ物は焼肉、お寿司、ラーメン。趣味ゴルフ




ニュースイッチオリジナル
「全日本製造業コマ大戦」公式ページ

明 豊

明 豊
06月28日
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この2、3年。新しい時代のメイカーズ(モノづくりの担い手)が注目されてる。日本には世界に冠たる町工場という産業レイヤー(階層)があり、彼らを「リアルメイカーズ」と呼ぶ人もいる。新事業や新製品を伸ばしたいという考えもあっていいし、日比野さんのように、外連身のない「下請け」として生きていく道もある。きっと本業にプラスになるはず。

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