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《TBS編》ザ・インタビュー#4~ベンチャー投資で挑む改革の真実~

片岡正光次世代ビジネス企画室投資戦略部次長「ベンチャーで挑戦してる人の熱量ってやっぱりすごい」
 インタビュー最終回はCVCの次のフェーズについて、です。

本当に新しい提案が嫌でノーだと言ってる人の世界観を否定しないこと


 ―人事部門との折衝になるんですか。
 「当然人事が絡むとタフネゴシエーションになるんで、やる以上、僕らとしてどこまでやるのかをちゃんと説明してコミットするしかない。『社内起業』というのは、サイバーエージェントさんみたいに最初からそれありきで会社設計されている企業ならいいけど、普通の会社はすごく難しいと感じます。とにかく一番ひっかかるのは人事」

 「例えばある部門からA君がいい企画を持ってきたとします。僕らに起業したいから支援してくと言ってきた。それじゃと、そいつをその部門からひっこ抜いて新規事業をやらせたとします。しかし現業部門からすると 『何だよ、あいつ優秀なのに、お前ら何勝手なことしてるんだよ!』みたいな感じになってしまう。それじゃ、こちらがいきなり敵対勢力になっちゃうじゃないですか。ある大手広告会社さんは社内ベンチャー経営者はひっこ抜きだと聞きました。それは社長がコミットしているから出来るそうです。僕は、うちのようなタイプの会社は、上と話しつつも現場とのネゴだと思います。上も下も腹落ちしないと必ず良い結果には繋がりません」

 ―それは大手企業の改革の過程でも本当に良くある話です。
 「ほんとに新しい話題や提案が嫌な人がいるんです。それは一概に否定すべきことではなくて、その人なりの思考回路とか合理性がある。例えば、ずっとある会社のシステムを使っていて、その会社と人的なパイプもあり、助けてもらって貸し借りもある。だから新しいものは必要なくて、これで十分、機能も満足しているんだと。近視眼的にみたら十分筋が通っています」

 「経営側からみると、すごいコストがかかっていて、機材も古いし代えられるなら代えたいけど、彼らの世界観で考えていることを僕は頭ごなしに否定すべきではないと思っています。だからすごく注意しているのは、本当に新しい提案が嫌でノーだと言ってる人に、あんまり色々言わないようにします。それよりは新しいことに挑戦したい人たちをどれだけ焚きつけて、その次はその周辺にいる人たちをどれくらい盛り上げていけるか。とにかく前向きなところを応援する方に力を使います」

 ―社内に人脈や目配せができる人ではないとこのポジションは務まらないですね。
 「上の支援と、社内のコミュニケーション能力がある人間がいないと厳しい部分があると思います」

 投資しない決断はすごく楽だが一歩踏み込むことに葛藤がある
 ―この2年ぐらいで、片岡さんにとって一番ハードだった仕事や決断は何ですか。
 「まず悩ましく感じるのは、社内で我々の活動をどう理解させていくか。僕らも社内でそれなりに展開力がないといけない。ベンチャーの人達は投資環境がいいんで、いろんな人から声がかかる。だからこちらに対して『何してくれるんですか?』という要求もすごくある。相手はベンチャーの経営者なので、スピード感がある。でもTBSの社内温度はそうでもない。その狭間ですよね。難しいのは」

 「投資しないと決断するのはすごく楽なんです。だけど一歩踏み込むのはきつくて自分の中ではいつもすごく葛藤しています。具体的にいまフォーカスしている投資領域は2つあって、一つはBtoBで本業の放送事業に関連したところ。これはうまくいきはじめている。BtoC関連のベンチャーの話を聞くと、だいたいが『宣伝協力して下さい』、というケースが多い。宣伝するのは投資しなくてもできますよね」

 ―BtoC領域には関心が低いということですか。
 「BtoCの方が難しいと感じてます。でもBtoC領域で、EC(電子商取引)分野はフォーカスしてます。なぜなら、我々も含めTVショッピングを各局やっていますが、成長が鈍っています。前は深夜にテレビをみました。面白いものが売ってる、さぁ、電話しよう!みたいなイベント的な感じだったでしょ。今は見た商品をネットですぐ検索して、配送期間、配送料など比べられてしまう。これまでのビジネスモデルがあっという間に通用しなくなる。だけどパブリシティーパワーがあるので、うまくネットのテクノロジーで革新が生まれるかもと考えがあるんです。ドラマなどでプロダクトプレイスメントとしては相性のいい商品もある」

 ―視聴行動と消費行動を結び付けるビッグデータを使って、宣伝費ではなくてクラアントの販促費を引き出すことは大きなチャンスだと思いますが。
 「そこは本当にあると思います。日本の広告出稿は頭打ちだけど、セールスプロモーションの費用はいくらと見積もれないくらいある。そこをビッグデータをフックにしてとりにいくマーケットはすごくある」

投資側にクリエイティビティ、コミットする根性、一緒にできるという思い込みがいる


 ―片岡さん、TBSにとってCVCはどういう存在なんですかね。会社にもたらしたものとか。
 「僕は会社の発展とか将来にとってものすごくいい取り組みだと思っています。ただ同時にすごく難しい事業なので、どうやったら会社の中で仕組みとして将来もちゃんと回っていくのかが重要です。やれるチャンスがあればいろんな会社がトライすべきスキームだと思いますが、うまく回すのにいくつかの条件が必要。もうちょっと標準化して、普通の部署みたいに、あれは経験者しかできないというのではなく、もう少しグループ内で一般的ものになるといい」

 「CVCをやって面白いと思ったのは、ファイナンスの知識が豊富でそちらの視点が利き過ぎるとベンチャーの投資は逆にできにくくなる。ベンチャー投資で重要なのは様々な要素をまとめるバランス感覚です。当然一定の財務分析はします。あとはプランですよね。プランは正直いうと、絵に描いた餅なので、何とでも言える。でも勝負はその絵に描いた餅をどう考えるかです。ベンチャーは全てがこれから、未成熟なのが当たり前です。当然、財務状況も脆弱です。それをまじめに上場会社の普段のルールで突き詰めると出資したくなくなっちゃう。その中でも光ってるところを見つけて自分たちのリソースと照らし合わせて、どうやって絵を描けるかが一番重要」

 「投資側にある種のクリエイティビティと、そこにコミットする根性、一緒にできるんじゃないか、という強い思い込みがいる。一般的な金融VCの人たちとちょっと見ているゾーンが違うと感じます。やっぱりCVCは事業会社の企業文化やリソースのことを分かっている人が中心になってやらないとうまくいきません。そして、その会社の未来像を発想豊に考えられる人ですね」

 ベンチャーとふれ合うことで圧倒的に人材として育っていく
 ―最後に片岡さんにとっては、ベンチャーとは何ですか。
 「ベンチャーとは人を育てる機会だと感じています。もちろんベンチャーの方々はものすごい勢いで成長されていくし、投資する事業会社側も、自分も含めて若い人などは特にベンチャーとふれ合うことで圧倒的に人材として育っていく。それは単に気持ちだけではなくて、年間で何百本とかベンチャーの事業をみるじゃないですか。数字をみて事業の進捗みていると、経営戦略的な意味でも、知見はすごくたまると思うんです。迅速にKPI(重要業績評価指標)みて、どうやってビジネス作っていっているのかを優秀なベンチャーのチームから色々と会得できます。ベンチャーで挑戦してる人の熱量ってやっぱりすごいんですよ!どんどん伝わっていく」

 「僕が一緒にやっているメンバーは前職が三井物産出身ですが、長い歴史を持つ三井物産が『挑戦しているか、していないか』をものすごく人材評価の基準にしているとききました。TBSも何かをやる時は、最初は僕らも成功させるために先頭で動きますけど、関わった人間が、自発的に新しいことに挑戦して、それで育って、企業にとってかけがえのない人材なって欲しい。会社側がCVCを人を育てるきっかのひとつと考えてくれるようになればいい。保守的にならないで新しく一歩踏み出した人間が賞賛される、そういうカルチャーを作りたいですね」

 <プロフィール>
 片岡正光(かたおか・まさみつ)東京放送ホールディングス次世代ビジネス企画室投資戦略部次長兼TBSイノベーション・パートナーズ(合)パートナー。
 1992年慶大卒、東京放送に入社。法人営業、事業開発、経営戦略に従事し、放送事業におけるビジネス領域全般にてキャリアを重ねる。2013年よりTBSイノベーション・パートナーズ(合)を設立しパートナーに就任、ベンチャーファンドを組成しCVC活動をスタートさせ戦略的な投資活動を進めている。早大学大学院商学研究科MBA修了

(ニュースイッチ編集部、取材協力=トーマツベンチャーサポート)
 ※この項おわり
本田知行
本田知行 Honda Tomoyuki バカン
いよいよ片岡さんの最終回。CVCの本質は戦略的リターンにあります。既存事業とのシナジーです。ベンチャー企業のメキキ力を理由に、外部の方に運営自体を全面的に任せているケースも多くあります。一方でCVCを社内で運営されている片岡さんが、社内で運用することの理由、難しさ、突破するためのヒントを示してくれています。

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