「見切り千両」三菱電機、がん治療装置事業を日立に売却
日立製作所は7日、三菱電機の粒子線治療装置事業を買収することで合意したと発表した。買収金額は非公表だが、数十億円規模とみられる。三菱電機は同事業から撤退する。関係当局の審査・承認を経て、2018年4月に事業を統合する。世界規模で粒子線治療が拡大する中、経営資源や顧客基盤を統合し受注拡大につなげる。
買収するのは三菱電機の粒子線治療装置に関わる設計、製造、販売、保守事業。対象の従業員数は約100人。買収で日立に出向する予定で、今後人員規模を詰める。また装置の製造は三菱電機の電力システム製作所(神戸市兵庫区)から日立の日立事業所(茨城県日立市)に移管する。
三菱電機は国内粒子線治療施設17施設のうち、9施設に装置を納入するなど国内シェア首位。だが受注実績は国内のみで海外への販路開拓が課題だった。一方、日立は北米・アジアなど世界13施設から装置を受注し、実績を積み上げている。放射線治療を注力分野の一つとし、16年に三菱重工業のX線治療装置事業も買収している。
粒子線治療は粒子線をがん細胞にピンポイントに照射する治療法で、治療効果が高く、副作用が少ないのが特徴。世界で70施設以上が稼働し、今後も年10施設以上の新規建設が見込まれている。
なお、三菱電機は量子科学技術研究開発機構が進める次世代重粒子線がん治療装置「量子メス」の研究に参画しているが、今後の対応は検討中としている。
神戸・和田岬にある電力システム製作所は、三菱電機発祥の地。原子力や火力など発電機器を供給してきた歴史ある工場だが、最近のフラッグシップはがん治療装置。これまでに国内で8施設に納入し、延べ1万6000人の治療実績がある。
電力システム製作所所長の福光裕之は、原子力の技術者だが事業の停滞を黙って見ているわけではない。「医療機器といっても、もとは粒子を高速で飛ばす加速器。そのほかにも電磁石や電源などここには原子力応用技術がたくさんある」。
福光と二人三脚で事業を推進するのが、磁気応用先端システム部長の築島千尋。市場拡大を見据え、先端技術総合研究所から引き抜かれた。
当初、築島は「品質に対する考えが研究所と工場ではレベルが違う」と戸惑いを感じた。しかし「異種の知」こそ装置のイノベーションにつながると考え、今は自ら製作所内外から人材をスカウトする役割も務める。
福光らが今最も力を入れているのは、比較的費用が安くて済む陽子線型の次世代機の開発。本社にかけあって今年春に、製作所内に実機をそのまま設置できる実証施設を稼働させた。照射時間を従来の4分の1の約30秒にするのが目標で、「患者の負担をできるだけ減らしたい」という。
医療機関からみると、導入費用がどこまで下がるかが関心事。社長の山西健一郎は生産技術センターにいた10年ほど前に装置の原価低減に取り組んだことがある。
「数多く作る製品ではなく、建屋を含め小型化するのは大変だった」と振り返る。次世代機は治療施設全体で約3割ほどコンパクトになり、16年春に稼働する大阪市内の病院の建設費は約50億円。「都市部の一般病院にも売り込める」(福光)コストに近づいてきた。
アベノミクスの成長戦略を担う先端医療装置の輸出。先週、欧州出張へ出かけた社長の山西は「フランス、ロシア、中東などから引き合いがある」と手応えを感じている様子。独シーメンスは難易度の高さから高機能の重粒子線型から撤退、くしくも同社は原発事業からも手を引いた。原発逆風の中、応用技術と医療ノウハウの融合は、世界でも大きな強みになりつつある。
(敬称略)
※内容、肩書は当時のもの
買収するのは三菱電機の粒子線治療装置に関わる設計、製造、販売、保守事業。対象の従業員数は約100人。買収で日立に出向する予定で、今後人員規模を詰める。また装置の製造は三菱電機の電力システム製作所(神戸市兵庫区)から日立の日立事業所(茨城県日立市)に移管する。
三菱電機は国内粒子線治療施設17施設のうち、9施設に装置を納入するなど国内シェア首位。だが受注実績は国内のみで海外への販路開拓が課題だった。一方、日立は北米・アジアなど世界13施設から装置を受注し、実績を積み上げている。放射線治療を注力分野の一つとし、16年に三菱重工業のX線治療装置事業も買収している。
粒子線治療は粒子線をがん細胞にピンポイントに照射する治療法で、治療効果が高く、副作用が少ないのが特徴。世界で70施設以上が稼働し、今後も年10施設以上の新規建設が見込まれている。
なお、三菱電機は量子科学技術研究開発機構が進める次世代重粒子線がん治療装置「量子メス」の研究に参画しているが、今後の対応は検討中としている。
日刊工業新聞2017年12月8日
「原子力」との相関
神戸・和田岬にある電力システム製作所は、三菱電機発祥の地。原子力や火力など発電機器を供給してきた歴史ある工場だが、最近のフラッグシップはがん治療装置。これまでに国内で8施設に納入し、延べ1万6000人の治療実績がある。
電力システム製作所所長の福光裕之は、原子力の技術者だが事業の停滞を黙って見ているわけではない。「医療機器といっても、もとは粒子を高速で飛ばす加速器。そのほかにも電磁石や電源などここには原子力応用技術がたくさんある」。
福光と二人三脚で事業を推進するのが、磁気応用先端システム部長の築島千尋。市場拡大を見据え、先端技術総合研究所から引き抜かれた。
当初、築島は「品質に対する考えが研究所と工場ではレベルが違う」と戸惑いを感じた。しかし「異種の知」こそ装置のイノベーションにつながると考え、今は自ら製作所内外から人材をスカウトする役割も務める。
福光らが今最も力を入れているのは、比較的費用が安くて済む陽子線型の次世代機の開発。本社にかけあって今年春に、製作所内に実機をそのまま設置できる実証施設を稼働させた。照射時間を従来の4分の1の約30秒にするのが目標で、「患者の負担をできるだけ減らしたい」という。
医療機関からみると、導入費用がどこまで下がるかが関心事。社長の山西健一郎は生産技術センターにいた10年ほど前に装置の原価低減に取り組んだことがある。
「数多く作る製品ではなく、建屋を含め小型化するのは大変だった」と振り返る。次世代機は治療施設全体で約3割ほどコンパクトになり、16年春に稼働する大阪市内の病院の建設費は約50億円。「都市部の一般病院にも売り込める」(福光)コストに近づいてきた。
アベノミクスの成長戦略を担う先端医療装置の輸出。先週、欧州出張へ出かけた社長の山西は「フランス、ロシア、中東などから引き合いがある」と手応えを感じている様子。独シーメンスは難易度の高さから高機能の重粒子線型から撤退、くしくも同社は原発事業からも手を引いた。原発逆風の中、応用技術と医療ノウハウの融合は、世界でも大きな強みになりつつある。
(敬称略)
※内容、肩書は当時のもの
日刊工業新聞2013年10月23日