品質不正、中間管理職に余裕を与えるために無駄な規則の廃止を
北海道大学教授・谷口勇仁氏に聞く
ー不祥事やコンプライアンス違反は2000代の雪印や三菱自動車はBツーCの問題でしたが、10年代後半は東洋ゴムや神戸製鋼、三菱マテリアルなどBツーBに広がっています。二重三重の対策がとられてきたはずです。
「法令違反や不正をすべて未然に防止することは不可能だ。上司が部下に仕事を任せる以上、必ず何らかの自由裁量を与える。そのすべてを監視することはできない。また不正をわかってやる確信犯は止められない。コンプライアンス違反や不正は大なり小なり彼方図存在しうる。つまりアウトプットで管理するよりもプロセスとして管理すべきだ。事故防止のヒヤリ・ハットのように早期発見、早期対応が望ましい」
ーアウトプット管理とプロセス管理とは。
「例えば工場や建設現場の事故ゼロ活動のように、発生確率がゼロでないものにゼロというアウトプットを求めると、現場で数字のつじつま合わせや労災隠しが起きかねない。それよりも上司に報告しやすい環境を整えて事例を集め、早期対応した方が建設的だ」
「また不祥事がギリギリ起きていない組織と、不祥事から縁遠い組織の判断が難しい。また発生件数が少ないため、10年に1回不祥事を起こす組織と、2回起こす組織の違いを判断するのは困難だ。結果だけを追い掛けていると不祥事が起こるまで経営から見えなくなってしまう」
ー不正を発生過程で止められますか。
「不正には『圧力』と『機会』、『正当化』の三要素がある。『圧力』は不正を起こす動機で、個人にとっては借金など、組織にはノルマやトラブルなどがある。『機会』は不正が露見しない方法や環境がそろうこと。『正当化』はみながやっていることだから、誰にも迷惑をかけないからと自分に言い聞かせてルールを破る。中間管理職が部下を見守る際に、三要素で整理すると把握しやすい」
ーこれまでの再発防止策では、不祥事の事案ごとに個別の未然防止策をとることが多かったです。
「個別対応は一般性がないが、早期発見・早期対応なら一元化できる。ただ再発防止策として新しく規則が次々に追加され、規則が増大する傾向にある。規則が乱立すると現場が身動きがとれなくなり、規則が形骸化するリスクが上がる。形骸化した規則は百害あって一利なし。とにかく整理すべきだ」
「特に製品や技術の社内規格は高すぎると形骸化しやすくなる。一つ規格を破って問題にならないと、安全マージン(安全確保のための余裕)が過剰だからと徐々に他の社内規格も守らなくなっていく。すると製品や技術の製造スペックが、要求範囲の下の方に集まっていく。高い水準の社内規格を掲げて達成した時はプライドになっても、そのメンバーが現場から去り規格だけが残されると厄介だ」
ー規則の策定がマネージャーの実績になることもあります。
「『あの役員が退職するまでは、この規則は外せない』といった声も聞く。ただ策定時から環境が変化することは多々ある。他にもある規則や規格を廃止すると他部署にしわ寄せがいくなど、影響範囲がわからないから守られているものもある。今回の不祥事はしがらみをひもとき、正す機会にできるのではないか。少なくとも、すでに守られておらず、競争力にもならない規則は廃止すべきだ。障害となるのはメンツくらいだが、メンツで競争力を落としていては元も子もない」
ー企業組織が多段階層の“ピラミッド型”から少数のトップの下に多数の従業員がフラットに並ぶ“鍋ぶた型”に移行しています。組織がフラット化し、中間管理職に責任が集中しました。それでも対応できますか。
「明快な解決策はない。現代の中間管理職は忙しすぎる。権限と責任が集中したことに加え、自ら業務を行いながらマネジメントするプレーイングマネジャーが増えた。中間管理職が日常業務で一杯一杯になり、不測の事態に対処する余裕を失っている。部下にとっては相談したくても席にいない。メールや電話で相談できる内容なら良い。だが、不正圧力は納期やトラブル対応が多く、部下が顧客に求められるまま、つじつまを合わせることになる。上司の無関心や関与しないことも不正圧力や動機になる」
「中間管理職に余裕がなければ報告は上がってこなくなり、早期発見は難しくなる。余裕を生むためにも無駄な規則や手続きは廃止すべきだ。違反行為が存在する前提に立ち、より早い段階で発見するための方策を考える。そして早期例は関係者を罰するのでなく、成功事例として共有すべきだ。単純にコンプライアンスを強化することは問題をより根深くする可能性がある」
(聞き手=小寺貴之)
「法令違反や不正をすべて未然に防止することは不可能だ。上司が部下に仕事を任せる以上、必ず何らかの自由裁量を与える。そのすべてを監視することはできない。また不正をわかってやる確信犯は止められない。コンプライアンス違反や不正は大なり小なり彼方図存在しうる。つまりアウトプットで管理するよりもプロセスとして管理すべきだ。事故防止のヒヤリ・ハットのように早期発見、早期対応が望ましい」
ーアウトプット管理とプロセス管理とは。
「例えば工場や建設現場の事故ゼロ活動のように、発生確率がゼロでないものにゼロというアウトプットを求めると、現場で数字のつじつま合わせや労災隠しが起きかねない。それよりも上司に報告しやすい環境を整えて事例を集め、早期対応した方が建設的だ」
「また不祥事がギリギリ起きていない組織と、不祥事から縁遠い組織の判断が難しい。また発生件数が少ないため、10年に1回不祥事を起こす組織と、2回起こす組織の違いを判断するのは困難だ。結果だけを追い掛けていると不祥事が起こるまで経営から見えなくなってしまう」
ー不正を発生過程で止められますか。
「不正には『圧力』と『機会』、『正当化』の三要素がある。『圧力』は不正を起こす動機で、個人にとっては借金など、組織にはノルマやトラブルなどがある。『機会』は不正が露見しない方法や環境がそろうこと。『正当化』はみながやっていることだから、誰にも迷惑をかけないからと自分に言い聞かせてルールを破る。中間管理職が部下を見守る際に、三要素で整理すると把握しやすい」
ーこれまでの再発防止策では、不祥事の事案ごとに個別の未然防止策をとることが多かったです。
「個別対応は一般性がないが、早期発見・早期対応なら一元化できる。ただ再発防止策として新しく規則が次々に追加され、規則が増大する傾向にある。規則が乱立すると現場が身動きがとれなくなり、規則が形骸化するリスクが上がる。形骸化した規則は百害あって一利なし。とにかく整理すべきだ」
「特に製品や技術の社内規格は高すぎると形骸化しやすくなる。一つ規格を破って問題にならないと、安全マージン(安全確保のための余裕)が過剰だからと徐々に他の社内規格も守らなくなっていく。すると製品や技術の製造スペックが、要求範囲の下の方に集まっていく。高い水準の社内規格を掲げて達成した時はプライドになっても、そのメンバーが現場から去り規格だけが残されると厄介だ」
ー規則の策定がマネージャーの実績になることもあります。
「『あの役員が退職するまでは、この規則は外せない』といった声も聞く。ただ策定時から環境が変化することは多々ある。他にもある規則や規格を廃止すると他部署にしわ寄せがいくなど、影響範囲がわからないから守られているものもある。今回の不祥事はしがらみをひもとき、正す機会にできるのではないか。少なくとも、すでに守られておらず、競争力にもならない規則は廃止すべきだ。障害となるのはメンツくらいだが、メンツで競争力を落としていては元も子もない」
ー企業組織が多段階層の“ピラミッド型”から少数のトップの下に多数の従業員がフラットに並ぶ“鍋ぶた型”に移行しています。組織がフラット化し、中間管理職に責任が集中しました。それでも対応できますか。
「明快な解決策はない。現代の中間管理職は忙しすぎる。権限と責任が集中したことに加え、自ら業務を行いながらマネジメントするプレーイングマネジャーが増えた。中間管理職が日常業務で一杯一杯になり、不測の事態に対処する余裕を失っている。部下にとっては相談したくても席にいない。メールや電話で相談できる内容なら良い。だが、不正圧力は納期やトラブル対応が多く、部下が顧客に求められるまま、つじつまを合わせることになる。上司の無関心や関与しないことも不正圧力や動機になる」
「中間管理職に余裕がなければ報告は上がってこなくなり、早期発見は難しくなる。余裕を生むためにも無駄な規則や手続きは廃止すべきだ。違反行為が存在する前提に立ち、より早い段階で発見するための方策を考える。そして早期例は関係者を罰するのでなく、成功事例として共有すべきだ。単純にコンプライアンスを強化することは問題をより根深くする可能性がある」
(聞き手=小寺貴之)
日刊工業新聞2017年11月30日