【岩瀬大輔】がん患者が企業で働くことを考えよう
中長期的に企業の競争力向上につながる
40代になって1年半、複数の同年代の友人が続けてがんを患った。私の親戚にはがん経験者がいないため、これまではご契約者様とのやりとりを通じて間接的に接してきた、いわゆる「国民病」が、一気に身近になった。
かつては「死に至る病」と考えられていたがんだが、近年は医療技術の進歩により「治療して長く付き合っていく病気」に変わりつつある。がんにかかってから5年生存する確率は69・4%だが、これも部位とステージによって大きく異なる。
乳がんは全ステージ平均で93・6%。早期発見できれば生存率はさらに高まる。私の友人も手術後に1週間ほど入院した後は通院で治療するという。仕事にもすぐに復帰するそうだ。
がんの治療をしながら仕事を続けることは、治療費を稼ぐという経済的な意味だけでなく、患者が社会と関わり続けることで、生きる力をみなぎらせる意味も大きい。そのため政府や自治体は「がん就労者」の支援に取り組んでいる。
ただ、残念ながら、がん就労者を受け入れる企業の体制整備は遅れているのが実情だ。社員が安心して治療に専念し、復帰後に働きやすくするため、雇用者ができることは決して少なくない。
企業が社会的な責任を果たす目的だけでなく、就労環境を整えることで有能な人材を確保するためにも重要だ。がんをはじめ、病気に罹患した従業員が働きやすい環境を整えることは、中長期的に企業の競争力向上につながると言えるかもしれない。
では、企業がすべきこととは何か。まず、社員の健康に関する意識を高め、がん検診の受診を促進することだ。検診費用を補助するだけでなく、再検査の実施まで徹底してフォローすることが求められる。
次に、がん就労者のニーズに応じた多様な働き方を用意することだ。私の友人は、「治療のたびに有給休暇を申請するのが大変」とこぼしていた。
時短勤務や在宅勤務、テレワークを可能にすることで通勤の負荷が軽減できる。療養しながら働きたいという社員の後押しとなるだろう。もちろん各種休暇制度の充実も大事だ。半日単位や時間単位の休暇を取得しやすくするべきだ。
手前みそだが、ライフネット生命では、全社員の看護休暇の未消化分を積み立てて、がんの社員が使える制度を導入している。やむを得ず病気退職した社員の再雇用制度も検討に値しよう。
第三に、がん就労者を受け入れる周囲のリテラシー向上だ。がんが「死に至る病」という思い込みは意外に根深く、がん就労者を腫れ物に触るように扱いがちだ。
正しい知識を得ることが重要で、ある会社では50代の社員ががん就労者となった際に自身の病状を社内報で情報発信したという。
全ての会社で実行できることではないかもしれないが、一人ひとりに説明する手間が省け、受け入れ側の理解も進む好例と言える。
がん就労者が生き生きと働ける社会を作るため、ライフネット生命にできることはないだろうか。そう考え、「がんと就労」について企業を啓発するプロジェクト「がんアライ部」を発足させた。
一般社団法人キャンサーペアレンツ代表の西口洋平氏やクレディセゾン取締役の武田雅子さんらに発起人としてご参画いただいている。
具体的には人事・総務担当者を集め勉強会を開くことで、がん就労について先進的な人事制度や取り組みを共有し、がん治療をしながら働くことが自然に受け入れられる社会の実現を目指す。賛同いただける企業の参加を心待ちにしている。
がんに関する情報を発信・共有するウェブサイトの開設も検討中だ。お見舞いの手土産と言えば切り花が定番だが、がん患者の友人に聞いたところ、入院中に一番うれしかった差し入れは「のりのつくだ煮」だったという。病院食が薄味だからだそうだ。
あくまで一例だが、こういった情報は、実際に闘病した方やその家族でないと分からない。情報の発信・共有が、がん患者やその家族の役に立つことを期待している。
かつては「死に至る病」と考えられていたがんだが、近年は医療技術の進歩により「治療して長く付き合っていく病気」に変わりつつある。がんにかかってから5年生存する確率は69・4%だが、これも部位とステージによって大きく異なる。
乳がんは全ステージ平均で93・6%。早期発見できれば生存率はさらに高まる。私の友人も手術後に1週間ほど入院した後は通院で治療するという。仕事にもすぐに復帰するそうだ。
がんの治療をしながら仕事を続けることは、治療費を稼ぐという経済的な意味だけでなく、患者が社会と関わり続けることで、生きる力をみなぎらせる意味も大きい。そのため政府や自治体は「がん就労者」の支援に取り組んでいる。
ただ、残念ながら、がん就労者を受け入れる企業の体制整備は遅れているのが実情だ。社員が安心して治療に専念し、復帰後に働きやすくするため、雇用者ができることは決して少なくない。
企業が社会的な責任を果たす目的だけでなく、就労環境を整えることで有能な人材を確保するためにも重要だ。がんをはじめ、病気に罹患した従業員が働きやすい環境を整えることは、中長期的に企業の競争力向上につながると言えるかもしれない。
では、企業がすべきこととは何か。まず、社員の健康に関する意識を高め、がん検診の受診を促進することだ。検診費用を補助するだけでなく、再検査の実施まで徹底してフォローすることが求められる。
次に、がん就労者のニーズに応じた多様な働き方を用意することだ。私の友人は、「治療のたびに有給休暇を申請するのが大変」とこぼしていた。
時短勤務や在宅勤務、テレワークを可能にすることで通勤の負荷が軽減できる。療養しながら働きたいという社員の後押しとなるだろう。もちろん各種休暇制度の充実も大事だ。半日単位や時間単位の休暇を取得しやすくするべきだ。
手前みそだが、ライフネット生命では、全社員の看護休暇の未消化分を積み立てて、がんの社員が使える制度を導入している。やむを得ず病気退職した社員の再雇用制度も検討に値しよう。
第三に、がん就労者を受け入れる周囲のリテラシー向上だ。がんが「死に至る病」という思い込みは意外に根深く、がん就労者を腫れ物に触るように扱いがちだ。
正しい知識を得ることが重要で、ある会社では50代の社員ががん就労者となった際に自身の病状を社内報で情報発信したという。
全ての会社で実行できることではないかもしれないが、一人ひとりに説明する手間が省け、受け入れ側の理解も進む好例と言える。
がん就労者が生き生きと働ける社会を作るため、ライフネット生命にできることはないだろうか。そう考え、「がんと就労」について企業を啓発するプロジェクト「がんアライ部」を発足させた。
一般社団法人キャンサーペアレンツ代表の西口洋平氏やクレディセゾン取締役の武田雅子さんらに発起人としてご参画いただいている。
具体的には人事・総務担当者を集め勉強会を開くことで、がん就労について先進的な人事制度や取り組みを共有し、がん治療をしながら働くことが自然に受け入れられる社会の実現を目指す。賛同いただける企業の参加を心待ちにしている。
がんに関する情報を発信・共有するウェブサイトの開設も検討中だ。お見舞いの手土産と言えば切り花が定番だが、がん患者の友人に聞いたところ、入院中に一番うれしかった差し入れは「のりのつくだ煮」だったという。病院食が薄味だからだそうだ。
あくまで一例だが、こういった情報は、実際に闘病した方やその家族でないと分からない。情報の発信・共有が、がん患者やその家族の役に立つことを期待している。
【略歴】岩瀬大輔(いわせ・だいすけ)=ライフネット生命保険社長。98年(平10)東大法卒。ボストンコンサルティンググループなどを経て、米ハーバード大経営大学院留学。06年副社長としてライフネット生命を立ち上げ、13年6月から現職。埼玉県出身、41歳。著書に『がん保険のカラクリ』など。
日刊工業新聞2017年10月23日