3Dセンシングで体操競技を採点、富士通が“金メダル“狙う
20年に実用化、国際体操連盟と提携
富士通は、国際体操連盟と提携し、2020年の実用化を目指して、体操競技の採点支援システムを共同開発する。競技中の選手の動きを3次元(3D)で検出し、目視では分かりにくい回転やひねりなどを公正かつ正確に支援するシステムを開発する。
国内では日本体操協会と研究を進めており、今回の提携により、“本丸”としていた東京五輪・パラリンピックでの実用化が本決まりとなった。
採点支援システムは18年にカタールで開催予定の世界体操競技選手権大会でテスト使用する予定。これに先駆け、2―8日にカナダで開催された「第47回世界体操競技選手権大会」で、採点に必要な3Dデータを取得するなど、開発の現場は国際舞台へと移行した。
身につけるウエアラブル端末やセンサーなどの機能が高度化し、身体の動きや生体情報までをきめ細かく捕捉できる環境が整いつつある。見守りや健康管理など用途は幅広いが、とりわけユニークなのはスポーツ分野での活用だ。選手の健康管理に加え、競技データの分析などへの期待は大きい。2020年東京五輪・パラリンピックに向けて「スポーツ×IoT(モノのインターネット)」の新潮流が盛り上がっていくのは必至。IT・情報サービス各社はあの手この手でスポーツ分野でのビジネス展開を模索している。
富士通は3D画像圧縮や合成技術、解析手法を駆使して、IoT活用によるスポーツセンシングの実用化に取り組んでいる。当面の目標は体操競技への適用だ。
日本体操協会からの要請を受け、15年秋ころから開発に着手した。高精度の3Dセンサーで記録した競技中の選手の動きをコンピューター処理して、関節座標を可視化して分析するシステムを検討中だ。通常のカメラ映像のみでは分かりにくい身体の重心の位置や角度を数値データで確認したり、360度で分析したりできるようにする。
15年12月には鈴木大地スポーツ庁長官が日本体育大学健志台キャンパスを訪れて、白井健三選手をはじめとする日本体育大学体操競技部の練習を視察した。鈴木長官は「これまで経験と感性のみに頼っていた世界に“科学の目”を入れることで、選手の強化はもとより、見る楽しみにも役立つ」と期待を寄せた。
視察には日本体操協会に加え、ITベンダーとして富士通とセイコーも参加し、それぞれが開発への取り組みを紹介した。ここで語られたのは「観客、選手、審判」という三つの視点だ。
体操競技が年々高度化するなか、“観客”には技の難易度が分かりにくく、解説を聞いて理解しているのが現状。「難易度が即座に表示されれば競技のすごさがリアルタイムに体感できる」(日本体操協会)。
“選手”向けは現在、指導と練習にカメラ映像を用いている。3Dのスポーツセンシングで数値化したデータを生かすことで、一流選手とのギャップを見ながら最適な身体の動かし方を確認することも可能となる。
“審判”向けは採点の支援を目指す。選手の技をリアルタイムに認識し、難易度なども可視化できれば微妙な判定にも役立つ。セイコーは新体操の審判向けモニタリングシステムを開発。各審査員が何を減点したかを秒単位で記録し可視化できる。
開発プロジェクトの出発点は1年前。富士通がゴルフ練習用に提供していた3Dセンシング技術を日本体操協会幹部にみせたところ「体操でもやれないか」と相談を受けた。
早々に社内に持ち帰ったものの、体操の技は800種類を超え、「初心者がいきなりフォーミュラ1(F1)レースに挑むような状況だった」と藤原統括部長は振り返る。
試行錯誤の末、パソコンの光磁気ディスクの読み書きに使うレーザー技術の活用を考案。国際体操連盟(FIG)のブルーノ・グランディ会長が来日した際に実用化のイメージを伝えると「私が長年目指していたことだ」と賛同を得た。
15年12月に鈴木大地スポーツ庁長官が日本体育大学の体操部を視察した際にも披露した。「経験と感性のみに頼っていた世界に科学の目を入れる意義は大きい」と鈴木長官は高く評価した。
3Dセンシング技術は審判員以外に観戦者や選手にも恩恵をもたらす。例えば判定時間が短縮すれば観戦の楽しみが増す。選手は練習中に技の採点を確かめたり、調子の良しあしをデータで確認したりできる。
「競技の魅力が上がれば会場に足を運ぶファンが増え、興行収入も増える。その資金を選手の強化に回せば好循環のサイクルが生まれる」(藤原統括部長)。日本体操協会と富士通が目指す、もう一つの金メダルは3Dセンシングを日本発の世界標準とすることだ。
日刊工業新聞2016年5月4日
国内では日本体操協会と研究を進めており、今回の提携により、“本丸”としていた東京五輪・パラリンピックでの実用化が本決まりとなった。
採点支援システムは18年にカタールで開催予定の世界体操競技選手権大会でテスト使用する予定。これに先駆け、2―8日にカナダで開催された「第47回世界体操競技選手権大会」で、採点に必要な3Dデータを取得するなど、開発の現場は国際舞台へと移行した。
日刊工業新聞2017年10月9日
日本発の世界標準へ
身につけるウエアラブル端末やセンサーなどの機能が高度化し、身体の動きや生体情報までをきめ細かく捕捉できる環境が整いつつある。見守りや健康管理など用途は幅広いが、とりわけユニークなのはスポーツ分野での活用だ。選手の健康管理に加え、競技データの分析などへの期待は大きい。2020年東京五輪・パラリンピックに向けて「スポーツ×IoT(モノのインターネット)」の新潮流が盛り上がっていくのは必至。IT・情報サービス各社はあの手この手でスポーツ分野でのビジネス展開を模索している。
富士通は3D画像圧縮や合成技術、解析手法を駆使して、IoT活用によるスポーツセンシングの実用化に取り組んでいる。当面の目標は体操競技への適用だ。
日本体操協会からの要請を受け、15年秋ころから開発に着手した。高精度の3Dセンサーで記録した競技中の選手の動きをコンピューター処理して、関節座標を可視化して分析するシステムを検討中だ。通常のカメラ映像のみでは分かりにくい身体の重心の位置や角度を数値データで確認したり、360度で分析したりできるようにする。
15年12月には鈴木大地スポーツ庁長官が日本体育大学健志台キャンパスを訪れて、白井健三選手をはじめとする日本体育大学体操競技部の練習を視察した。鈴木長官は「これまで経験と感性のみに頼っていた世界に“科学の目”を入れることで、選手の強化はもとより、見る楽しみにも役立つ」と期待を寄せた。
視察には日本体操協会に加え、ITベンダーとして富士通とセイコーも参加し、それぞれが開発への取り組みを紹介した。ここで語られたのは「観客、選手、審判」という三つの視点だ。
体操競技が年々高度化するなか、“観客”には技の難易度が分かりにくく、解説を聞いて理解しているのが現状。「難易度が即座に表示されれば競技のすごさがリアルタイムに体感できる」(日本体操協会)。
“選手”向けは現在、指導と練習にカメラ映像を用いている。3Dのスポーツセンシングで数値化したデータを生かすことで、一流選手とのギャップを見ながら最適な身体の動かし方を確認することも可能となる。
“審判”向けは採点の支援を目指す。選手の技をリアルタイムに認識し、難易度なども可視化できれば微妙な判定にも役立つ。セイコーは新体操の審判向けモニタリングシステムを開発。各審査員が何を減点したかを秒単位で記録し可視化できる。
開発プロジェクトの出発点は1年前。富士通がゴルフ練習用に提供していた3Dセンシング技術を日本体操協会幹部にみせたところ「体操でもやれないか」と相談を受けた。
早々に社内に持ち帰ったものの、体操の技は800種類を超え、「初心者がいきなりフォーミュラ1(F1)レースに挑むような状況だった」と藤原統括部長は振り返る。
試行錯誤の末、パソコンの光磁気ディスクの読み書きに使うレーザー技術の活用を考案。国際体操連盟(FIG)のブルーノ・グランディ会長が来日した際に実用化のイメージを伝えると「私が長年目指していたことだ」と賛同を得た。
15年12月に鈴木大地スポーツ庁長官が日本体育大学の体操部を視察した際にも披露した。「経験と感性のみに頼っていた世界に科学の目を入れる意義は大きい」と鈴木長官は高く評価した。
3Dセンシング技術は審判員以外に観戦者や選手にも恩恵をもたらす。例えば判定時間が短縮すれば観戦の楽しみが増す。選手は練習中に技の採点を確かめたり、調子の良しあしをデータで確認したりできる。
「競技の魅力が上がれば会場に足を運ぶファンが増え、興行収入も増える。その資金を選手の強化に回せば好循環のサイクルが生まれる」(藤原統括部長)。日本体操協会と富士通が目指す、もう一つの金メダルは3Dセンシングを日本発の世界標準とすることだ。
日刊工業新聞2016年5月4日