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“ロボット立県”から世界の Fukushimaへ

2020年の「ワールド・ロボット・サミット」一部開催も弾みに
“ロボット立県”から世界の Fukushimaへ

「福島ロボットテストフィールド」の公式サイトより

 福島をロボット技術の世界的な発信地に―。政府と福島県は、東日本大震災で被害の大きかった現地をロボット産業の集積地として再生しようと動き出した。福島県は今年5月に「ふくしまロボット産業推進協議会」を設立。2020年にはロボットの国際競演会「ワールド・ロボット・サミット(WRS)」も開かれる。WRSは先端技術を通じた被災地復興を世界にアピールする上でも、絶好の機会となる。

 世界中のロボット技術が日本に集結―。経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催し、2018年と20年に開催するWRS。

 ものづくり、災害対応などに関する計8種の競技を行い、技術革新や国際標準の獲得につなげる。政府が15年に策定した「ロボット新戦略」で目玉に位置付ける取り組みだ。

 20年の本大会ではインフラ・災害対応分野の一部競技を「福島ロボットテストフィールド(福島県南相馬市)」で行う。次世代ロボットの開発に寄与する大規模実証拠点として、18年度から順次開所する計画だ。

 面積約50万平方メートルの中に、トンネル、橋梁、屋外大型水槽、滑走路などを集約。陸・海・空の多様な実証環境を提供し、各種ロボットの実用化を後押しする。

 トンネルのような大型設備のほか、屋内には電波暗室、降雨試験機、防爆試験装置なども配備予定。国際産学官共同施設として、利用を促す方針だ。

 地元・福島県のロボット産業への取り組みも活溌化している。「ふくしまロボット産業推進協議会」は、産学官連携で会員相互交流の活性化や技術基盤の強化を進め、ロボット関連産業の集積や取引拡大を目指している。

 内堀雅雄福島県知事も「産学官連携をさらに深め、福島県を『ロボット産業革命の地』として発信し、世界で広く認知されることを目指していく」と話す。

 装着型で身体機能を改善・補助・拡張・再生するロボット技術「HAL(ハル)」で知られるサイバーダインは、福島県郡山市に「次世代型多目的ロボット化生産拠点」を新設した。

 山海嘉之社長は「福島県は東日本大震災と原発事故の被害を受けた。福島の復興が日本全体で取り組むべき課題だ。ハルで培った人・ロボットの融合技術を活用すれば作業者とロボットが協働する新技術が構築できる」と話す。

 さらに「福島の拠点では次世代型のモノづくりに挑みたい。生産品目としてハルは部品点数が多くていきなりは難しい。構造が比較的シンプルな手のひらサイズの心電・動脈硬化計『バイタルセンサー』から始める」という。

 福島県はロボット関連産業を担う人材育成にも力を入れる。今月14日からを「ロボット関連人材育成研修」をスタート。ロボット制御技術を中心に関連産業が求める技術などを幅広く講義する。

 テクノアカデミー郡山(福島県郡山市)とテクノアカデミー浜(同南相馬市)で来年3月までの土・日曜日に17回実施する。C言語でのプログラミング経験を持つロボット関連企業の社員が対象で全日程の受講が条件だ。

 一方、政府も原発事故の被災地にロボット研究開発拠点などを整備する「福島イノベーション・コースト構想」の実現に向け、省庁連携組織を新設する方針で今秋に初会合を開く。

 構想では、原発事故で住民と企業が流出した沿岸部に、新たな産業を興すのが目的。国、県によるロボットや飛行ロボット(ドローン)に関する研究施設の整備を打ち出している。
「福島ロボットテストフィールド」の公式サイトより

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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
国際ロボット展を開催するなどロボット産業と昔から縁の深い日刊工業新聞でもできるだけお手伝いできれば。

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