<名将に聞くコーチングの流儀#07> クボタスピアーズ フラン・ルディケHC

良い人間が良いチームをつくり、 未来の可能性を広げる

 ラグビー界の名将が日本で手腕を振るう。国際リーグ、スーパーラグビーの名門チーム「ブルズ」を2度優勝に導き、2015年のワールドカップではフィジー代表のフォワードコーチを務めたフラン・ルディケ氏が16年、クボタスピアーズヘッドコーチ(HC)に就任した。ジャパンラグビートップリーグで伝統あるチームに、名将の勝つノウハウを新たなDNAとして残し、躍進を目指す。その改革のモットーは“チームファースト”。選手、スタッフ全員が1つのチームとなり戦うためには、目指す姿を描き、それを共有すること。そして1人ひとりの成長をチームの土台として地盤を固める。ラグビーの技術だけではない、人間力を高める取組みが、プレーの場でも成果を残しつつある。ルディケ流チーム改革の神髄に迫る。

“Me better, We better”


自分が良くなり、チームも良くなる
─クボタスピアーズを率いて2年目になりました。どのようにチームを改革されていますか。
 「1年目はざっくりとした私たちのビジョンである“クボタウェイ”をつくり、2年目のプレシーズンでは、そのクボタウェイをもっと完璧なものとするために細かい点に取り組んでいます。選手全員の理解度が上がってきて、チームの強みや選手それぞれの個性もわかってきました。そしてトップリーグの競合チームについても詳しく理解し、今年はポイントを絞ったトレーニングができるようになり、具体的な戦術を立てられるようになってきています」

 「今年のスローガンは「Me better, We better」。自分が良くなってチームも良くなるという意味です。『Me better』、つまり自分たちが良くなろうという狙いは、ラグビーのやり方や文化、環境の理解を高めること。『We better』は、チームとして良くなることを目指します。プレースタイルでいうと、トライを多くとる、そして失トライ数を減らすことに取り組んでいます」
 


 ─クボタウェイで描くビジョンとは。
 「クボタウェイはフィールドの中と外のそれぞれにビジョンがあります。フィールドの中では、自分たちのプレーの弱みと強みを知り、補うべきところを明確にすること。具体的なポイントは3つあります。1つ目はボールを長く保持すること。そして2つ目はボールを持って相手を崩すこと。相手がどういうディフェンスをするのかを読むスキルが必要です。そして3つ目が、それを得点に変えること。攻守が整っていない状態を指す「アンストラクチャー」時での攻撃がわれわれの強みですが、昨年、トライ数の70%はアンストラクチャーから得点に結びついたという分析結果もわかりました」

 「一方、フィールド外では、文化や環境において、これまで先人たちが築いてきた伝統を大切にしながら、新たな息吹を吹き込むことです。そして、“クボタマン”としてのプライドを持つこと。クボタマンは、フィールドの中、外にかかわらず会社の代表。つまり広告塔です。クボタマンであるかが、選手を採用するときの基準となります」
 


どんな状況でも“ブルーヘッド”でいること


 ─“クボタマン”として見極めるポイントとは。
 「まずは人柄を見ます。私は「良い人間が良いチームをつくる」と信じています。具体的にいうと、“ブルーヘッド”であるかということ。ブルーヘッドとは、どのような状況でも感情的にならず冷静に判断する力です。そして、劣勢に置かれた状況や、相手に押しつぶされる“タフな”試合でも戦うことをあきらめず、盛り返そうとする気概を持つことです」

 「もう1つのポイントは、スマートであるか。これは自分の役割、仕事を理解し、それを実行する力です。プレーを見ればラグビーのスキル面から良い選手を判断できますが、心の中は見えません。スピアーズは、良いハートを持った選手を仲間に迎えていきたいと思っています」

 ─ブルーヘッドの力を養うために、どのように鍛えていますか。
 「なるべく強いチームと対戦し、タフな試合をシミュレーションする環境をつくっています。ブルーヘッドとは逆の、感情をコントロールできない“レッドヘッド”になってしまったら、その原因がテクニックだったのか、それともプレッシャーや判断力にあったのか、何が問題だったのかを考えさせるようにしています。もし判断を誤ってしまっても、大事なのはミスをした後の対応。リモコンで次へ次へとチャンネルを変えるように、すぐに気持ちを切り替え、修正して次に活かすことが重要です」

的確な判断を正しく伝える力


 ─今年から新たに取り入れた練習や取組みはありますか。
 「リーダーシップや責任感の醸成に注力しています。4つのリーダーシップグループをつくり、チームプレーで責任感を持たせる取組みを始めました。ベテランと若手の混合チームで試合の勝敗からなぜ勝ったのか、負けたのかを分析し、次に戦う試合の戦術プランを話し合う機会を設けています」

 「そして各チームには、ポジション的役割からリーダーシップを発揮してほしい選手をリーダーに抜擢。特に、9番(スクラムハーフ)、10番(スタンドオフ)、15番(フルバック)の3つのポジションは攻撃をコントロールする役割があるのでコミュニケーション力が重要です。ラインアウトの外からボールを投げ入れるスロワーの役割も担う2番(フッカー)は、スクラムでも確実にボールを獲得する重要なポジションで、リーダーシップが求められます。大事な時間帯で正しい判断ができるか、その情報を正しく伝えられるかによって勝敗を左右します。勝つためには、強力なリーダーシップとコミュニケーションが必要不可欠なのです。キャプテンの立川理道選手は日本代表のキャプテンでもあり、リーダーの模範となっています」
 
ビジョンを見える化することで目指す姿を共有する


 ─取組みの成果が試合で発揮された場面はありましたか。
 「昨年のリコー戦は、フィールド上でリーダーシップが発揮された試合でした。残り90秒、負けている状態で自陣から攻め続け、逆転トライを決めて勝利を収めました。プレッシャーの中でも粘り強く攻め切った結果です。負けた試合でも接戦で負けることが増え、試合内容のレベルが上がっています。昨年と比べてリーダーシップ力が成長していると実感しています」

 

過去のドアを閉め、未来のドアを開く


 ─かつて教師もされていましたが、その経験がコーチングにも活かされていますか。
 ルディケ「教育とコーチングは共通しています。どちらも急に成長するのではなく、水をやり続けるようにプロセスを踏みながら徐々に成長していくもの。まずは、生徒・選手を成長させるためには、家族、好きなもの、嫌いなものなど個人を良く知り理解することです」

 「そして、どのように情報を伝えたら生徒(選手)はより理解ができるかと考えて、コーチングスタイルを適宜変え続けていく必要があります。情報が多くあればいいものではなく、その活かし方のバランスが重要です。スピアーズにおいても、1年目は私の考えや方針を説明することに重きを置きましたが、2年目は選手たち自身に考えさせ、責任を持たせるようなやり方に変えました」

─ルディケHCの指導者としての信念とは。
 「私の人生の哲学としているのが、「(一番いいのは)これからだ」ということ。かつて私はスーパーラグビーでブルズというチームを2度優勝に導きました。しかし、それは過去のことであり、人生のピークではありません。たとえば、海外の銀行では後ろのドアを閉めなければ前のドアが開かない構造になっています。それと同じように、過去のドアを閉めなければ未来のドアは開かないと思っています」

 「より良い結果を導くためには、4つのポイントがあります。1つは、過去のドアをどうやって閉めたのか、つまり『なぜそうなったのか』を考えること。2つ目は、ビジョンを明確にして可能性を広げること。盆栽のように小さく才能を切り取られてしまうような状況にいたら、のびのびと育つことができる環境に変えた方がいいです」
 
 「3つ目は、仲間ともっといい関係性を築くこと。チームは1人で築くことはできません。一緒に協力し合える仲間がいてこそ完成するものです。そして4つ目は、いい習慣を身につけること。同じことを繰り返していては成長しません。この4つのポイントがさらに良くしていくための秘訣です。今は目標に向かう道の途中。選手、スタッフ全員を成長させ、勝つ文化を残していきたいです」
(聞き手、文=日刊工業新聞出版局・永井裕子)

〈私のコーチングの流儀〉


 過去のドアを閉めて、未来のドアを開ける。どんなに素晴らしい成績を収めたとしても、その時が絶頂期ではありません。もっといい時は、この先の未来にあると信じています。


〈略歴〉
フラン・ルディケ(Frans Ludeke)
1968年、南アフリカ生まれ。2008〜2015年の8年間、スーパーラグビー「ブルズ」のヘッドコーチを務め、2009、2010年の2回、同チームを優勝に導いた。スーパーラグビー歴代最多の149試合で指揮を執る。2015年、ラグビーワールドカップではフィジー代表フォワードコーチを務めた。家庭では8歳、4歳の3つ子の4児の父。現在、日本語を勉強中。


日刊工業新聞「工場管理2017年10月号」」

宮里 秀司

宮里 秀司
10月06日
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「“タフな”試合でも戦うことをあきらめず、盛り返そうとする気概を持つ」ー。こうしたプレイヤーがチームを引っ張り、ひいては勝利につながっていくのではないでしょうか。今シーズンはまだ始まったばかり。今後のクボタの戦いに注目です。

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