「はじめよう、お金の地産地消」 NPOバンクという存在感

<情報工場 「読学」のススメ#40>地域住民から出資を募り、地元NPOに無担保融資

 事業を始めようとするときにはお金が必要だ。しかし、たとえばNPO法人が、銀行などの金融機関から資金を借り入れようとすると、かなりの困難に直面することが多いのが現状だ。担保がなかったり、金融機関が求める基準に事業性が達していなかったりもするからだ。

 一方、世の中には、そういった新事業に自分の資金を預けてもいいという人もたくさんいる。とくに自分の住む地域が課題を抱えており、ある程度の資金があれば解決できそう、といった場合だ。

 本書『はじめよう、お金の地産地消』のテーマは、そうしたお金の循環をどのように作っていくかだ。著者の木村真樹さんは、さまざまな試行錯誤を重ねた末に、地域に「お金のエコシステム」を構築するのに成功した。本書に描かれるのは、木村さんたちが東海地方に設立したNPOバンク「コミュニティ・ユース・バンクmomo」における取り組みである。
   

 momoは、これまでの金融機関の基準では貸せないようなNPOにも進んで融資する。そのNPOが取り組む事業の、意義や将来性をしっかりと見きわめた上で、だ。momo自体の資金源は「志金」と呼ぶ出資者から集めたお金。あたかも地元で獲れた野菜を地元で美味しくいただくように、地域内でお金が循環するこのシステムを著者は「お金の地産地消」と呼んでいる。

 momoは法的には貸金業者の扱いだ。「NPOバンク」という肩書きのとおり、NPO法人を中心に、ソーシャルビジネスを行う事業者に小口の資金を無担保・低金利で融資する。

 NPOと聞くと「どうやってご飯を食べているのだろう」「運営費がどこから湧いてくるかがわからない」といった疑問を持つ人も多いのではないだろうか。

 一般企業とは異なりNPOは、「非営利組織」と訳されるように営利を目的としていない。資金は会費や寄付金で賄われていることが多い。だが、現実には資金不足に悩むNPOは少なくなく、NPOといえどもしっかりと稼ぎ、利益を次の事業に再投資するビジネスモデルが求められる。momoはそうした事業を支援しているのだ。

地域に貢献できるかを厳格に審査し10年間貸し倒れゼロ


 momoが融資を判断するプロセスは透明かつ厳格だ。融資を希望するNPO法人などの事業者は、詳細な「事業内容説明書」を提出した上でmomoの面談を受ける。面談では約30人が事業内容、事業の見通し、組織体制などについて、突っ込んで聞くのだという。

 NPOは、組織の基盤が十分しっかりしていないケースも珍しくない。安定して事業を行える環境があるかどうかは重要なチェックポイントだ。そうしたことを勘案してmomoは88項目にもわたるチェックリストをもとにヒアリングを行っているのだそうだ。

 それほど規模が大きくないNPOの審査に、30人もの多人数が携わるのには理由がある。地域との関わり、地域への貢献について多様な視点で評価する必要があるからだ。
 そのNPOが行う事業が、本当に地域にとって必要なのか。ニーズを適切にとらえているか。そういったことをしっかり見きわめなくてはならない。ビジネスの良し悪しだけなく、地域住民の生活者としての視点も入れて審査することは、momoにとって自身のアイデンディディに関わる重要な要素なのである。

 実は審査はそれだけでは終わらない。融資の最終決定にあたっては、2人以上のmomoの理事が実際にNPOの事務所や活動拠点を訪問、現場を確認するというプロセスを経なければならない。

 こうした厳しいチェックの結果、最終的に融資決定に至るのは全体の3割から5割という。入り口でのそうした綿密なプロセスにより、momoは10年間「貸し倒れゼロ」なのだそうだ。

 「志金」を出す方に目を向けると、一般の金融機関とは異なり、元本は保証されず、利子や配当も出ない。そのかわり、メールマガジンやウエブサイトで融資先の情報は逐一伝えられる。具体的にどんなふうにお金を使っているのか、資金の行き先を共有できるのだ。さらに、融資先への訪問ツアーなどのイベント企画も。出資者と融資先のNPOが「顔の見える」関係になれるのだ。

理想はNPOバンクが必要なくなること


 印象的なのは、momoが「社会的投資収益率」との概念を重視していることだ。これはNPOの「社会的価値」を定量的に把握するものだ。ソーシャルビジネスの生み出した成果を金額に換算し、コストに対してどれだけの成果があがっているのかを数値で評価する。

 NPOの中には「お金に表せない価値を追求しているのに、お金で換算するのはナンセンス」と考える向きもあるという。だが、誰もが客観的に捉えられる数字で表された指標が、異なる立場の人同士が理解し合うモノサシになるのだ。

 なお、木村さんたちはmomoの他に「あいちコミュニティ財団」という団体を運営している。融資になじまない案件には、この財団を通じた助成などで対応する。つまり、momoが扱うべき案件とそれ以外を明確に区分しているということだ。

 区分の基準はどこにあるのか。木村さんたちは、momoが融資対象とするNPOには「成果を求める」姿勢を明確に示している。NPOの成果とは、関わった人たちの意識や行動の変化だ。そして、それが地域や社会のより良い変化につながるというのだ。

 木村さんたちのスタンスを象徴する一節が本書にある。「もし地域の金融機関が『もう十分』というほどNPO支援に取り組み、もはやmomoは存在しなくてもよい、という未来がやってくるなら、それは心から喜ばしいことなのです」

 これは地域の金融機関は本来の役割を果たすべき、というメッセージとも捉えられる。木村さんらにとっては、自分たちの存在意義よりも、相互扶助の精神に満ちた健全な地域社会ができあがることの方が重要なのではないか。その実現のために、過渡的にNPOバンクのような存在が必要なのである。
(文=情報工場「SERENDIP」編集部)

『はじめよう、お金の地産地消』
-地域の課題を「お金と人のエコシステム」で解決する
木村 真樹 著
英治出版
248p 1,600円(税別)


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情報工場

小中島 洋平

小中島 洋平
09月24日
この記事のファシリテーター

既存の金融機関の論理では、地域NPOへの金融支援を十分に行えないということなのだろう。momoによる「地産地消」はそれを補うものとして見事に機能しているようだ。また、出資者と融資先の互いに「顔が見える」仕組みが、とかく冷徹な印象を与えがちな金融に血を通わせており、それが貸し倒れリスクの低減に貢献しているのかもしれない。海外に目を向けると、金融機関の支援を受けられないクリエイターをサポートするKickstarterのようなプラットフォームも存在する。経済合理性だけでは対応しきれないセクターをフォローするサービスには需要があり、今後さらに増えていく可能性がある。

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