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トランプ、“軍事のコメ”の中国流出を断固阻止

半導体ラティス社の買収計画を拒否
トランプ、“軍事のコメ”の中国流出を断固阻止

右は軍人出身のケリー首席補佐官

 中国政府と関係のある米投資ファンド、キャニオン・ブリッジ・キャピタル・パートナーズなどによる米半導体大手ラティスセミコンダクターの買収計画について、「安全保障上のリスク」を認定し、大統領権限に基づき阻止したトランプ米大統領。

 安保面から買収案件を審査する米政府の対米外国投資委員会(CFIUS)が禁止を勧告した。CFIUSの審査に基づき買収を阻止したのはトランプ政権では初めて。

 ホワイトハウスは声明で、中国政府の関与や買収による知的所有権の移転に懸念を示した。トランプ政権は、米企業が中国進出時に技術移転を迫られるケースがあることを問題視しており、11月の訪中を前に厳しい姿勢を示した格好だ。

 国策として製造業強化を掲げる中国。中でも「産業のコメ」とされる半導体産業の育成に力を入れている。半導体技術の蓄積が乏しく、主に海外企業の買収による技術取得を目指している。

 しかし、進化の著しい軍事技術において半導体は性能のカギを握る。米国は中国への半導体関連技術の流出を懸念。オバマ前大統領は2016年12月、中国投資会社によるドイツ半導体装置メーカー「アイクストロン」の買収を阻止する命令を出している。

 トランプ政権は北朝鮮の核問題の解決に向けて中国の支援をあおぐ一方、中国資本による米企業買収には引き続き厳しい姿勢で臨んでいる。

 CFIUSが現在審査中の中国企業の買収計画には、中国の資産家、馬雲(ジャック・マー)氏率いるアント・ファイナンシャルによる米送金サービスのマネーグラム・インターナショナルへの買収提案のほか、別の中国系ファンドが半導体試験・検査装置米エクセラの買収を計画しており、CFIUSの審査待ちとなっている。
鈴木岳志
鈴木岳志 Suzuki Takeshi 編集局第一産業部 編集委員
6月末に中国国有化学大手の中国化工集団(ケムチャイナ)による農薬・種子世界大手のスイス・シンジェンタ買収が完了した。各国の独禁法審査で多少の遅れは出たものの、ラティスセミコンのような政府の「拒否権発動」はなかった。産業のコメと呼ばれる半導体の重要性は本当のコメに勝るということか。いや、今回の場合は産業というより軍事のコメか。

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