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東芝が欧州テレビ事業から撤退。台湾コンパルにブランド供与

国内のテレビーメーカー、構造改革が最終段階へ!ソニーやシャープはまだ一波乱?
 東芝は17日、7月までに欧州におけるテレビ事業の自社開発・販売・サービス業務から撤退すると発表した。7月から台湾のコンパルエレクトロニクスに「東芝ブランド」を供与し、コンパルが同業務を手がける。東芝は不振の海外事業を縮小し、コンパル社からブランド使用料を得て収益の安定化を図る。

 東芝は海外の同業務から撤退しブランド供与型ビジネスに移行する意向を1月に表明しており、すでに北米事業をコンパルに任せた。今回もその一環。東南アジア地域でもブランドを他社に供与し同業務から退く。

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  電機大手各社のテレビ事業の構造改革が最終段階を迎えた。各社はテレビ事業に巨額の資本を投じてきたが、海外で韓国、中国勢との過度な価格競争に敗退した。切り札として投入した4Kなどの高解像度テレビも決め手にならなかった。自社開発・生産などから撤退し、ライセンス供与などにビジネスモデルを転換、活路を見いだす。
 
 ■ライセンス供与で事業維持
 1月初旬。米国西部の大手量販店の床に無機質な段ボール箱に入った日本製テレビが並び、横に置かれた鮮やかな箱の韓国製テレビを一段と引き立てていた。米国はテレビもショッピングカートに載せてレジに並ぶ。この光景を見たある電機大手社員は「これでは日本製品は売れない。販売戦略で負けている」とため息をついた。現地在住の日本人は「過去、日本製テレビがあると自慢できたが、今は韓国製も高品質な製品と認識されている」と指摘する。
 
 日本の電機大手が海外テレビ事業の大幅縮小を余儀なくされる。これまでもソニーやパナソニック、東芝、シャープなどは赤字要因のテレビ事業の構造改革を繰り返してきた。今回は一段と踏み込み、米国や中国、欧州などの海外での自社開発・生産の縮小や自社販売地域の絞り込み、OEM(相手先ブランド)調達の拡充などを進める。
 
 日系企業のブランド価値は健在のため、シャープ、東芝はブランド使用権を新興や地場メーカーに供与してライセンス料を得る仕組みへ転換する。各社は2015年度の赤字脱却を目指す。
 
 世界市場の約4割を占有する韓国のサムスン電子とLGエレクトロニクスの大手2社に加え、中国新興メーカーなどが引き起こす低価格競争、物量作戦、圧倒的な広告戦略への有効な対抗策が打ち出せなかったことが背景にある。過去、欧米電機大手のテレビ事業を打ち負かした日本勢だが、同じことが日本勢と中・韓国勢の間で起きている。
 
 テレビの巨大市場とされる米国と中国は、画質へのこだわりが欧州や日本に比べて少なく、大画面で安価な製品が好まれる。価格競争も厳しく、14年に単価アップのけん引役として、日本勢が期待を込めて先行投入した高解像度の4Kテレビも「想定以上に価格競争が厳しかった」(電機大手幹部)という。実際、機能面は日本勢より劣るものの、50型4Kテレビで約10万円などの低価格攻勢を仕掛けるメーカーもある。
 
 日系各社の中には最近の四半期ベースで見るとリストラ効果で、テレビ事業の営業利益が一時的に黒字化しているところもある。だが、慢性的な赤字体質から脱却したとは言えず、テレビ事業の存在意義の見直しを含めた議論が各社で重ねられてきた。「台数を追えば赤字になる」(津賀一宏パナソニック社長)との認識は全社共通だが、過去の“家電の王様”との位置づけが呪縛となり、各社の改革判断を鈍らせてきたことは否めない。
 
 ■パナソニック/OEM拡大
 薄型テレビの覇権争いで液晶テレビに敗れ、13年度にプラズマテレビ撤退という大きな判断を余儀なくされたパナソニック。液晶テレビを単なる放送受信機ではなく、家庭の中のディスプレーと位置づけ、クラウドとの親和性を深める製品戦略に転換。赤字主要因だった米国と中国では、13年度後半から販路の絞り込みを中心とする流通改革を実施。それでも、14年度内の赤字脱却は見通せず、中国のテレビ組み立て工場の生産を1月末に止め、北米向けのメキシコ工場も売却する方針。
 
 中国と米国での販売は継続するが、販売する製品はパナソニックの製品規格をクリアした他社からのOEM調達品にほぼ切り替える。同社のテレビ主要工場は中国、メキシコに日本、マレーシア、チェコを加えた5拠点だが、このうち2拠点から撤退となる。ほかにも小さな拠点はあるが関税対策などが主眼。ほかの白物家電などの展開にはテレビが必要との認識もあり、利益率の低い小型テレビなどのOEM調達比率は高まっている。
 
 パナソニックは「脱テレビ」を掲げ、車載や住宅関連事業を重視する。一方で「住宅と多様な家電を手がける中でディスプレーを伴うテレビは不可欠なデバイス」(津賀社長)との認識もある。テレビ事業の利益確保には一定規模の台数も不可欠とされる。戦略市場に位置づける東南アジアでも中・韓勢との競争は激しく、予断を許さない。
 
 ■シャープ/欧米で縮小
 経営再建道半ばで再成長けん引役の液晶事業の見通しが狂ったシャープ。テレビ事業においても、かつて「世界の亀山モデル」として市場を席巻した面影はなく、欧州からは生産・販売を撤退。現地メーカーに工場を売却し、1月からブランドを供与してライセンス料を得る仕組みに切り替えた。欧州市場からはほかの家電事業や太陽電池からも撤退済み。ドイツの大手家電量販店ではシャープ製品の影は薄く、同時期にはテレビ事業自体の存続も議論されていたという。さらに現在では、メキシコ、マレーシア、中国にあるテレビ工場の閉鎖、売却案が再浮上している。
 
 もともと、2年前の経営危機段階で海外テレビ工場はすべて売却検討対象になっていた。複数社と交渉に臨んでいたが、足元を見られて価格などの条件面が折り合わず、市況の変化も手伝い自社で継続活用。14年度のテレビ事業は業績悪化しており、国内やメキシコの工場などで減損処理が迫られる見通し。15年半ばに4Kテレビながら、独自技術で画質が更に上位の8K相当に高めた次世代テレビを市場投入し、「次の時代をつくる」(水嶋繁光副社長)と話すが、その前に改革すべき点が数多くある。
 
 ■東芝/「国内に特化」
 東芝は海外の自社開発と販売から撤退すると発表した。まずは3月に北米のテレビ事業を終息。台湾のコンパルエレクトロニクスに「TOSHIBA」ブランドを供与し、以降はコンパルが開発・製造から販売・サービスまでを手がける。北米以外についても同様のモデルで他社と協議中。4月の合意を目指す。
 
 日本のテレビ事業は損益がブレークイーブンの状態。今回、利益の薄い海外向けをライセンス料を受け取る“ブランド供与型ビジネス”に移行することで、赤字解消を目指す構えだ。東芝の前田恵造専務は「日本に特化して高品質、大型を売価に転化し黒字にする」としている。
 東芝のテレビ事業は3期連続の赤字が続く。同社は3カ所あったテレビの製造拠点を1カ所に集約し、また15年9月までに世界の販売拠点を半減するなどの構造改革を進めてきた。今後は唯一の生産拠点であるインドネシア工場も切り離す方針と見られる。
 
 ■ソニー/コスト圧縮
 ソニーは14年7月にテレビ事業をソニービジュアルプロダクツに分社化した。基本ソフト(OS)に米グーグルのアンドロイドを採用し、システムLSIの設計で台湾のメディアテックと組むなど、外部調達の割合を向上。17年3月までに15年3月期比3割のモデル数を削減も計画しており、徹底的なコスト圧縮を進めて、売上高が2―3割落ちても利益の出る事業構造を目指す構えだ。今村昌志ソニービジュアルプロダクツ社長は「共通プラットフォームを効率よく使いながら、自社の独自技術を差異化にどう盛り込むか」と戦略を説明する。
日刊工業新聞2015年02月03日深層断面/06月18日 3面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
シャープやパイオニアの例をみてもブランド供与は事業として末期状態。各社ともテレビ事業は固定費が重くてとにかくリストラに苦労した。設計部門がソニーよりかなり少ないといわれた東芝でも。意外とやっかいなのは、海外の営業や販売部門のリストラ。テレビはなかなか「再発明」できない。産業として社会として新しいエコシステムを作るのはどこか?やっぱりアップル?グーグル?それとも新興のネットメディアか。

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