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民間が防衛に肩を並べるようになった川重の航空事業。完成機の受託は?

「ボーイングがアジアに工場を設置すればオールジャパン体制で」(石川常務)
民間が防衛に肩を並べるようになった川重の航空事業。完成機の受託は?

「『787』向けの投資は一段落だ」(石川氏)

 航空・宇宙関連各社のキーパーソンに今後の戦略などを聞く。第3回は、川崎重工業の石川主典常務航空宇宙カンパニープレジデント。

 ―防衛省が哨戒機「P1」20機を単年度で一括調達します。
 「2015年度の受注見通しに織り込んでいる。年産5機の生産準備はできており、タスクフォースを作って部品別の調達方法やコストダウンなどを検討している。受注を確定できるので有り難いが、仕様変更が生じた場合の対応など調整すべき部分は残る」

 ―次期輸送機「C2」の量産や輸出、民間転用に向けた取り組みは。
 「スケジュール通りに進行中だ。輸出については営業、技術を集め、各国から防衛省に問い合わせがあった場合の支援を行っている。当社の航空宇宙事業は防衛と民間の比率がほぼ半々。防衛の存在感が大きく、恵まれている」

 ―米ボーイングの中型旅客機「787」向け機体製品の新工場(東棟)を名古屋第一工場(愛知県弥富市)内に建設しました。

 「3月に竣(しゅん)工し、設備認定を受けている。月産10機から12機、14機への対応はできた。現場の改善、生産技術の進化、習熟度向上などで、人員は当初計画より10―20%程度少ない。品質安定にもつながり、効果はさらに大きくなる。『787』向けの投資は一段落だ」

 ―ボーイングの次期大型旅客機「777X」向けの投資が本格化します。目玉は自動化です。
 「名古屋第一工場隣接地に新工場を建設する計画を進めている。ドリルマシンやオートリベッターは以前から使用しているが、規模が大きい。リベッターにロボットを活用することで柔軟性の高いコンパクトなラインをつくれないか検討中だ。また、小物部品の取り付けや検査にもロボットを使いたい。自社のロボット部門、技術開発本部と連携し、他社に負けない自動化ラインをつくる」

 ―サプライチェーン強化が課題です。
 「従来、川重が加工外注先に対して材料支給、工程設計、治工具供給、生産管理を行っていたが、生産量が拡大する中で手が足りない。力のある会社を中核とするスモールサプライチェーンをつくり、生産管理などを任せていく。現在、天龍エアロコンポーネント(岐阜県各務原市)が新設した表面処理工場を水野鉄工所(同県関市)が使う計画を進めており認定取得中だ。今後、対象部品を広げる」

 ―海外に依存する素材も多いです。
 「例えば『777』のアルミは米アルコアから調達している。できるだけ国産の安価な材料を使いたい。国産アルミメーカーと話し合っている」

 ―将来、民間の完成機受託製造事業に参入する意向はありますか。
 「防衛省向けの機体製造を手がけ、システムインテグレーション力を身につけた。一コンポーネントメーカーとして捉えられると面白くない。ボーイングがアジアに完成機体工場を設置するようなことがあれば、オールジャパン体制でがんばりたい。希望はある」

 【記者の目/人材育成が競争力のカギ】
 航空機需要は増加の一途。一方、欧エアバスとボーイングによる競争激化で、コスト低減要求は厳しさを増す。飽くなき生産改革が必須。川重は社内にロボット開発部隊を持ち、防衛省向け機体製造で大型プロジェクトをまとめるなど独自色がある。ただし、競争力の源泉はあくまで人。サプライヤーを含め、人材育成に手落ちは許されない。
 (聞き手=鈴木真央)

 <川重と三菱重工、エアバスのジェットエンジンをロールス・ロイスと開発>

 川崎重工業と三菱重工業は15日、欧エアバスの最新鋭旅客機「A330ネオ」に搭載するジェットエンジン「トレント7000」の国際共同開発に参画する契約を結んだとそれぞれ発表した。英ロールス・ロイスが手がける開発計画に「リスク&レベニューシェアリングパートナー」方式で参画する。両社とも参画シェアは明らかにしていない。

 川重は中圧圧縮機(IPC)モジュールの設計・製造・組み立てを担当する。エンジンを構成する8個の主要モジュールの一つで、部品点数が約4000点で構成されるという。西神工場(神戸市)で製造する。一方、三菱重工業は89%を出資する三菱重工航空エンジン(愛知県小牧市)が開発に参画し、燃焼器部品と低圧タービンブレードを担当する。
 
 「トレント7000」はトレントシリーズの第7世代。米ボーイング「787」向けエンジン「トレント1000―TEN」をベースに開発され「A330ネオ」には独占的に供給される。「トレント700」に比べて燃費効率を10%改善し、騒音を半減する。

 A330ネオは、累計受注1300機を超えるエアバスのベストセラー中型旅客機「A330」の派生型。2017年後半に初号機納入、商用運航開始が予定される。リスク&レベニューシェアリングパートナー方式はプログラムシェアに応じて収入の配分を受ける一方、費用とリスクも分担する契約方式。
2015年06月16日 3& 機械・ロボット・航空機面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
2015年3月期は川重全体の営業利益の4割以上を稼ぎ出した航空宇宙部門。民間は特に「777」向けの償却が終わって利益への貢献が大きい。一方でエアバスとボーイングの販売競争が激しくなっており、その煽りに瞬時に対応していく必要がある。よく言われる「日本企業の中で航空機を飛ばせる最も力のあるメーカー」の実力の見せ所だ。

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