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老朽インフラ対策の解決策。注目される「職人の技」

モノづくりの街・東大阪発!産学で橋梁保守製品
老朽インフラ対策の解決策。注目される「職人の技」

鋼床版の試験片による疲労試験(関西大の実験場)

 関西大学、近畿大学と、大阪府東大阪市などの中堅・中小企業が「東大阪橋梁(きょうりょう)維持管理研究会」を作り、2014年1月から活動している。公共インフラの保守管理が社会課題とされる中で、市町村が管理する中・小規模の橋梁は地域企業の出番と見て、「モノづくりの街・東大阪」をキーワードに取り組む。成果と言えるものがさっそく生まれ、今後の弾みが期待される。
 
 東大阪橋梁維持管理研究会は東大阪市をはじめ京阪神地域に本社を置く中堅・中小23社が、グループに分かれて橋梁の保守業務に役立つ製品の開発にあたっている。

 そこから生まれたのが径16ミリメートルの鋼製ネジ「スレッドローリングスクリュー(TRS)」。道路橋の舗装の下にある鋼床版に生じた老朽亀裂を補修する当て板を締結する部材だ。ナットがいらず、下穴にねじ込んで塑性変形、弾性変形して強く締結する。道路橋の下面側のみの施工で済み、上面道路を通行止めすることなく、比較的簡単に補修できる。

 大阪府吹田市にある関西大学内の実験場で、橋梁メーカーが提供した試験片を使い、亀裂発生から、TRSによる補修施工、施工後にせん断強度などを調べた。同研究会リーダーで、研究室学生らと実験した坂野昌弘関西大環境都市工学部教授は「太鼓判を押せるデータが得られた」と話す。

 坂野教授は鋼構造や橋梁工学の専門家で橋などの疲労問題に詳しい。本州四国連絡高速道路会社(本四高速、神戸市中央区)などで技術委員会に参画し、橋梁の現場の土地勘が豊富。TRSも「あそこで使えそうだなという場所が頭の中にある」(坂野教授)。これまでTRSは建築分野などで12ミリメートル径までが使われているが、橋梁で使う16ミリメートル径は実需の見極めがつかずにいたという。研究会の活動を契機に、本四高速が採用に関心を示し、今回の試作・テストが実現した。

 成果をもとに坂野教授と本四高速が共同で工法として特許出願。15年度中に本四高速が自社の一部現場で用いる計画。結果が順調ならば広く採用する条件が整う。「土木分野は普及に若干時間がかかるが、これは伸びていくと思う」と坂野教授も有望視する。

 同研究会は中小企業のフィールドワークが豊富な大西正曹関西大名誉教授が呼びかけ人。TRSのほか掃除機、目視カメラなどの開発にも取り組んでいる。

日刊工業新聞2015年05月27日 中小・ベンチャー・中小政策面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
 高度成長期に整備された社会インフラが更新期を迎えている。ただインフラの更新にはコストも時間も、そして安全対策もネックとなる。より簡便な対策が求められている。

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