ニュースイッチ

総資産に占めるのれん代比率が高まるキヤノン。M&A戦略次の一手は?

東芝メディカルシステムズの買収の先に見据えるもの
総資産に占めるのれん代比率が高まるキヤノン。M&A戦略次の一手は?

キヤノンが開発中の「光超音波マンモグラフィー」。御手洗会長兼CEO(左)と真栄田社長

 キヤノンは、光学機器、OA機器の製造からソフトウェアの開発まで、多角的に経営を行う企業だが、そのツールの1つとして、M&Aを活用している点が特徴的だ。現在は「グローバル優良企業グループ構想 フェーズⅤ」と銘打った5カ年計画(2016-20年)を策定し、①原価率の低減、②新規事業の拡大と創出など5つの戦略を掲げている。また、20年の業績目標として、売上高5兆円以上、原価率45%以下、株主資本比率70%以上などを掲げている。

 同社は、フェーズⅡ-Ⅳまでの計画実行の1つの手段として、M&Aを活用してきた。さらに、フェーズⅤにおいても同社史上最大のM&Aを行なっている。16年3月に東芝から6655億円もの巨額の金額で買収した東芝メディカルシステムズ(売上高2800億円)である。最終的には富士フイルムらと入札で競った上で買収を果たしている。

 買収金額の高騰の裏には医療関連事業をフェーズⅤにおける目玉にしたかったキヤノンの思惑があったと思われる。医療機器市場が拡大基調にあり東芝メディカルシステムズが日本トップシェアであることを考慮しても、同社の経営指標(営業利益177億円、純資産704億円)からすると、33年以上分もののれんを乗せている計算になる。これだけの大型買収を敢行したキヤノンを過去のM&Aや、業績・財務状況などの観点から分析していきたい。
キヤノンの沿革と行った主なM&A
年月 内容
1933 精機光学研究所を開設
1937 精機光学工業として創業
1947 キヤノンカメラに社名を変更
1949 東証一部に上場
1956 秩父英工舎(現キヤノン電子)が関係会社となる
1969 キヤノンに社名を変更
1992 キヤノン精工とキヤノンケミカルが合併し、キヤノン化成となる
1996 「グローバル優良企業グループ構想」スタート
2000 ニューヨーク証券取引所に上場
2001 「グローバル優良企業グループ構想」フェーズIIスタート

2004.3 プラスチックの金型を製造するイガリモールド(純資産15億円)の全株式を株式交換により30億円で取得し、完全子会社化
2005.9 電子部品の製造用真空装置を製造するアネルバ(売上高464億円、営業利益19億円、純資産31億円)の全株式を日本電気から取得し、完全子会社化
2005.10 自動化機器の試作製造をするNECマシナリー(売上高167億円、営業利益14億円、純資産64億円)の株式66.18%を公開買い付けにより63億円で取得し、子会社化
2005.12 医療機関にシステムソリューションを提供するFMS(売上高28億円)の全株式をアステラス製薬から取得し、完全子会社化

2006 「グローバル優良企業グループ構想」フェーズIIIスタート
2006.12 キヤノン電子は、顧客管理情報システムの開発等を行うイーシステム(売上高43億円、営業利益▲3億円、純資産35億円)の第三者割当増資を引き受け、株式62%を35億円で取得し、子会社化
2007.1 東芝との合弁会社で、テレビ向けSEDパネルの開発をするSED(資本金105億円)の全株式を取得し、完全子会社化
2007.4 ソフトウェア開発を行う蝶理情報システム(売上高40億円、経常利益1億円、純資産39億円)の株式69.58%を旭化成東レなどから子会社を通じて取得し、孫会社化
2007.6 情報システムの構築などを行うアルゴ21(売上高242億円、営業利益14億円、純資産115億円)の株式83.17%を公開買い付けにより子会社が124億円で取得し、孫会社化
2007.12 有機ELディスプレイパネル製造装置などの開発を行うトッキ(売上高72億円、営業利益▲22億円、純資産11億円)の株式63.7%を公開買い付けと第三者割当増資の引き受けにより100億円で取得し、子会社化

2008.3 OA機器の製造などを行うニスカ(売上高367億円、営業利益14億円、純資産168億円、子会社の持分割合51.04%)の株式46.84%を公開買い付けにより子会社が96億円で追加取得
2008.11 システム開発などを行うアジアパシフィックシステム総研(売上高67億円、営業利益1億円、純資産53億円)の株式87.87%を公開買い付けにより子会社が51億円で取得し、孫会社化
2009.4 企業向けIT研修などを行うエヌ・アール・アイ・ラーニングネットワーク(売上高14億円)の全株式を野村総合研究所から取得し、完全子会社化
2010.3 オランダで文書・産業用印刷システムなどを開発するオセ(売上高3442億円、純資産707億円、持分割合28.3%)の株式43%を公開買い付けにより380億円で追加取得し、子会社化

2011 「グローバル優良企業グループ構想」フェーズIVスタート
2011.6 医療関連用品・機器の製造を行うエルクコーポレーション(売上高214億円、営業利益7100万円、純資産71億円)の株式96.73%を公開買い付けにより子会社が36億円で取得し、孫会社化
2011.11 日立ディスプレイズ(資本金352億円)の保有株式24.9%を日立製作所に売却
2011.12 高速漢字情報処理システムの開発などを行う昭和情報機器(売上高104億円、営業利益2200万円、純資産52億円)の株式88.55%を公開買い付けにより子会社が21億円で取得し、孫会社化

2014.6 ビデオ管理ソフトウェアの世界最大手であるマイルストーンシステムズ(売上高75億円)の株式を取得し、子会社化
2015.4 監視カメラ最大手のアクシス(スウェーデン、売上高770億円、純資産155億円)の株式75.5%を公開買い付けにより2540億円で取得し、子会社化
2016 「グローバル優良企業グループ構想」フェーズVスタート
2016.3 東芝メディカルシステムズ(売上高2800億円、営業利益177億円、純資産704億円)の全株式を東芝から6655億円で取得する契約を締結(株式取得日は未定)
 上記年表を見ると、徐々にM&Aの規模が大きくなっていることが分かる。これは、それぞれの時期(フェーズ)によって同社の戦略が転換してきていることを示している。

M&A Onlineアーカイブ2016年06月11日
石塚辰八
石塚辰八 Ishizuka Tatsuya
感動の瞬間を記録するキヤノンが、オリンピックのスポンサードを東京五輪を最後に取りやめる、または、かつてコニカミノルタがソニーにαブランドごとカメラ事業を譲渡したように、キヤノンのブランドごと新興国の企業にカメラ事業を売却なんてストーリーもあり得ない話ではない、のかもしれません。

編集部のおすすめ