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どうなるMRJ、開発の当事者に聞く

岸信夫三菱航空機副社長インタビュー
どうなるMRJ、開発の当事者に聞く

インタビューに応える岸信夫副社長

 国産小型旅客機「MRJ」の初飛行を従来計画の4―6月から9―10月に延期した三菱航空機。2017年4―6月の納期が刻々と迫る中、今秋からは「完成度を高めた状態」(同社)で、飛行試験に移行する。チーフエンジニアを務める岸信夫副社長は本紙インタビューで「初飛行は全体のバランスを見て決める」と述べ、あくまで納期を最優先する考えを強調した。

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―あらためて現在の開発状況は。

「エンジンやアビオニクス(電子機器)、操縦関連機器といった各系統ごとの試験や、それらがうまく連携するかを確かめる試験を進めている。初飛行の目標が絶対的なものであるかと言えば、そうではない。無理に飛ばすものでもない。安全性の確認や機体の(強度などの)検証度合いを優先する。初飛行は全体のバランスを見て決めるもので、いつ飛ばすかは直前まで分からない」

―飛行試験の多くを米国で実施します。

「米国での飛行試験は早ければ16年春ごろから始める。試験や製造に携わる人に加え、今後は型式証明(TC)の書類を整える人も多く必要になる。初飛行までは設計作業などに集中するが、初飛行後は、TCの取得に向けた準備も本格化する必要がある」

―4月から経営体制が刷新されました。

「(親会社の)三菱重工業にMRJ事業部が新設され、私が事業部長を兼務している。これまで機体開発は当社、製造は三菱重工と分かれていたが、今後は両社でMRJプロジェクトを一体的に進める」

―現在の90席型、70席型に加え、100席型の開発も検討しています。

「詳細な設計には入っていないが、100席型の概略を(航空会社などに)示して、顧客を募っている。操縦性、整備性などから現行モデルとのコモナリティー(共通性)を重視しており、同型エンジン、同じ(金属製の)主翼にする」

―実際の開発作業はどう進めていますか。

「米ボーイングなどは開発の当初から量産を念頭に置いた設計を進めているが、我々はそこまで成熟していないので、まず試験機を作り上げることに全力を注いでいる。理想的な飛行機にしたい設計部門と、作りやすい飛行機を求める工作部門とのせめぎ合いは日々起きている。航空会社からの要求事項をどの時点で反映させるか、というのも常に議論になる」

―初飛行への意気込みを聞かせてください。

「航空機は、本当にぎりぎりまで追い込まれて(設計などを)判断し、作り上げていくもの。ここを乗り越えれば航空機メーカーとして、また技術者としても大きく“飛翔(ひしょう)”できる。若いエンジニアとともに旅客機の開発を経験し、できればMRJ後も完成機事業を継続したい」

【記者の目/納期順守に向け一進一退の闘い】
4度目の初飛行延期を「遅れではなく見直し」と表現する岸副社長。初飛行後に予定していた改修作業を、初飛行前にまとめて実施することが延期の理由だ。今回は初飛行を優先せず、機体の完成度を高める決断をした。しかし、今後の飛行試験中に大きな改修事項が出ないとも限らず、納期順守に向け一進一退の闘いが続く。
(名古屋・杉本要)
日刊工業新聞 2015年04月20日 機械・ロボット・航空機面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
チーフエンジニアという職種は昔の主任設計者。ゼロ戦で言えば堀越二郎にあたります。今回のインタビューでは「設計部門と工作部門では日々、せめぎ合いが起きている」と、開発の生々しい部分も少し教えていただきました。

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