植物工場「省エネ」で覚醒!電機メーカーが培った制御技術活かす

雇用生み地域活性化

苫東ファームで栽培中のイチゴ

 富士電機、パナソニックなど電機メーカーが工場で培った制御技術を生かし、植物工場のコストを急激に低減している。従来の半分以下に消費電力を削減した植物工場も登場した。照明や空調のランニングコストが高く、植物工場の70%が赤字とも言われている。モノづくりを支えている省エネルギー技術が救世主となり、中小企業の植物工場ビジネスへの参入を後押ししそうだ。  新千歳空港から車で20分の北海道苫小牧市の工業団地に、イチゴを生産する植物工場がある。2015年7月に出荷を始めたばかりだが、16年に工場の増設に着手する予定だ。増強後の年間生産量300トンは、北海道産イチゴの20%の栽培量に相当する。  この巨大植物工場は富士電機や清水建設などが出資する「苫東ファーム」が運営する。自然光を利用する「太陽光型植物工場」で、外観はビニールハウスだ。富士電機が工場向け機器事業で培ったエネルギー制御技術を注ぎ込み、コストを大幅に低減した。  工場内ではイチゴを植えた「栽培ベンチ」がハウス28棟を埋め尽くすように並ぶ。栽培ベンチは地面から1・2メートルの高さにある。苫東ファームの阿部愛知取締役は「作業者がイチゴを収穫しやすい高さに設計した」と説明する。  栽培ベンチには3本の配管が通っている。一つの配管は温水が循環し、イチゴが育ちやすい15度―18度Cに根を保温する。必要な箇所を加熱する「局所暖房」は工場で使われており、効率が高い。櫛田安良社長は「暖房設備費は普通のハウス栽培の4分の1」と胸を張る。  室温は自動換気で外気を採り入れて一定に保っており、冷房も抑えている。エネルギー消費は通常のハウスよりも30%削減できた。  残り2本の配管には養液と二酸化炭素(CO2)をそれぞれ流し、局所暖房と同じように直接、イチゴに与えている。日射量を計測し、最も成長する午前から14時に供給量を増やす制御で運転を効率化した。  普通のハウス栽培だと一度植えた苗は5―6カ月間、実をつける。管理の行き届いた苫東ファームは、8カ月間収穫できるので生産量が多い。イチゴの価格は市場よりも高めだが、年間を通して収穫量に変動がなく一定価格で供給できる。購入者はいつでも必要な量を同じ価格で調達できるメリットがある。苫東ファームは需要を取り込めており、3年目の黒字化が見込める。  もともと富士電機は植物工場向けに機器を販売してきた。アグリ技術部の濵口聖児部長は「コストを下げることが我々の仕事。もうかるかどうか、自分たちで植物工場をやってみることにした」と経営に乗り出した理由を明かす。  釧路市ではパプリカを生産する植物工場の建設を始めた。「次の工場は補助金を使わずに黒字化できることを証明したい」(濵口部長)と意気込む。16年度からの中期計画では植物工場事業の目標を設定する。  自然光を使わない「完全人工光型植物工場」のシステムをパナソニックが売り出している。アグリ事業推進室の松葉正樹主幹は「世界一運用コストが安い植物工場」と強調する。 人工光型は外気や外光を遮断した室内に野菜を育てる棚を並べた工場が一般的。棚すべてに取り付けるため蛍光灯の本数が多い。蛍光灯の発熱による室温上昇を抑えるために空調も欠かせず、電力消費が膨大だ。青色と赤色の発光ダイオード(LED)を採用するパナソニックの植物工場は、蛍光灯型工場よりも60%省エネ化した。白色LED工場と比べても30%電力消費が少ない。  その理由が「LEDと空調との合わせ技」(松葉主幹)。生産現場で培った空調技術で、室温のばらつきを1・5度Cに抑えた。どの棚も温度が均一なので、野菜の成長にばらつきがない。60―70%とされる歩留まりの悪さは、植物工場の赤字の原因だ。パナソニックの植物工場のレタスの歩留まりは95%。生産性が高く、コストを低減できる。工場で当たり前の自動化技術を種まきや棚の入れ替えに採用し、人件費も低減する。「設備が悪かったら赤字。工業化しないと植物工場は成立しない」(同)と強調する。  パナソニックは植物工場システムを丸ごと販売しており、4件の受注がある。16年にも納入が始まる模様だ。  植物工場のコスト低減が進んでいるが、露地栽培の価格までは下がりそうにはない。それでも天候の影響を受けずに安定供給できる強みがある。植物工場の経営者は事業計画を立てやすく、閑散期もないため安定して雇用できる。露地栽培よりも狭い場所で生産できるので、異業種の中小企業でも土地や建物を有効活用できる。  デロイトトーマツは25年に国内の植物工場の建設額が13年の6・9倍の5246億円に拡大すると予想する。人口増加や異常気象で食糧不足が懸念される新興国もターゲットだ。富士電機の濵口部長は「物流業者とも組んで東南アジアに展開できるビジネスモデルにしたい」と話す。  “植物工場ベンチャー”と知られ、東日本大震災の被災地に進出して脚光を浴びた「みらい」が15年6月、経営破綻した。みらいの社長だった室田達男氏は「工場システムの構築に課題があった」と振り返る。コストや制御など植物工場ビジネスの難しさが浮き彫りになった。  みらいの事業はマサル工業(東京都豊島区)が取得した。同社は通信、電設分野のケーブル保護材の他に、農業向けかん水システムの開発、製造、販売を手がける。事業取得で農業資材事業を柱に育てる方針だ。  みらいが所有していた千葉県柏市と宮城県多賀城市の植物工場はともに面積約1300平方メートルで国内最大規模。レタス類を中心に日産1万株を栽培する。マサル工業の椎名吉夫社長は「設計製造技術で力になれる。必要であれば部材も製造可能だ」と意気込む。  大手製造業の植物工場事業への参入が目立つが、実際には中小企業の進出が多い。低コスト化によって植物工場の普及が促されると、中小企業による雇用創出や地域活性化に拍車がかかりそうだ。 (文=松木喬、苦瓜朋子)

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