若き後継者の挑戦!工場が利益を生む瞬間とは?

連載小説「ぼくらの工場革命」 EPISODE1 会長の決意

あらすじ  この物語は、若き経営者が試行錯誤を繰り返しながらも工場改革を実行し、経営者として成長していく奮闘記である。  日本の製造業は昭和から平成にかけて大きく様変わりし、海外を含めた価格競争激化、小ロット・多品種化など経営環境の変化に対応していかなくてはならない。高度経済成長期を支えた経営陣は引退の年を迎え、次世代を担う後継者たちの真価が問われる段階に入っている。 舞台はある町工場、若き後継者の挑戦が今まさに始まろうとしていた。 ストーン ストーン ストーン──。  一定のリズムで繰り返し鳴り響く機械音。(株)梅原技研は、自動車部品のプレス加工を行う製造メーカーである。今から30年前に現会長である梅原耕造が創業し、リーマンショックでは大きな経営難に陥ったが、比較的順調に事業を行ってきた。 耕造は、以前から経営の一線を退くことを決めていた。その理由は、耕造自身が創業時からリーダーシップを発揮してここまで会社を大きくしてきたため、良くも悪くも典型的なワンマン経営になっており、自分が引退してしまうと代わりの人がいないので会社が経営危機に陥ってしまうと考えていたからである。特に持病をもっているわけではなく、まだまだ健康を自負しているが、人生何が起こるかわからないので、自分が元気なうちに後継者の育成としっかりとした工場管理体制を構築する必要性を年々強く感じていた。  実際、同時期に創業した同業他社も世代交代の波に直面し、経営は順調にいっているのにもかかわらず、後継者不在のためやむなく廃業する工場も多い。最近流行りのM&Aによる企業買収も仲介業者に多大な手数料が取られる場合もあり、最後の契約段階で破断してしまう工場経営者の噂も耳に入る。  そんな状況で、耕造は何とか後継者の育成と自分がいなくても利益を出していけるような工場管理体制をつくりたいと思いつつ、きっかけもないまま日々時間だけが流れていた。 「会長、研修会の案内が来てますが、どうしますか?」 総務部あてに定期的に届く研修案内は今までほとんど目を通していなかった耕造だが、今回は何となく気になって研修案内を見てみた。半信半疑であったが、とりあえず何かのヒントになればとこの研修会に出席することにした。  研修会当日の朝、開始時間15分前に会場へ到着すると、すでに会場には同世代の経営者が多数来ており、思った以上に参加者がいることに驚いた。しかも、配布資料を真剣な眼差しで読み入る参加者もおり、耕造は軽い気持ちで参加したのだが、少し緊張感を感じながら研修会開始時間を待っていた。時計が午前10時を指すと同時に、研修会の講師である近藤健一が登場し、研修会が始まった。 「おはようございます!さっそくですが、今日皆さんにまず知ってほしいのは、工場が利益を生む瞬間です。穴あけ加工ならドリルでガリガリと穴を開けている瞬間、プレス加工ならプレス機がストーンという音をたてた瞬間、この利益を生む瞬間を働きといいます。当たり前ですが、利益を増やすには働きを増やす仕組みをつくればいいんです」 近藤の利益に対する見解に、冒頭から耕造は衝撃を受けた。そして、この後の説明に驚愕してしまうことになる。近藤は、研修会の中盤で機械の稼働率について説明をした。 「機械加工をしている工場では、機械の稼働率を工場の生産性尺度にしているんですが、これは大きな間違いです。機械の稼働率は顧客が決めることであり工場でコントロールするものではありません。顧客の注文が集中すれば稼働率は上がり、注文が減れば稼働率は下がる、単にそれだけの話なんです。機械の稼働率を上げようとしてはいけないんですよ」 機械の稼働率に対する考え方の違いに戸惑いながらも、耕造は創業以来今までやってきたことを思い起こしていた。創業当初は右も左もわからず、ただただ目の前の注文を夜中までかかって機械加工していた。クレームが出ないように品質を第一に毎日たくさん加工していれば、おのずと利益は出ていた。むしろ、機械が止まっていると不安でとにかく効率よく生産することを工場では第一にやってきた。  近藤の話を聞きながら、今まで自分がやってきたことを否定されたように感じつつも、自分にはまだ知らない世界があるのではないかという不安と期待が入り混じった複雑な感覚を覚えた。  研修会は終了し、参加者の多くは近藤と名刺交換を始めていた。耕造は名刺を持ってきていなかったが、少し相談してみようと思い、名刺交換の列に並んだ。やっと耕造の番が回ってきて、耕造は近藤へ話し始めた。 「近藤先生、今日はありがとうございました。利益が出る瞬間と機械の稼働率を上げるなという話が印象的でした。実は、これから後継者に経営を完全に譲ろうと思っているんですが、どうも不安で、何からどうしたらいいものか悩んでまして…そんな相談でも聞いてもらえるものでしょうか?」 「なるほど、一度工場を診せてもらえるともう少し具体的なアドバイスができますので、もしよかったらまた連絡ください」 研修会の会場からの帰り道、耕造は創業から今に至るまでの30年間を思い起こしていた。何度か経営難になりそうなこともあったが、品質と効率を重視してモノづくりをやってきたこと、今日の研修会で聞いた新たな価値観、今までの30年とは大きく違うこれからの30年という未来。  そして、耕造はこの機会に経営から退こうと決意した。自宅に帰ると、後継者である息子の拓摩を呼び、改めて相談してみることにしたのだ。(続く) 近江 良和(おうみ よしかず) 近江技術士事務所 主任コンサルタント 日本大学理工学部数学科卒業後、大手システム開発会社、翻訳サービス会社を経て、近江技術士事務所の主任コンサルタントとなり、工場の生産性向上指導や公的機関における経営支援やセミナー講演に従事する。「10カ月間で工場の生産性を25%アップさせる」という目標を掲げ、食品加工、板金加工、プラスチック成形などさまざまな業種の工場指導経験を持つ。主な著書は『稼働率神話が工場をダメにする』『モノの流れと位置の徹底管理法』(日刊工業新聞社)。 工場管理 2019年1月号  Vol.65 No.1 【特集】変化を見逃すな!ヒューマンエラー未然防止の3H(初めて・変更・久しぶり)  生産設備の高度化、精度向上によって機械が要因の不良は減少傾向にあるものの、人が原因で引き起こすヒューマンエラーは増加傾向にあり、生産現場の悩みとなっている。判断ミスや性格、人手不足による作業者への負担増大などがヒューマンエラーの背景に潜むが、ヒューマンエラーが発生しやすい変化点やタイミングを事前に想定し留意すれば、流出不良を抑制できると考えられる。特にミスやトラブルを引き起こしやすいポイントが、3H(初めて・変更・久しぶり)と呼ばれる3つの変化点である。特集では、ヒューマンエラーが発生する原因を探り、ミスが起こりやすい3Hのポイントを解説。3Hを視点にした未然防止の仕組みづくりと進め方を指南し、ミスやトラブルの芽を摘む方法を示す。 雑誌名:工場管理 2019年1月号 判型:B5判 税込み価格:1,446円 販売サイトへ  

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