教育支援に新事業も後押し、IoTで動く経産省
中小企業の斬新なアイデア、大企業とコラボで
経済産業省とIoT推進ラボ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、IoT(モノのインターネット)などによる新ビジネスが対象の支援事業「IoTラボ・セレクション」に関し、参加企業の募集を始めた。モノづくりをテーマに据え、新たなサプライチェーン、サービス、製品の開発を資金や規制改革などの面で後押しする。締め切りは31日正午。
IoT、ビッグデータ(大量データ)、人工知能(AI)を活用する先進的な事業が対象。成長性、波及性などの観点から国が審査し、支援先を決める。支援事業に協力する政府関係機関、金融機関、ベンチャーキャピタル(VC)が、融資や出資を通じ資金支援する。また、支援先の事業計画に応じて、国が規制改革や標準化、ルール形成に向けた調査・実証を行う点も特徴だ。公募説明会を6日10時半から東京・霞が関のNEDO分室で開く。問い合わせはIoT推進ラボ事務局(03・5860・7557)へ。
<関連記事>
経産省のITスキル取得講座、自動車「MBD」が加わった意義
人手不足が深刻化している。しかし自動化と人や機械が繰り返しつながる「コネクテッドインダストリーズ」は、その解決策になる。その果実を受け取るのは大企業ばかりではなく、むしろ中堅・中小企業だ。経営共創基盤の冨山和彦社長は「知識集約型の産業構造では、雇用数は少なくなっていく。日本はこれから中堅・中小企業社会になる」と話す。
ものづくり白書から見えてきたこと
今年6月、経済産業省が発表した「ものづくり白書」の2017年版。「わが国ものづくり企業の主要課題は、付加価値の創出と最大化、および人手不足が顕在化する中での現場力の維持と向上だ」。世耕弘成経済産業相は17年版白書の根底に流れる問題意識を、こう表現する。
経産省が白書に記したアンケート結果では、今後3年間で収益が「増加する」と答えた企業が比較的多く、見通しは悪くない。興味深いのが、アンケート結果から見える人手不足対策の考え方だ。今後必要な取り組みについて、4割超の企業がITやロボットの活用と回答している。
白書ではIT活用や人材育成などの優良事例も何社か紹介している。例えば、各種自動車部品を手がける旭鉄工(愛知県碧南市)。同社はスマートフォンを用い生産状況を可視化できるシステムを実用化した。
従来は従業員がラインの稼働・停止時間などを記録していたが、作業の自動化により負担を軽減。労働時間、休日出勤を削減し、職場環境改善につなげている。また、複数ラインの状況を正確に把握できるようになったことも成果だ。
HILLTOP(京都府宇治市)は24時間無人稼働できる加工システムを用いることで、より付加価値の高い仕事に人を配置している。働き方を改革し若手を採用しやすくすることが目的。
職人技をデータ化、デジタル化することで、完全自動化を可能にした。人はデザイン、プログラミングなど知的な業務に専念する。短納期と小ロット対応を売りとしながらも、残業や休日出勤が少ない点も特徴だ。また、事務所はデザイン性を重視した内観にし、下請けの町工場という過去のイメージを払拭(ふっしょく)した。
精密板金加工が主力の小林製作所(石川県白山市)。自社開発した生産管理システム「Sopak(ソパック)」を基に、現場で収集するデータを活用している。約200台のカメラで作業の様子を記録。映像データを蓄積してトレーサビリティー(生産履歴管理)の高度化などを可能にしている。
蓄積した映像を取り出すことで、「どのように加工されたか」を素早く確認できる点がこのシステムの特徴だ。トラブル時の原因調査などに利用し、生産性改善につなげている。また、熟練者が加工する様子が記録に残ることも利点。これにより、円滑な技能伝承が実現している。
ただこのような先進事例はまだ一部に過ぎない。経営共創基盤の冨山社長は「中堅・中小企業はコネクテッドインダストリーズをまだわが事のように思っていない。製造業だけでなく、地方の1次産業や3次産業の生産性を上げるためには、大企業やITベンチャーがツールを提供しコラボすることで好循環が生まれる」という。
佐賀県やオプティムなどは水産業でのIoT(モノのインターネット)活用を始める。飛行ロボット(ドローン)のほか通信やセンサーの機能を持つブイでデータを収集し、人工知能(AI)で解析してノリの病害や赤潮の対策に役立てるという。佐賀大学、NTTドコモ、佐賀県有明海漁業協同組合、農林中央金庫を含む計6者で連携協定を結んだ。
実証実験は有明海のノリ養殖で始める。養殖漁場の1区画(54×36メートル)でオプティムが開発した飛行機タイプのドローンを使う。ドコモは消費電力が少なく遠距離通信が可能なブイを提供。リアルタイムで漁場情報を把握する。ドローンで撮影した画像をAIで診断して病害や赤潮の発生傾向などを予知。現地調査を迅速化する。ノリの品質安定や収穫量向上、養殖事業者の作業負担軽減につなげるのが狙いだ。
佐賀県と佐賀大学、オプティムは農業でもIoT技術で連携している。オプティムは佐賀県発のベンチャーで、2014年に東証マザースに上場、わずか1年で1部へ指定替えになった成長企業。地元の行政と大学、ドコモという大手が手を組むモデルケースになる。オプティムの菅谷俊二社長は「佐賀が誇るノリ養殖でもIoT活躍の余地がある」と意気込む。
労働集約型のサービス産業の場合、低賃金、長時間労働、安売りという“ブラック企業型”の成長戦略をとりがちだった。しかし人手不足においては「よりホワイトな経営をして良好な働く環境を提供しなければ企業が存続していくのは難しくなる」(冨山氏)。伝統的な大手企業も中堅・中小企業とのウインーウインの関係は悪くない話だ。
活用するロボットや制御ソフトウエアが使われば使われるほど、データがたまり自動化の精度も上がっていく。そして日本で起きている社会課題と、それを解決するビジネスは、何年か遅れて確実にアジア各国でも起きる。コネクテッドインダストリーズという新しい産業の姿に向けて、中小も大手も関係なく雇用の質を競う時代に突入した。
METI Journal「コネクテッドインダストリーズ」特集より
IoT、ビッグデータ(大量データ)、人工知能(AI)を活用する先進的な事業が対象。成長性、波及性などの観点から国が審査し、支援先を決める。支援事業に協力する政府関係機関、金融機関、ベンチャーキャピタル(VC)が、融資や出資を通じ資金支援する。また、支援先の事業計画に応じて、国が規制改革や標準化、ルール形成に向けた調査・実証を行う点も特徴だ。公募説明会を6日10時半から東京・霞が関のNEDO分室で開く。問い合わせはIoT推進ラボ事務局(03・5860・7557)へ。
<関連記事>
経産省のITスキル取得講座、自動車「MBD」が加わった意義
日刊工業新聞2017年7月4日
中小企業が主役だ!
人手不足が深刻化している。しかし自動化と人や機械が繰り返しつながる「コネクテッドインダストリーズ」は、その解決策になる。その果実を受け取るのは大企業ばかりではなく、むしろ中堅・中小企業だ。経営共創基盤の冨山和彦社長は「知識集約型の産業構造では、雇用数は少なくなっていく。日本はこれから中堅・中小企業社会になる」と話す。
ものづくり白書から見えてきたこと
今年6月、経済産業省が発表した「ものづくり白書」の2017年版。「わが国ものづくり企業の主要課題は、付加価値の創出と最大化、および人手不足が顕在化する中での現場力の維持と向上だ」。世耕弘成経済産業相は17年版白書の根底に流れる問題意識を、こう表現する。
経産省が白書に記したアンケート結果では、今後3年間で収益が「増加する」と答えた企業が比較的多く、見通しは悪くない。興味深いのが、アンケート結果から見える人手不足対策の考え方だ。今後必要な取り組みについて、4割超の企業がITやロボットの活用と回答している。
データで働き方改革
白書ではIT活用や人材育成などの優良事例も何社か紹介している。例えば、各種自動車部品を手がける旭鉄工(愛知県碧南市)。同社はスマートフォンを用い生産状況を可視化できるシステムを実用化した。
従来は従業員がラインの稼働・停止時間などを記録していたが、作業の自動化により負担を軽減。労働時間、休日出勤を削減し、職場環境改善につなげている。また、複数ラインの状況を正確に把握できるようになったことも成果だ。
HILLTOP(京都府宇治市)は24時間無人稼働できる加工システムを用いることで、より付加価値の高い仕事に人を配置している。働き方を改革し若手を採用しやすくすることが目的。
職人技をデータ化、デジタル化することで、完全自動化を可能にした。人はデザイン、プログラミングなど知的な業務に専念する。短納期と小ロット対応を売りとしながらも、残業や休日出勤が少ない点も特徴だ。また、事務所はデザイン性を重視した内観にし、下請けの町工場という過去のイメージを払拭(ふっしょく)した。
精密板金加工が主力の小林製作所(石川県白山市)。自社開発した生産管理システム「Sopak(ソパック)」を基に、現場で収集するデータを活用している。約200台のカメラで作業の様子を記録。映像データを蓄積してトレーサビリティー(生産履歴管理)の高度化などを可能にしている。
蓄積した映像を取り出すことで、「どのように加工されたか」を素早く確認できる点がこのシステムの特徴だ。トラブル時の原因調査などに利用し、生産性改善につなげている。また、熟練者が加工する様子が記録に残ることも利点。これにより、円滑な技能伝承が実現している。
1次・3次産業の生産性向上に
ただこのような先進事例はまだ一部に過ぎない。経営共創基盤の冨山社長は「中堅・中小企業はコネクテッドインダストリーズをまだわが事のように思っていない。製造業だけでなく、地方の1次産業や3次産業の生産性を上げるためには、大企業やITベンチャーがツールを提供しコラボすることで好循環が生まれる」という。
佐賀県やオプティムなどは水産業でのIoT(モノのインターネット)活用を始める。飛行ロボット(ドローン)のほか通信やセンサーの機能を持つブイでデータを収集し、人工知能(AI)で解析してノリの病害や赤潮の対策に役立てるという。佐賀大学、NTTドコモ、佐賀県有明海漁業協同組合、農林中央金庫を含む計6者で連携協定を結んだ。
実証実験は有明海のノリ養殖で始める。養殖漁場の1区画(54×36メートル)でオプティムが開発した飛行機タイプのドローンを使う。ドコモは消費電力が少なく遠距離通信が可能なブイを提供。リアルタイムで漁場情報を把握する。ドローンで撮影した画像をAIで診断して病害や赤潮の発生傾向などを予知。現地調査を迅速化する。ノリの品質安定や収穫量向上、養殖事業者の作業負担軽減につなげるのが狙いだ。
佐賀県と佐賀大学、オプティムは農業でもIoT技術で連携している。オプティムは佐賀県発のベンチャーで、2014年に東証マザースに上場、わずか1年で1部へ指定替えになった成長企業。地元の行政と大学、ドコモという大手が手を組むモデルケースになる。オプティムの菅谷俊二社長は「佐賀が誇るノリ養殖でもIoT活躍の余地がある」と意気込む。
労働集約型のサービス産業の場合、低賃金、長時間労働、安売りという“ブラック企業型”の成長戦略をとりがちだった。しかし人手不足においては「よりホワイトな経営をして良好な働く環境を提供しなければ企業が存続していくのは難しくなる」(冨山氏)。伝統的な大手企業も中堅・中小企業とのウインーウインの関係は悪くない話だ。
活用するロボットや制御ソフトウエアが使われば使われるほど、データがたまり自動化の精度も上がっていく。そして日本で起きている社会課題と、それを解決するビジネスは、何年か遅れて確実にアジア各国でも起きる。コネクテッドインダストリーズという新しい産業の姿に向けて、中小も大手も関係なく雇用の質を競う時代に突入した。
METI Journal「コネクテッドインダストリーズ」特集より