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“武闘派・東芝メモリ社長“が繰り出した強烈一撃はWDを動かすか

本音は、訴訟を取り下げさせるための交渉のテコか
“武闘派・東芝メモリ社長“が繰り出した強烈一撃はWDを動かすか

東芝副社長で東芝メモリ社長の成毛康雄

 東芝の半導体子会社「東芝メモリ」の売却を巡る東芝と米ウエスタンデジタル(WD)の対立が新たな局面を迎えた。売却差し止めを求めて法的手段に訴えてきたWDに対し、東芝が対抗策を相次いで打ち出した。もっともメモリー事業で協業する両社の対立は、競合する韓国サムスン電子を利するだけ。雨降って地固まるハッピーエンドを迎えられるか。東芝、WDによる水面下の駆け引きが激しくなりそうだ。

 28日13時9分に終了した東芝の定時株主総会。その後、同社はWDへの対抗策を立て続けに発表した。一つは「WDに対する訴訟提起」、もう一つは「四日市工場(三重県四日市市)の新棟に対する生産設備などの投資」についてだ。

 生産設備投資に関するニュースリリースでは、「WDとの共同投資を協議中だが、成立しない場合は東芝メモリ単独で導入予定」との方針を盛り込んだ。

 東芝は、WDが買収した米サンディスク(SD)と合弁会社を設立して四日市工場を運営。生産したメモリーチップを両社で分け合ってきた。
                   

単独で投資も辞さず


 現在、東芝は同工場に「第6製造棟」を建設中で、同棟での生産設備導入に向け、WDと合弁会社を新設するのが当然の流れとみられていた。

 実は四日市工場の主導権は東芝が握っている。合弁会社の出資比率は東芝側50・1%、WD側49・9%。東芝が工場の土地や建屋、動力設備を保有し、実際の運営も担っている。6月にこうした契約内容をあらためてWDに通達し、念を入れた。

 業界関係者によると両社の間には「量産に関するクロスライセンスなどの問題もほとんどない」という。東芝が第6製造棟に単独で生産設備を導入した場合、投資が半分になり採算性低下は避けられないが、運営はできる。

 一方、WDはパートナーとして運営に携われないと、同棟で生産予定の先端メモリーを調達できなくなる。本来なら同棟の合弁契約は春頃に締結する計画だったが遅れている。

 第6製造棟からWDを排除する可能性を示唆した東芝の発表は、運営ノウハウを有する優位なポジションを背景とした「強烈な一撃」と業界関係者は解説する。東芝メモリの第3者への売却に反対するWDの矛を収めさせる契機となるか。
                     

 東芝のWDに対する訴訟提起では、WDが東芝メモリの売却手続きへの妨害行為を継続しているとして、不正競争行為の差し止めを求めた。

 またWDはSD買収後「情報アクセスに係る契約を締結していない」(東芝)と主張。それにも関わらず、SDの社員をWDに転籍させるなどして不正に情報を取得しているとし、28日にWDの情報アクセス権を停止した。

 WDは5月に国際仲裁裁判所、15日に米カリフォルニア州上級裁判所に、売却手続きの差し止めを申し立てた。東芝の提訴はこれまでのWDの動きに対する対抗措置だ。

 東芝の主力取引銀行の幹部は「米国では一般的。(WDが)一方的に仕掛けている状況だったので、もっと早くやってもよかった」と評価する。

 東芝はこれまで、温和な“太陽作戦”を取ってきた。入札に参加する産業革新機構は「WDとの係争状態の解消が条件だ」としており、東芝にとってはWDとの対立解消が、早期売却先決定の課題の一つだったからだ。そこで東芝はWDに革新機構が参加する入札グループへの参画を持ちかけるなど、対立緩和に向けて動いていた。
「第6製造棟」を建設中の東芝・四日市工場(東芝提供)

「歩み寄れる所は歩み寄って」


 しかし、経営権取得を求める姿勢も含め、WDの強硬な態度は変わらなかった。東芝はWD問題は横に置き、革新機構や日本政策投資銀行、米ベインキャピタル、韓国SKハイニックスなどの「日米韓連合」を優先交渉先に決定。

 WDが裁判や仲裁を申し立てて妨害している点について、綱川智社長は「日米韓連合にも理解してもらっている」と説明する。「東芝側は十分我慢してきた」(関係者)。環境が整ったことで“北風作戦”による反撃ののろしをあげた。

 半導体業界は特許係争が常で、東芝の半導体チームも「どちらかといえば血の気が多い」(同)。半導体部門を統括する成毛康雄副社長も、普段は温和な技術者肌だと評判だが、関係者によれば「実は東芝役員の中でも武闘派」だという。

 内部では「ああいう相手(WD)と今後も協業していけるのか」と不安視する声も出ており、従業員や日米韓連合の関係者への影響も鑑みて、従来の宥和(ゆうわ)姿勢から対決姿勢に切り替えた。

 もっとも、今回の措置はWDとの膠着(こうちゃく)した関係を動かすために繰り出した一手だ。企業法務に詳しい安國忠彦弁護士は「(WD側の)訴訟を取り下げさせるための、交渉のテコとしての意味合いが強いのではないか」と指摘する。

 成毛副社長は28日の株主総会で「歩み寄れる所は歩み寄って係争状態を解消し、解決したい」と説明した。
                        

(文=後藤信之、政年佐貴恵)
日刊工業新聞2017年6月30日「深層断面」から抜粋
後藤信之
後藤信之 Goto Nobuyuki ニュースセンター
両社が“北風作戦”で対立している現状では、イソップ寓話のような結末は期待できないが、このまま泥仕合が続けば互いに消耗戦になるだけだ。東芝関係者は「3カ月程度をめどに何とか(解決)したい」とする。

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