東京23区の定員抑制で怒る私大、不甲斐ない文科省
地方大の魅力を高める政策ちぐはぐ。拠点づくり計画の専修や中大はどうなる?
文部科学省は29日、私立大学の2018年度入学定員について、5701人の増加を認めた。政府は大都市圏への人口集中の是正に向け、入学者が定員超過した大学への罰則を強化しており、その対応として各私大が定員自体の増員を申請。文科省の審議会を経て増員が認められた。ただ、政府はさらなる人口集中是正のため、東京23区の定員増を原則認めない方針を9日に閣議決定した。都内の私大は経営計画の修正を迫られている。
今回の定員増では、明治大学は17年度比1030人増(同15%増)、武蔵野大学は同385人増(同18%増)、大阪成蹊大学は同120人増(同25%増)などの大型増員が相次いだ。
通常、大型増員は学生を受け入れるための教員採用や、教室や研究設備などの投資が必要だ。
ただ今回の定員増は「定員超過罰則への対応が中心」と文科省の新木聡大学設置室長は説明する。内閣府が事務局を務める「まち・ひと・しごと創生本部」主導で、定員超過への罰則が厳しくなった。
2019年度から定員を超過すると私学助成金が減額される。そこで各大学は定員そのものを現在の入学者数にそろえた。
例えば明治大は13―16年度に6730人の定員に対して、実際は7321―7814人と多めに入学している。罰則を避けるため、今回、定員を7760人に増やした格好だ。
入学者数の変動幅が大きい理由は、入試で合格を与えても入学しない学生が多いためだ。国立大学や早稲田大学、慶応義塾大学などの人気校に合格者が流れるため、募集人員の3倍以上に合格を与えている大学が少なくない。
このため、明治大のように定員の意味が入学者数の下限から上限に変わっただけで、大学の経営体制に大きな影響を与えることはない。
この状況を変えるため「政府からより強い抑制策の実施」(新木室長)を求められており、9日の閣議決定につながった。
これを受け、文科省は23区の定員増を申請した大学に対し、定員抑制の協力を依頼した。だが各私大の反発は強い。
「到底受け入れられない」(中央大学の酒井正三郎総長・学長)、「地方にとっても良くない。国力が落ちる」(立教大学の吉岡知哉総長)、「東京から地元に帰りたい若者を受け入れる仕事が地方にない現実がある。私大を規制するという考えが一番の問題」(早大の鎌田薫総長)と手厳しい。
立命館の吉田美喜夫学長も、「地方学生の6割は地元就職を望むが、就職率は25%。学生の思いと雇用にギャップがある」と指摘する。就学時の東京流入を抑制しても、就職時の東京流入を抑制できるか不透明だ。
東京都への流入人口は、大学に進学する15―19歳の世代が11年は1万7433人に対し16年が1万6544人、就職する20―24歳では11年が3万5727人に対し16年は5万1037人とも増えている。
また、東京都の大学への入学者数(学部1学年分)は02年が12万5029人で16年は14万4891人と約12%増加した。
その内、東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県)以外の地方圏の出身学生は、09年が4万4831人で、16年は4万2998人と約4%減少。実際は、地方出身者が東京で学ぶ数は減っている。
新木室長は「文科省は『地方大の魅力を高め、地方に仕事を創ることが地方創生につながる』と説明してきた」と主張するものの、私大から反発の矢面に立たされている。
今後の焦点は専修大学や中央大など、都心キャンパスの整備を進めている大学の処遇だ。新木室長は「都心で土地を買い、校舎を建てれば数百億円規模の投資になる。計画がつぶれれば賠償請求もあり得る」と苦しい心情を明かす。地方創生を前に、私大経営は正念場を迎えている。
(文=小寺貴之、山本佳世子)
今回の定員増では、明治大学は17年度比1030人増(同15%増)、武蔵野大学は同385人増(同18%増)、大阪成蹊大学は同120人増(同25%増)などの大型増員が相次いだ。
通常、大型増員は学生を受け入れるための教員採用や、教室や研究設備などの投資が必要だ。
ただ今回の定員増は「定員超過罰則への対応が中心」と文科省の新木聡大学設置室長は説明する。内閣府が事務局を務める「まち・ひと・しごと創生本部」主導で、定員超過への罰則が厳しくなった。
2019年度から定員を超過すると私学助成金が減額される。そこで各大学は定員そのものを現在の入学者数にそろえた。
例えば明治大は13―16年度に6730人の定員に対して、実際は7321―7814人と多めに入学している。罰則を避けるため、今回、定員を7760人に増やした格好だ。
入学者数の変動幅が大きい理由は、入試で合格を与えても入学しない学生が多いためだ。国立大学や早稲田大学、慶応義塾大学などの人気校に合格者が流れるため、募集人員の3倍以上に合格を与えている大学が少なくない。
このため、明治大のように定員の意味が入学者数の下限から上限に変わっただけで、大学の経営体制に大きな影響を与えることはない。
この状況を変えるため「政府からより強い抑制策の実施」(新木室長)を求められており、9日の閣議決定につながった。
「地方にとっても良くない。国力が落ちる」
これを受け、文科省は23区の定員増を申請した大学に対し、定員抑制の協力を依頼した。だが各私大の反発は強い。
「到底受け入れられない」(中央大学の酒井正三郎総長・学長)、「地方にとっても良くない。国力が落ちる」(立教大学の吉岡知哉総長)、「東京から地元に帰りたい若者を受け入れる仕事が地方にない現実がある。私大を規制するという考えが一番の問題」(早大の鎌田薫総長)と手厳しい。
立命館の吉田美喜夫学長も、「地方学生の6割は地元就職を望むが、就職率は25%。学生の思いと雇用にギャップがある」と指摘する。就学時の東京流入を抑制しても、就職時の東京流入を抑制できるか不透明だ。
東京都への流入人口は、大学に進学する15―19歳の世代が11年は1万7433人に対し16年が1万6544人、就職する20―24歳では11年が3万5727人に対し16年は5万1037人とも増えている。
また、東京都の大学への入学者数(学部1学年分)は02年が12万5029人で16年は14万4891人と約12%増加した。
その内、東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県)以外の地方圏の出身学生は、09年が4万4831人で、16年は4万2998人と約4%減少。実際は、地方出身者が東京で学ぶ数は減っている。
新木室長は「文科省は『地方大の魅力を高め、地方に仕事を創ることが地方創生につながる』と説明してきた」と主張するものの、私大から反発の矢面に立たされている。
今後の焦点は専修大学や中央大など、都心キャンパスの整備を進めている大学の処遇だ。新木室長は「都心で土地を買い、校舎を建てれば数百億円規模の投資になる。計画がつぶれれば賠償請求もあり得る」と苦しい心情を明かす。地方創生を前に、私大経営は正念場を迎えている。
(文=小寺貴之、山本佳世子)
日刊工業新聞2017年6月30日