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「学問のすゝめ」が導いた新幹線の予防保全

双葉鉄道工業・関雅樹社長「社会貢献への思い、常に」
 中学、高校とバスケットボール部に所属したが、高校時代は文芸部の友人が多く、けがをきっかけに活動に参加させてもらった。そこで、読んだ本の感想を言い合ったりした。その頃は森鴎外や武者小路実篤などの純文学から司馬遼太郎などの歴史物、トルストイなどの外国文学などジャンルを問わず週に2―3冊、乱読していた。

 中でも印象に残っているのは、高校3年生の時に読んだ福沢諭吉の『学問のすゝめ』だ。国語の授業で「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」と暗記させられ、人間は平等だとか、勉強しろと説教されるような内容と思われがちだ。

 だが、文芸部の友人に薦められあらためて読むと、福沢諭吉が言いたいのは工学や農学、医学や薬学など社会に役立つ実学を勉強すべきだということ。勉強の意義を考えさせられ、目が覚めるような思いがした。

 学問のすゝめに感銘を受け福沢諭吉が好きになった私は、慶応義塾大学に進学しようと決めた。だが同じ頃、私が生まれ育った中部地方を襲った伊勢湾台風について勉強する機会があり、土砂崩れで多くの犠牲者が出ることを知った。防災の必要性を強く感じ、実学である土木を学べる岐阜大学に進学した。

 就職は大学で学んだ土木の知識が生かせると考え、日本国有鉄道(現JR東海)に入社。東海道新幹線に関わり、安全・安定輸送を追求した。

 東海道新幹線は2014年に開業50周年を迎え、老朽化が課題となった。新幹線の土木構造物の改修は前例がなく、技術的にも予算的にもハードルが高かった。

 だが、社内に研究施設を設けて技術開発を進め、老朽化を未然に防ぐ「予防保全」に転換。建て替えなどの大がかりな工事を避けてコストダウンに成功し、運休をせずに進められる大規模改修工事計画をまとめた。

 振り返ると、私の根幹には成果物で社会に貢献したいという思いが常にある。そのきっかけは福沢諭吉の実学の奨励であり、人生の基盤になっている。
関雅樹社長
日刊工業新聞2017年6月19日「書窓」
高屋優理
高屋優理 Takaya Yuri 編集局第二産業部 記者
学問のすゝめは日本人なら、国語や日本史の授業で必ず習うが、全編を読んだ人というのは少ないのではないだろうか。学校の教科書で習うものはどうも敷居が高くなり、敬遠しがちだが、名作、傑作と言われるものにはそれなりの理由がある。先入観を持たずに手に取っていくことが、視野を広げるきっかけにもなる。

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