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埼玉県警、サイバーポリスに民間人登用

NEC系から警部補に
 およそ1カ月前、身代金要求型のコンピューターウイルス「ランサムウエア」が全世界で猛威を振るった。騒ぎは収まったものの、サイバー空間に広がる脅威は何ら変わっていない。サイバー攻撃は日々巧妙化し、ワンクリック詐欺などのサイバー犯罪も常態化している。こうした事態にどう立ち向かうのか。埼玉県警察本部は他県に先駆け、任期付きの「サイバー犯罪捜査官」を民間から登用した。捜査に必須の最新の知見を外部から取り入れるのが狙いだ。

 公募で採用したのは、NECソリューションイノベータ(東京都江東区)の石田州裕氏。埼玉県警察本部生活安全部サイバー犯罪対策課の警部補として、4月に着任した。

 サイバー犯罪対策課は30代を中心にITなどの素養のある人材を県警内で集め、外部のテクニカルアドバイザーなどの協力も得て事件を捜査している。

 ただ、捜査しながら知見を得るには限界があり「サイバー犯罪の手口が巧妙化する中で実態解明が難しくなっている」(市原慎介サイバー犯罪対策課調査官)という。

 テクニカルアドバイザーへの相談も、その都度質問して回答を待っていては時間がかかる。「捜査に深く入り込み、知見をタイムリーに生かしたい」(市原調査官)との思いもあって、警察官の身分を持った専門家を採用するに至った。警察官であれば新手のウイルスやサイバー犯罪でも現場での執行権限を生かして犯罪の実態を素早く解明できるというわけだ。

 また、捜査員のITスキルを強化することも石田氏の役割の一つ。捜査では実践能力が問われることから、シミュレーションによる体感型訓練システム「サイバーレンジ」の構築を計画している。

 市原調査官は「先進技術をどう捜査につなげるかがカギだ。警察内部で独自のノウハウを磨き、人材を養成しなければならない」と力を込める。

 埼玉県警のサイバー犯罪対策課には県民からの通報が毎日入る。サイバー犯罪の検挙件数は年間約200件で高止まり状態にある一方、事件化には至らない相談件数は右肩上がりで増加している。

 その数は2016年度が6834件と、1日当たり約19件に上る。通報内容はインターネットバンキングのID盗用やオンラインゲームへの不正アクセスといった事案に加え、ウェブ上の誹謗(ひぼう)中傷を消してほしいといった相談まである。

 人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)の進展により、サイバー空間と現実社会との結び付きが強まる一方、セキュリティーが追いつかず、脆弱(ぜいじゃく)性の問題が指摘される。犯罪者はその間隙を突くことから、サイバー犯罪捜査は一段と重要になっている。
サイバー犯罪対策課の警部補に着任した石田氏

埼玉県警・石田州裕氏「社会に役立ちたい」


 埼玉県警のサイバー犯罪対策課警部補に就いた石田州裕氏に現況を聞いた。

 ―応募した理由は。
 「NECソリューションイノベータではシステムエンジニア(SE)として官公庁を担当していた。セキュリティーの専門知識は、NECが進めるセキュリティー人材育成制度で身に付けた。サイバー犯罪捜査官の件は上司から聞き『社会に役立つことができるなら』との思いから応募した」

 ―警察官としてサイバー犯罪にどう向き合うのですか。
 「民間では攻撃者のインターネット・プロトコル(IP)アドレスを突き止めても、その先をたどり、相手がどこにいるかを特定できない。そういった調査手法を身に付けることで、サイバー空間の保安・保全に貢献したい」

 ―この1年間は貴重な経験になりますね。
 「警察と事業者は、それぞれにできること、できないことがある。人材交流が進むことで、互いに協力しやすくなる。今回の経験を官民の連携強化に役立てたい」
(聞き手=斎藤実)
日刊工業新聞2017年6月13日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
埼玉県警では18年度も任期付きのサイバー犯罪捜査官を公募し、新しい知見を積極的に取り入れる方針だ。さらに「サイバー犯罪捜査員I類」の採用枠を設け、サイバー犯罪を専門にする警察官の育成も目指す。 (日刊工業新聞第一産業部・斎藤実)

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