「硬くて当たり前」な常識を覆す、曲がる金属器
「高岡銅器」、国内外でファン増加
富山県高岡市の伝統工芸「高岡銅器」。江戸時代初期から続くその歴史に新風を吹き込むのが能作(富山県高岡市、0766・63・5080)だ。高岡銅器の技法を踏まえて作るスズ100%の「曲がる器」やデザイン性の高い生活雑貨は、国内外で愛好者を増やしている。また、4月に開設した新本社は、富山県内の新たな観光拠点としても注目を集めている。
「金属は硬くて当たり前」―。この固定観念を覆したのが曲がる器。柔らかいスズは銅などを混ぜて硬くするのが常識だった器の世界で、曲がることをうたった器を2005年に発売。柔らかさを魅力とした器はヒット商品となり、能作の名はスズ製品のブランドとして国内外にとどろいた。
伝統工芸といえどグローバル化の荒波にはあらがえない。銅器の業界でも「中国が台頭するのはわかっていた」と能作克治社長は語る。従来通りでは中国の大量生産にのまれる。生き残りをかけ多品種少量生産の独自商品を模索した結果が「誰もやっていないスズ100%だった」。
“売り”は新規性だけではない。国内外に展開する直営店では、高岡銅器の歴史や文化、伝統、職人の技などの背景も訴求。新しいモノづくりと伝統の融合を商品の付加価値にするしたたかな営業戦略をとる。
さらに新本社には産業観光の拠点という新たな価値も加えた。鋳物づくりを体験できる工房や富山県内の観光スポットを案内するコーナーなども設置。5月末時点で見学者は1万3000人を超えた。
次なるステージとして見据えるのは事業分野の拡大。17年度中に3店目となる海外店舗を台湾の台北に開く考え。また、スズの曲がる特性と抗菌性を生かし、医療器具への本格進出ももくろむ。既に手術時に患部を広げるのに用いるスズ製のリング開創器を商品化している。医療器具の製造免許はあるが販売免許がないため、現状では商品を卸すことしかできない。だが、いずれ販売免許も取得し、「能作ブランドの医療器具を出したい」と能作社長は野心を燃やす。
【メモ】高岡銅器は1611年に加賀藩主の前田利長が高岡の地に7人の鋳物師を招いたのが始まりとされる。日本における銅器の生産額の約95%を占めている。原型づくり、鋳造、仕上げ加工、着色という工程をたどるが、各工程ごとに専門の業者があり、それぞれが連携して製品を完成させる分業体制をとる。その中で、能作は真ちゅうの茶道具や仏具、花器などの鋳造を担っていた。
日刊工業新聞では毎週金曜日に「プレミアムクラフト」を連載中。日本各地に225品目ある伝統的工芸品。高くて日常で使えないイメージがあるが、実際に使ってみると、磨き抜かれた実用性の高さに驚く。海外出張するビジネスマンや訪日外国人の手土産としても改めて注目を集めている。デザイナーと連携した新ブランドの設立など、現代の多様な消費者ニーズに合った新たな動きも出てきた。>
「金属は硬くて当たり前」―。この固定観念を覆したのが曲がる器。柔らかいスズは銅などを混ぜて硬くするのが常識だった器の世界で、曲がることをうたった器を2005年に発売。柔らかさを魅力とした器はヒット商品となり、能作の名はスズ製品のブランドとして国内外にとどろいた。
伝統工芸といえどグローバル化の荒波にはあらがえない。銅器の業界でも「中国が台頭するのはわかっていた」と能作克治社長は語る。従来通りでは中国の大量生産にのまれる。生き残りをかけ多品種少量生産の独自商品を模索した結果が「誰もやっていないスズ100%だった」。
“売り”は新規性だけではない。国内外に展開する直営店では、高岡銅器の歴史や文化、伝統、職人の技などの背景も訴求。新しいモノづくりと伝統の融合を商品の付加価値にするしたたかな営業戦略をとる。
さらに新本社には産業観光の拠点という新たな価値も加えた。鋳物づくりを体験できる工房や富山県内の観光スポットを案内するコーナーなども設置。5月末時点で見学者は1万3000人を超えた。
次なるステージとして見据えるのは事業分野の拡大。17年度中に3店目となる海外店舗を台湾の台北に開く考え。また、スズの曲がる特性と抗菌性を生かし、医療器具への本格進出ももくろむ。既に手術時に患部を広げるのに用いるスズ製のリング開創器を商品化している。医療器具の製造免許はあるが販売免許がないため、現状では商品を卸すことしかできない。だが、いずれ販売免許も取得し、「能作ブランドの医療器具を出したい」と能作社長は野心を燃やす。
【メモ】高岡銅器は1611年に加賀藩主の前田利長が高岡の地に7人の鋳物師を招いたのが始まりとされる。日本における銅器の生産額の約95%を占めている。原型づくり、鋳造、仕上げ加工、着色という工程をたどるが、各工程ごとに専門の業者があり、それぞれが連携して製品を完成させる分業体制をとる。その中で、能作は真ちゅうの茶道具や仏具、花器などの鋳造を担っていた。
日刊工業新聞では毎週金曜日に「プレミアムクラフト」を連載中。日本各地に225品目ある伝統的工芸品。高くて日常で使えないイメージがあるが、実際に使ってみると、磨き抜かれた実用性の高さに驚く。海外出張するビジネスマンや訪日外国人の手土産としても改めて注目を集めている。デザイナーと連携した新ブランドの設立など、現代の多様な消費者ニーズに合った新たな動きも出てきた。>
日刊工業新聞2017年6月9日