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約30年ぶりに業務カメラを開発するシャープ「8K」への本気度

「ディスプレーだけじゃなくカメラも作りたい」 戴社長のエコシステム戦略
約30年ぶりに業務カメラを開発するシャープ「8K」への本気度

「必ずV字回復を果たす」と一気に反転攻勢に出る構え(中計を発表する戴正呉社長)

 シャープは増収増益・拡大路線に打って出る。矢継ぎ早に打ってきた経営再建策で危機からの脱却にめどを付けた戴正呉社長は「8KとAIoT(AIとIoT)で世界を変える」と宣言。高精細の「8K」ディスプレーとIoT(モノのインターネット)事業を新たな成長の柱に据え、親会社の台湾・鴻海精密工業とともにグローバル市場で戦える企業に生まれ変わる計画だ。ただ、成長路線への移行には赤字脱却とは異なる力が必要だ。新生シャープの真価が問われる。

 成長の柱に据える8KとIoTでは全社に横串を通す組織としてそれぞれに「戦略推進室」を新設した。IoTは日本企業はもとより、米グーグルやアマゾンなど世界の強豪がこぞって狙う市場で、他社に勝てる製品を生み出さない限り大きな成長は難しい。成長の柱とする8KとIoTの分野でどれだけ成長の種を仕込めるかが、中計以降の持続的成長のための重要課題となる。

 8Kは、コンテンツや周辺機器も含めた市場創造が必要なため、業績貢献は早くとも19年以降になる。2018年末に国内で実用放送が計画されているが、高額なディスプレーが急速に普及するとは考えにくい。そこで注目するのがIoT(モノのインターネット)社会で利用が進む監視システムや遠隔医療、インフラ点検など業務用途だ。高精細な8K表示が生きると期待を寄せる。
遠くの人の顔もはっきり見える(画面左)

 「どうやってエコシステムを作るかだ。ディスプレーだけじゃなくカメラも作りたい」―。戴社長は「8Kエコシステム」と名付けた事業戦略について熱弁を振るった。

 フルハイビジョンの16倍の解像度を持つ8K。監視システムとして使えば、従来より遠くの人の顔も見分けられる。実際の肉眼と同じように見えるとされる画質の良さは遠隔医療にも生かせそうだ。橋などのインフラに生じたわずかな歪みの検出など、幅広い分野での利用が期待できる。

 シャープは業務用8K市場を立ち上げるため、約30年ぶりとなる業務カメラの自社開発をはじめ、画像処理半導体などのインフラ・ツール群をそろえる方針だ。親会社の台湾・鴻海精密工業が持つ映像配信用ネットワーク技術なども活用し、顧客にツール一式を提供する体制を整える。

 同分野への先行投資がかさみ、収益圧迫要因になる懸念もあるが戴社長は「カメラは赤字でも作る」との姿勢だ。他社に先駆けることで、やがて来る8Kディスプレー市場で先行者利益を享受できるとそろばんをはじく。
                    

(文=錦織承平、平岡乾)
日刊工業新聞2017年5月29日の記事から抜粋
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
「必ずV字回復を果たす」(戴社長)―。シャープは鴻海傘下に入ってからコスト削減や間接部門の分社化など構造改革を進めて業績を回復。16年度下期の当期黒字化を達成し、自信を深めた。26日発表した3カ年中期経営計画は、20年3月期連結決算の売上高を17年3月期比約1・6倍の3兆2500億円、営業利益を同2・4倍の1500億円に伸ばす。3期連続の減収から一気に反転攻勢に出る構えだ。  中計では四つの事業ドメイン(家電、ディスプレー、オフィス・工場、電子部品)を設定し、19年度に向けて全ドメインで増収を計画する。製品ラインアップの拡充とともに、鴻海の協力で販路を拡大し、欧米、中国、アジアの売上高を2―3倍以上に伸ばす。中計の3年間で計4000億円を投資する。。すでに亀山工場の設備更新に200億円を充てることも決めた。  ただ、家電と電子部品で2倍近く、オフィス工場向けで4割以上の増収計画に対して、ディスプレーは2割以下の伸びに留まる。ディスプレーは成長の柱に据える8Kディスプレーや18年度世界販売目標1000万台のテレビ事業を含むにもかかわらず慎重な計画だ。その代わり増収をけん引するとみられるのは、中国・東南アジア向けの家電、スマートフォン向けカメラモジュール、オフィス機器などの既存製品だ。 (日刊工業新聞大阪支社・錦織承平)

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