<名将に聞くコーチングの流儀#03> 香川県立高松商業高校野球部・長尾健司監督
失敗を成長の糧に(後編)
練習環境の制約を効率性の追求とチームワークを養うことで乗り越え、大きな成果を上げた野球チームがある。2016年の第88回選抜高校野球大会で準優勝した香川県立高松商業高校だ。チームを率いたのは就任3年目の長尾健司監督。高校野球の指導経験はなかったものの、選手の自主性を促す指導を心掛け、短期間でチームを改革した。
<前編:力の差を知ることで、 仲間を正しく評価する>
─思うような成果が出せなかったり、伸び悩む選手にはどのような励ましの言葉をかけますか。
長尾 うまくいかなかったことや失敗したことから何を学ぶのか、それを次にどのように活かすかが重要であることを日頃から伝えています。次に同じ失敗や悔しい思いをしないためです。選抜の決勝で負けたあとは、選手たちに「“失敗してダメになった人間”より、“成功してダメになった人間”の方がはるかに多いからな」と伝えました。
負けたことを受け止めて、何が足らなかったのか、今後、何に注力していけば良いのかを考えることが必要だと思ったからです。そのことを選手たちに伝えたいと思いました。
─改めて振り返ると、選抜で準優勝したチームの良さはどこにありましたか。
長尾 選抜で準優勝したチームは秋の四国大会に出場して優勝したことで選抜の出場権を獲得したのですが、県大会の決勝では小豆島高校(現小豆島中央高校)に負けていました。その試合後、選手が自らミーティングを実施したのです。選手自身が危機感を感じたのでしょう。自分たちで話し合って、課題や方向性を確認したようです。そのプロセスが良かったと思います。負けたことに価値があったということです。同じ失敗を繰り返さないように自分たちで考えようという意識が芽生えていたのだと思います。県大会で優勝していたら、甲子園の出場はなかったと思います。
─準優勝で得た手応えは。
長尾 日ごろから選手に伝えている“自ら考える”ということを実践し、勝てた試合もありました。
でも、準優勝だったのはやっぱり、プロセスが足りなかったからです。得点のチャンスを活かせなかったことやピンチの場面で準備ができていませんでした。“負けに不思議の負けなし”です。負けるべくして負けたということです。
特に決勝の延長11回裏の場面では2アウトを取ったあとに連打を浴びて、サヨナラ負けを喫しました。日頃から選手に伝えている“2アウトランナー1塁、一打サヨナラの場面なら外野の守備位置は深め”という基本的な戦術が徹底できてなかったのです。これは選手のダメだった点です。ですが、監督である私がもっとダメでした。
2アウトからヒットを打たれたことに腹を立てて、タイムを取り、適切な指示を伝えることができなかったからです。気持ちを切り替えることができませんでした。選手も自分で考えて次の行動を取るということができなかったし、指導者も適切なプロセスが取れなかった。選手も監督もそれぞれの立場で必要なことをしっかりとやりきる大切さを改めて学びました。
─長尾先生のモチベーションとなっていることはどんなことですか。
長尾 情熱をもって接しても選手に気持ちが通じないことは多々あります。でも、選手の考え方が良い方向へ変わっていくことを見たときは嬉しいです。
準優勝した当時の主力だったある選手は3年間で技能だけでなく、人間的にも大きく成長しました。その選手は、2年生のときから主力選手として活躍していたのですが、素直さや謙虚さが足りない面がありました。上級生から注意を受けていたのですが本人は態度を改めそうな気配がありませんでした。
ある試合前に上級生の選手から「○○をメンバーに入れるんだったら、試合に出ません」と言われたのです。こうした声が出ないチームづくりをしてきたつもりでしたが、非常に残念でした。主力選手同士の不協和音はチームにも影響します。本来ならば当事者同士を話し合わせて、解決の道を探るべきですが、試合直前で時間はありませんでした。苦渋の決断でしたが2年生の選手には考え方を改めてもらいたかったので、ベンチから外しました。
その選手の野球ノートには外されたことに対して、私を批判することばかりが書かれていました。普通の組織だったら彼の立場は非常に危うくなってしまうでしょう。でも、私は批判を受けたからといって、その選手を「今後、使わない」という判断はしません。どうすれば、心を改めてくれるのかを考えます。外した理由をていねいに説明してわかってもらうようにしました。その選手はそれ以後、周囲に対しての態度にも改善が見られるようになりました。選抜準優勝時も主力選手としてもメンバーを励まし、リーダーシップを発揮してくれました。
高校生はまだ考え方に社会性がなく不安定な部分が多いです。新入社員や若い社員と一緒です。言いたいことや腹が立つことがいっぱいありますが私が大切にしているのは1人ひとりに尊敬の念を持つことです。古豪で、負ければ周囲の評価が厳しい高商を選んでくれたわけです。「高商で野球をするからには素晴らしい人間になってほしい」と願って接すること。それが指導者だと思っています。
(聞き手、文=成島 正倫)
失敗を恐れない=成功することが重要ではありません。失敗したときに次にどうするかが大切です。「失敗と書いて、成長と読む」と選手には言っています。
<略歴>
<前編:力の差を知ることで、 仲間を正しく評価する>
結果よりもプロセスが大事
─思うような成果が出せなかったり、伸び悩む選手にはどのような励ましの言葉をかけますか。
長尾 うまくいかなかったことや失敗したことから何を学ぶのか、それを次にどのように活かすかが重要であることを日頃から伝えています。次に同じ失敗や悔しい思いをしないためです。選抜の決勝で負けたあとは、選手たちに「“失敗してダメになった人間”より、“成功してダメになった人間”の方がはるかに多いからな」と伝えました。
負けたことを受け止めて、何が足らなかったのか、今後、何に注力していけば良いのかを考えることが必要だと思ったからです。そのことを選手たちに伝えたいと思いました。
負けたときにこそ、反省する
─改めて振り返ると、選抜で準優勝したチームの良さはどこにありましたか。
長尾 選抜で準優勝したチームは秋の四国大会に出場して優勝したことで選抜の出場権を獲得したのですが、県大会の決勝では小豆島高校(現小豆島中央高校)に負けていました。その試合後、選手が自らミーティングを実施したのです。選手自身が危機感を感じたのでしょう。自分たちで話し合って、課題や方向性を確認したようです。そのプロセスが良かったと思います。負けたことに価値があったということです。同じ失敗を繰り返さないように自分たちで考えようという意識が芽生えていたのだと思います。県大会で優勝していたら、甲子園の出場はなかったと思います。
─準優勝で得た手応えは。
長尾 日ごろから選手に伝えている“自ら考える”ということを実践し、勝てた試合もありました。
でも、準優勝だったのはやっぱり、プロセスが足りなかったからです。得点のチャンスを活かせなかったことやピンチの場面で準備ができていませんでした。“負けに不思議の負けなし”です。負けるべくして負けたということです。
特に決勝の延長11回裏の場面では2アウトを取ったあとに連打を浴びて、サヨナラ負けを喫しました。日頃から選手に伝えている“2アウトランナー1塁、一打サヨナラの場面なら外野の守備位置は深め”という基本的な戦術が徹底できてなかったのです。これは選手のダメだった点です。ですが、監督である私がもっとダメでした。
2アウトからヒットを打たれたことに腹を立てて、タイムを取り、適切な指示を伝えることができなかったからです。気持ちを切り替えることができませんでした。選手も自分で考えて次の行動を取るということができなかったし、指導者も適切なプロセスが取れなかった。選手も監督もそれぞれの立場で必要なことをしっかりとやりきる大切さを改めて学びました。
1人ひとりに尊敬の念を持つことを忘れない
─長尾先生のモチベーションとなっていることはどんなことですか。
長尾 情熱をもって接しても選手に気持ちが通じないことは多々あります。でも、選手の考え方が良い方向へ変わっていくことを見たときは嬉しいです。
準優勝した当時の主力だったある選手は3年間で技能だけでなく、人間的にも大きく成長しました。その選手は、2年生のときから主力選手として活躍していたのですが、素直さや謙虚さが足りない面がありました。上級生から注意を受けていたのですが本人は態度を改めそうな気配がありませんでした。
ある試合前に上級生の選手から「○○をメンバーに入れるんだったら、試合に出ません」と言われたのです。こうした声が出ないチームづくりをしてきたつもりでしたが、非常に残念でした。主力選手同士の不協和音はチームにも影響します。本来ならば当事者同士を話し合わせて、解決の道を探るべきですが、試合直前で時間はありませんでした。苦渋の決断でしたが2年生の選手には考え方を改めてもらいたかったので、ベンチから外しました。
その選手の野球ノートには外されたことに対して、私を批判することばかりが書かれていました。普通の組織だったら彼の立場は非常に危うくなってしまうでしょう。でも、私は批判を受けたからといって、その選手を「今後、使わない」という判断はしません。どうすれば、心を改めてくれるのかを考えます。外した理由をていねいに説明してわかってもらうようにしました。その選手はそれ以後、周囲に対しての態度にも改善が見られるようになりました。選抜準優勝時も主力選手としてもメンバーを励まし、リーダーシップを発揮してくれました。
高校生はまだ考え方に社会性がなく不安定な部分が多いです。新入社員や若い社員と一緒です。言いたいことや腹が立つことがいっぱいありますが私が大切にしているのは1人ひとりに尊敬の念を持つことです。古豪で、負ければ周囲の評価が厳しい高商を選んでくれたわけです。「高商で野球をするからには素晴らしい人間になってほしい」と願って接すること。それが指導者だと思っています。
(聞き手、文=成島 正倫)
<私のコーチングの流儀>
失敗を恐れない=成功することが重要ではありません。失敗したときに次にどうするかが大切です。「失敗と書いて、成長と読む」と選手には言っています。
<略歴>
長尾健司(ながお・けんじ)1970年、香川県生まれ。香川県立丸亀高校、順天堂大学を卒業。2011年には香川大学教育学部付属坂出中学校を率いて全日本春季少年軟式野球大会に出場。体育課教諭
日刊工業新聞「工場管理2017年6月号」