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東大が産学連携で熱意を共有した“同志”とは

コマツと熱交換器の効率化でブレークスルー。建機の大半に導入
 産学連携は今、政府の「産業界から大学・研究機関への投資を3倍に」という方針によって大きなチャンスを迎えた。この流れにうまく乗り、新たなイノベーションを生み出せるのか。参考となる大学と大企業の成功事例がある。

 最先端技術に目が集まる産学連携だが、東京大学コマツは熱交換器という成熟技術でブレークスルーを生み出した。燃費の5%改善、または同じ性能で大きさの15%縮小を実現。今やブルドーザーや油圧ショベルなど、同社の建設機械の大半に導入されている。

 建機では熱を帯びたエンジンを水で冷やし、熱くなった水は熱交換器(ラジエーター)を通して冷却する。熱交換器は大型ファンで発生した風を当てて冷やす仕組みだ。

 今回は熱交換効率を高めるため、ラジエーター表面に2次流れを発生させられる突起状のフィンにおいて、壁面形状を特殊なV字型にした。砂ぼこりなどの目詰まりがしにくい形状も魅力だった。東大の発明を同社が技術移転で活用した。

 きっかけは2007年からの両者の「社会連携講座」だ。同社は排ガス規制対応でエンジン冷却効率の改善に迫られていたが、最初に対応策を絞り込まず、半年かけて多面的に検討。その中で東大の鹿園(しかぞの)直毅教授の技術に行き当たった。開発は、最適形状をシミュレーションする東大、新型フィンを実機に装着し試験するコマツに加え、和氣製作所(埼玉県所沢市)によるフィン試作で進められた。

 加工が難しく寸法精度のバラつき、高性能と低コストの両立などが課題だった。しかし最終的に3年と短期で実用化できたのは、「企業内の研究所と開発部門のような関係が築けたためだ」とコマツ技術イノベーションセンタの矢部充男チーム長は強調する。

 鹿園教授も「『できません』で終わらず、絶対にモノにするぞという熱意を共有した“同志”だった」と振り返る。だからこそ「可能性や譲歩できる点を理解し合えた」(和氣製作所の和氣庸人社長)。成功の秘策はやはり、一致団結にありそうだ。
日刊工業新聞2017年5月18日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
 大学が“稼ぐ組織”への改革に踏み出そうとしている。政府は企業から大学などへの投資を3倍の年間3500億円に増やす成長戦略を掲げる。研究者同士のつながりによる共同研究から、大学と企業が組織同士で契約して技術と事業を開発する「組織」対「組織」の産学連携への転換を促す。  東京大学は産学協創推進本部で専門弁護士を雇用し、ベンチャー支援機能を拡充した。名古屋大学は研究の企画段階から企業の声を反映する体制を整備。東京工業大学は2017年度に学長のリーダーシップの下で産学連携部門を強化する。より機動的にプロジェクトを管理、実行する。  各大学は研究企画や産学連携部門など民間企業の企画や営業にあたる部門を強化している。先行する海外大学は企画や戦略の立案力・実施力に優れ、日本企業から大型資金を獲得してきた。米スタンフォード大学は80人、米マサチューセッツ工科大学は140人以上の営業部隊を抱える。  日本の大学は企業で言えば営業体制を整えたばかり。企業に投資効果を説明するには、プロジェクト管理機能を備えねばならない。企業の先端的な研究を扱うには、機密管理や進捗管理、計画遅延時の対策など高い管理体制が求められる。

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