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準天頂衛星「みちびき」、日本は民間ビジネスで乗り遅れるな!

GNSSはIoTやビッグデータの産業基盤、各国間の競争激しく
準天頂衛星「みちびき」、日本は民間ビジネスで乗り遅れるな!

準天頂衛星「みちびき」(CGイメージ、JAXA提供)

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6月1日、米国のGPS(全地球測位システム)衛星の日本版で内閣府が運用する準天頂衛星「みちびき」の2号機を打ち上げる。2017年度中に3機を打ち上げ、18年度から初号機を含めた4機体制として本格稼働する。すでに衛星測位システム(GNSS)を利用したビジネスが盛んな欧米、中国との競争の中で、日本の宇宙産業の“みちびき”役になることが期待される。

 米衛星産業協会(SIA)の報告書によると、15年の人工衛星関連産業の世界市場規模は2083億ドル(約23兆円)で、06年の1060億ドル(約12兆円)からほぼ倍に拡大した。このうち、人工衛星によるナビゲーションなどを含めたGNSSの市場規模は780億ドル(約8兆8000億円)だ。

23兆円の7%


 同報告で人工衛星の機能別の割合を見ると、最大は「通信(民間)」で37%、「通信(政府)」で14%。“みちびき”を含む「測位」は7%を占める。米国はGPS、欧州はガリレオ、中国は北斗といったGNSSを運用して民間ビジネスでの活用を推進しており、今後、市場競争の激化は確実だ。

 内閣府宇宙開発戦略推進事務局準天頂衛星システム戦略室の守山宏道参事官は「衛星測位はIoT(モノのインターネット)、ビッグデータ(大量データ)と関わり産業の基盤になると見られるため各国間の競争が激しい」と分析する。
               

 米国のGPSが30機程度の衛星数で構成するのに対し、日本の測位衛星システムは衛星数が1ケタ少ない。だが位置精度は数センチメートルと、他国の1メートル以上の位置精度に比べると優位に立つ。守山参事官は「みちびきは宇宙の利活用において、国際的に先駆的な立場にある」と強調する。

 みちびきを運用する内閣府は3月から試験サービスを始めた。企業や研究機関はみちびきのビジネスへの活用を模索中。農業の活用などでアジア諸国も注目しており、高精度測位技術サービスの海外展開も期待できる。

自動走行・精度10cm走行


 現在、活用が期待できる分野で最も注目されるのが自動走行だ。同分野では自動車の測位に高い精度が要求され、安全にすれ違うには10センチメートルレベルの測位精度が必要となる。

 デンソーは14年からみちびきを活用した車両の高精度の測位技術実証を行っている。GPSとみちびきを組み合わせた精密測位の実証実験で、基準点からのずれをGPSだけの信号に比べて1ケタ小さい10センチメートルレベルの誤差に抑えた。今後は衛星だけでなく、カメラやセンサーなどの技術を組みあわせて高精度の測位技術を確立する。

 自動走行はトンネルや橋などで衛星からの信号を受信できない場所でも持続走行できる仕組みが必要となる。内閣府が主導する省庁横断の研究開発プログラム「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の「自動走行システム」のメンバーである自動車・システムメーカーは、センチメートルレベルの位置情報提供サービスと微小電気機械システム(MEMS)を複合した実験を15年に長野県飯田市で実施。高精度で持続的に走行できることを確認した。今後、山岳道路や高速道路でも実証を行う予定だ。
                

 三菱電機は自動走行に必要な3次元地図の作製のため、車両に簡単に取り付け可能な高精度GPS移動計測装置「三菱モービルマッピングシステム」について、17年度中の国内での製品化を目指している。

 GPSアンテナ以外にレーザースキャナーやカメラなどを車両に搭載し、走りながら道路や周辺の建物などの位置情報を10センチメートル以内の精度で収集する仕組みだ。

 同製品はみちびきへの対応を予定しており、路面の調査などの自動化技術を実用化しつつある。今後、効率的な測量や社会インフラ管理の需要があるアジアやオセアニア地域での事業拡大を目指す。

農業や無人航空機でも


 農業での取り組みも進む。SIPの「次世代農林水産業創造技術」と農林水産省との取り組みでは、2、3年後をめどに無人・有人の協調作業システムを世界に先駆けて商品化する計画を立てている。

 みちびきを利用し、高精度で低価格な農機の運転アシストや自動走行の実現を目指す。すでに14年度に総務省が豪州で実証を実施。今後は5センチメートル以内の精度でトラクターの自動走行を実現し、無人での除草作業の実証などを目指す。

 日立造船は16年11月に無人航空機(UAV)による離島への物資輸送実験を熊本県で実施した。飛行ロボット(ドローン)がGPSとみちびきからの測位信号を受信して高精度に位置を決定。離着陸を含め片道20分程度の行程を完全自律飛行で往復できた。実際に本や海産物なども輸送している。山間地や離島など日用品などの買い物が困難な地域の問題解消が期待される。
                

(文=冨井哲雄)
日刊工業新聞2017年5月10日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 みちびきは米国のGPSの補完と補強の機能を持つ。GPSやみちびきなどの衛星測位では、複数の衛星からの信号を利用し地上の位置と時刻を特定するが、地上の位置特定には最低4機の衛星からの信号受信が必要。現在の日本では、みちびき1機に対しGPSなど他の測位衛星を組み合わせて測位している。18年度からみちびき4機、23年には同7機が地球周回軌道を回り、米国に頼らない体制へ移行する。2―4号機の開発・整備費用は打ち上げ費用を含め900億円、1機当たり300億円だ。  みちびき1―4号機は、赤道上の高度3万6000キロメートルの「静止軌道」を通る3号機、静止軌道に対し軌道面を40―50度傾けた楕円(だえん)軌道上の「準天頂軌道」を通る1、2、4号機で構成され、日本の真上に長く滞在することが大きな特徴。  日本のほぼ真上を通るため、ビルが多い都市部を中心に測位精度が改善する。さらにみちびきには測位誤差を小さくするシステムを組み込んでおり、水平方向で6センチメートル以内にまで誤差を補正できる。 (日刊工業新聞科学技術部・冨井哲雄)

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