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「JR」四国・北海道は赤字。本州3社は最高益という明暗

「JR」四国・北海道は赤字。本州3社は最高益という明暗

輸送力と高速走行、グランクラスの快適さを両立させたE5系

JR7社の2017年3月期連結決算が11日出そろい、本業の鉄道事業では16年10月に上場したJR九州が発足以来初めて黒字に転換、JR貨物はバブル経済期以来の黒字復帰を果たした。分割民営化から30年、各社は非鉄道領域を開拓、拡大して経営の安定化を図るとともに、鉄道事業の効率化、収益改善を進めた。一方で経営安定基金の運用益に支えられてきたJR北海道、JR四国は苦境に立っている。

 本州3社の当期利益は、いずれも最高を更新した。JR東日本は北海道新幹線の開業効果もあり、売上高も最高。JR東海はビジネス・観光需要ともに堅調で売上高、各利益段階すべて最高。JR西日本は熊本地震の影響や北陸新幹線の延伸効果が薄れ、減収営業減益となった。

 他4社の鉄道事業は、JR九州が前期に固定資産の大幅減損などを実施し、費用を抑えたことから250億円の黒字(前期は115億円の赤字)。

 JR貨物も輸送をトラックから鉄道に転換するモーダルシフトを追い風に、5億円の黒字(同33億円の赤字)。JR北海道とJR四国の同事業は増収も、修繕費や減価償却費がのし掛かった。頼りとする経営安定基金の運用益も減り、連結経常損益は北海道が公表以来初の赤字、四国が6期ぶりの赤字。
                

日刊工業新聞2017年5月12日



次の「30年」何で稼ぐ?


 JRグループは4月に国鉄分割民営化から30周年を迎えた。国鉄時代に開業した新幹線は東海道、山陽、東北(盛岡まで)、上越の4路線だったが、分割民営化後、開発が加速し、九州や北海道にも延伸した。今や高速鉄道のネットワークは全国に張り巡らされている。2022年には九州新幹線の長崎ルート、23年には北陸新幹線が敦賀まで、31年には北海道新幹線が札幌まで延伸する計画だ。

 国鉄時代に開業した新幹線は東海道、山陽、東北(盛岡まで)、上越の4路線だったが、分割民営化後、開発が加速し、九州や北海道にも延伸した。今や高速鉄道のネットワークは全国に張り巡らされている。2022年には九州新幹線の長崎ルート、23年には北陸新幹線が敦賀まで、31年には北海道新幹線が札幌まで延伸する計画だ。
                    

 JR東海の柘植康英社長は「屋台骨の東海道新幹線を磨き上げてきた」と、30年を振り返る。東海道新幹線は1964年の開業当初、1日当たりの運行本数は60本程度だったが、民営化後、JR東海が車両や地上設備など技術革新を進め、現在は1日約358本と約6倍に拡大している。

 20年には新型車両「N700S」を導入。13年に運行を始めた現在の最新車両「N700A」以来、約7年ぶりの新型車両投入となる。

 新幹線のネットワークに加え、27年には東京・品川―名古屋間で、リニア中央新幹線が開業する。難工事が想定される品川駅、名古屋駅、南アルプストンネルは、すでに着工しており、「リニアの開業を確実に実現し、さらに飛躍する」(柘植社長)と意気込む。リニア中央新幹線は今後のJR東海の行く末も左右する、大事業となる。

 リニア中央新幹線は当初、27年の開業から8年後に名古屋―大阪間を着工し、45年に開業する計画だったが、関西の経済界をはじめとした早期開業の強い要望を反映し、工事の前倒しが決定した。
リニア新幹線

 政府から財政投融資を活用し、JR東海の財政負担を軽減して着工までの空白期間を短縮。開業は30年代後半になるとみられる。

 観光庁の田村明比古長官は「30年前に大がかりな改革をせずに来たら、日本の鉄道システムは衰退していた恐れがある。国鉄民営化によって今日の鉄道ネットワークがある」と話す。

海外展開、高速・都市鉄道計画進む


 安倍晋三首相とインドのモディ首相は15年12月に、ムンバイ―アーメダバード間の高速鉄道計画において、日本の新幹線方式を採用し、23年に開業することで合意した。

 16年11月には、すぐに設計に入り、18年に着工することも決定。このプロジェクトには、JR東日本がグループの日本コンサルタンツを通じて参画しており、同社が設計を手がけている。JR東日本は今後、開業後の運行支援などで、参画を想定している。

 JR東日本の冨田哲郎社長は「社員が活躍できるフィールドを広げたい」としており、海外事業の展開は高速鉄道に限らず、都市鉄道でも進んでいる。
モディ・インド首相を出迎える安倍総理(首相官邸のホームページより)

 JR東日本は16年8月に開業したタイ・バンコクの都市鉄道「パープルライン」のプロジェクトに参画。車両を供給したほか、メンテナンスなども手がける。都市鉄道では、JR西日本がブラジルのプロジェクトに参画。JR西日本の来島達夫社長は「海外を含めた新たな事業展開を検討する」と今後のさらなる進出に意欲的だ。

 このほか、JR東海が米国で海外事業を展開。テキサス州のダラス―ヒューストン間の高速鉄道計画について、現地法人を設立し、技術支援などを進めている。また、米国ではリニアをワシントン―ボストン間の「北東回廊」へ導入することを目指している。

観光列車運行ラッシュ


出発の合図を出す野木肇雄上野駅長(左)と出発の鐘を鳴らすJR東日本冨田哲郎社長

 17年は豪華観光列車の運行ラッシュ。5月にはJR東日本が「トランスイート四季島」、6月にはJR西日本が「瑞風」の運行を始める。

 両社ともに、企画から運行開始まで3年以上をかけ、外観、内装ともに贅(ぜい)を尽くした列車となっており、料金は1人100万円以上するコースもある。JR東日本の冨田社長は「乗ることが目的の列車を作ることで、新たな需要を掘り起こしたい」と話す。

 こうした観光列車の火付け役は、JR九州だ。JR九州は「D&S(デザイン&ストーリー)列車」と称して、人口減少で厳しい経営環境にある路線に趣向を凝らした列車を次々と走らせ、鉄道事業を活性化。路線網の維持につなげている。

 その集大成が13年に運行を始めた「ななつ星in九州」だ。ななつ星は1泊2日で25万円を超える価格帯や、工業デザイナーの水戸岡鋭治氏による車両のデザインなど、話題を集め、予約倍率は最高で37倍と、人気を博している。

 観光列車は収益に直結するものではないが、JR九州のブランド力を上げ、上場の原動力にもなった。 JR九州の青柳俊彦社長は「JR東日本やJR西日本も豪華列車を走らせるが、お客さまの獲得には自信がある」と先駆者としての意地をみせる。

21世紀型ビジネスを担えるか


温暖化ガスを抑制し、ドライバー不足にも対応する21世紀型ビジネスを担えるか

 JR北海道は16年3月に北海道新幹線を開業する一方で、16年11月に単独での維持が困難な赤字路線として、10路線13区間を公表。3区間は廃止を前提とし、8区間は路線維持について、沿線の自治体と協議に入る方針を示した。

 島田修社長は「19年度末ごろまでに自治体と一定の合意形成ができるよう努力したい」としている。全路線の約半分が対象となっており、JR北海道の窮状を物語る。JR四国も民営化の際に設置した経営安定基金の運用益に依存しており、厳しい経営状況は同じだ。

 一方、間もなく出口が見えそうなのはJR貨物。トラックのドライバー不足などを背景に、トラック輸送から鉄道輸送に切り替えるモーダルシフトを推進し、17年3月期は発足以来初めてとなる、

 鉄道事業の黒字化を見込む。田村修二社長は「何がなんでも黒字化する」と自信をみせる。JR貨物では18年度をめどに経常利益100億円(15年度59億円)を達成し、上場を目指す。
(文=高屋優理)

日刊工業新聞2017年3月17日の記事を一部修正


明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
18年3月期連結決算業績予想は、東日本と西日本が増収増益。東海はリニア中央新幹線関連の費用が増え、増収減益。九州は増収も営業、経常利益は減少。貨物は営業費用がかさみ増収減益。北海道と四国は経営安定基金の運用益が減り、経常赤字は拡大する。

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