トラックメーカーのCSR、社外だけでなく社内に効果も
商用車メーカー各社がCSR(企業の社会的責任)活動に力を入れている。広大な敷地に工場を構えているだけに、近隣の地域住民に自社の取り組みを知ってもらい、理解してもらうことが欠かせない。このため、あの手この手で地域との距離を縮める施策を打っている。ただ、活動の内容は各社各様。自社に合ったCSRの形を模索している。
トラックなどの開発の歴史や技術が学べる「いすゞプラザ」(神奈川県藤沢市)を4月に開設した、いすゞ自動車。展示車両への乗車やトラックの仕組みが学べる体験型コーナーを設けるなどして楽しく学べる施設にした。
小学生の社会科見学にも利用されるため、設置したタッチパネルなどの操作盤は小学生の身長に合わせるなどの工夫をしている。年間来場者の目標は10万人。上々の滑り出しで、土曜日の来場者は1000人を超えているという。
同社は「いすゞだからできること」をCSRの軸に据えて、施設などのハード面だけでなく、ソフト面の充実にも力を入れる。
例えば、ユーグレナと共同で次世代バイオディーゼルの実用化を目指すプロジェクトを2014年にスタートしたのを機に、15年から年4回程度、工場がある神奈川県の小学校で出張事業を実施している。
授業でミドリムシ由来のバイオディーゼル燃料でバスを走らせると、小学生から驚きの声が上がるという。CSR環境推進グループの小杉信明グループリーダーは「トラックやバスは物流を支える重要な車。燃料の観点から車両に興味を持ってもらえる」と意義を強調する。
日野自動車は大きく分けて、事業活動と事業活動外を通じた社会貢献活動という切り口でCSRに取り組む。「トラック自体が物流を支える生産財で、CSRの一環になる」(吉田秀市総合企画部長)ため、車両開発時もこの視点を大切にしている。
4月に公開した大・中型トラックには整備が必要な時期を知らせるといったシステムなどを導入。稼働を止めないトラックの開発を通じて社会に貢献しようとしている。
事業活動外では、東京都日野市内の小学校5年生を対象にした「出前授業」を2011年から実施している。専用に作製した小型プレス機や鋳造機などを小学校に持ち込み、各部の部長や次長クラスがトラックの製造方法などを教える。
16年度は17回実施、本年度も継続していく。「地域から好評なだけでなく、従業員からも『先生と呼ばれ貴重な体験ができる』との声が上がっている」(吉田部長)と一石二鳥だ。
同社製トラック・バスのミュージアム「日野オートプラザ」の来場者も好調で、08年度は約1万人だったが、16年度は約2万人に増加。地域や自動車愛好家との結びつきを強めている。
三菱ふそうトラック・バスは、国内のダイムラーグループ3社で構成する「ダイムラー・イン・ジャパン」の枠組みで、CSRに取り組む。「各社が単独で実施するよりも、メッセージを強く発信できる」(秋山誠二企業渉外・環境部長)との考えからだ。
グループとして取り組んだ事例に、東日本大震災支援の一環で、11年4月にトラックなどの支援車両50台を被災地に届けたことがある。三菱ふそうから小型トラックを30台、独ダイムラーから特殊車両を20台提供した。
ダイムラー・イン・ジャパンは「東北地方の真の復興のためには人材育成が必要」(秋山企業渉外・環境部長)との観点から、日本財団と協力して奨学金制度を創設。グロービス経営大学院の仙台校で学ぶ東北地方在住の学生に学業資金を支援する取り組みもしている。17年4月現在で86人に奨学金を支給している。
三菱ふそうが大切にするCSRの方針の一つに、サステナビリティー(持続可能性)がある。単に与えるだけでなく、与えられる関係になることで、持続的な取り組みにしようという考えだ。
そのため、ダイムラー・イン・ジャパンでは、グロービス経営大学院で学び、起業した人を講師に迎えて、イノベーションの起こし方などの講義をしてもらうユニークな方法を採っている。
UDトラックスはスウェーデン・ボルボグループのCSV(共有価値の創造)を基軸にして取り組んでいる。企画渉外部の高木理恵CSR担当マネージャーは「活動の際には社内のリソースを活用でき、かつ両者に利益があるウィンウィンの活動になっているかが重要」と話す。
同社が自社のリソースを使え、認知度向上などの自社にもメリットがある取り組みに、自社製トラックを使った「小学生向け交通安全教室」がある。
小学生にトラックの運転席に乗ってもらい死角となる場所の確認や人型の支柱を使い内輪差を知ってもらう体験型教室だ。年間4校約440人が参加している。
もう一つ力を入れるのが、高齢者を対象にした「インターネット体験会」。マウスの使い方といった基礎知識に始まり、ゴールはインターネットで目的地までの乗り換え案内ができることという。
高木CSR担当マネージャーは「地方自治体の予算は限られており、高齢者向けのIT教室まで手が回らない。UDトラックスには専門のIT部門がある。社内のリソースを生かせる分野だ」と話す。
(文=尾内淳憲)
【いすゞ】開発の歴史・技術伝える
トラックなどの開発の歴史や技術が学べる「いすゞプラザ」(神奈川県藤沢市)を4月に開設した、いすゞ自動車。展示車両への乗車やトラックの仕組みが学べる体験型コーナーを設けるなどして楽しく学べる施設にした。
小学生の社会科見学にも利用されるため、設置したタッチパネルなどの操作盤は小学生の身長に合わせるなどの工夫をしている。年間来場者の目標は10万人。上々の滑り出しで、土曜日の来場者は1000人を超えているという。
同社は「いすゞだからできること」をCSRの軸に据えて、施設などのハード面だけでなく、ソフト面の充実にも力を入れる。
例えば、ユーグレナと共同で次世代バイオディーゼルの実用化を目指すプロジェクトを2014年にスタートしたのを機に、15年から年4回程度、工場がある神奈川県の小学校で出張事業を実施している。
授業でミドリムシ由来のバイオディーゼル燃料でバスを走らせると、小学生から驚きの声が上がるという。CSR環境推進グループの小杉信明グループリーダーは「トラックやバスは物流を支える重要な車。燃料の観点から車両に興味を持ってもらえる」と意義を強調する。
【日野】小学校に「出前授業」
日野自動車は大きく分けて、事業活動と事業活動外を通じた社会貢献活動という切り口でCSRに取り組む。「トラック自体が物流を支える生産財で、CSRの一環になる」(吉田秀市総合企画部長)ため、車両開発時もこの視点を大切にしている。
4月に公開した大・中型トラックには整備が必要な時期を知らせるといったシステムなどを導入。稼働を止めないトラックの開発を通じて社会に貢献しようとしている。
事業活動外では、東京都日野市内の小学校5年生を対象にした「出前授業」を2011年から実施している。専用に作製した小型プレス機や鋳造機などを小学校に持ち込み、各部の部長や次長クラスがトラックの製造方法などを教える。
16年度は17回実施、本年度も継続していく。「地域から好評なだけでなく、従業員からも『先生と呼ばれ貴重な体験ができる』との声が上がっている」(吉田部長)と一石二鳥だ。
同社製トラック・バスのミュージアム「日野オートプラザ」の来場者も好調で、08年度は約1万人だったが、16年度は約2万人に増加。地域や自動車愛好家との結びつきを強めている。
【三菱ふそう】学業資金支援で人材育成
三菱ふそうトラック・バスは、国内のダイムラーグループ3社で構成する「ダイムラー・イン・ジャパン」の枠組みで、CSRに取り組む。「各社が単独で実施するよりも、メッセージを強く発信できる」(秋山誠二企業渉外・環境部長)との考えからだ。
グループとして取り組んだ事例に、東日本大震災支援の一環で、11年4月にトラックなどの支援車両50台を被災地に届けたことがある。三菱ふそうから小型トラックを30台、独ダイムラーから特殊車両を20台提供した。
ダイムラー・イン・ジャパンは「東北地方の真の復興のためには人材育成が必要」(秋山企業渉外・環境部長)との観点から、日本財団と協力して奨学金制度を創設。グロービス経営大学院の仙台校で学ぶ東北地方在住の学生に学業資金を支援する取り組みもしている。17年4月現在で86人に奨学金を支給している。
三菱ふそうが大切にするCSRの方針の一つに、サステナビリティー(持続可能性)がある。単に与えるだけでなく、与えられる関係になることで、持続的な取り組みにしようという考えだ。
そのため、ダイムラー・イン・ジャパンでは、グロービス経営大学院で学び、起業した人を講師に迎えて、イノベーションの起こし方などの講義をしてもらうユニークな方法を採っている。
【UDトラックス】高齢者にネット体験会
UDトラックスはスウェーデン・ボルボグループのCSV(共有価値の創造)を基軸にして取り組んでいる。企画渉外部の高木理恵CSR担当マネージャーは「活動の際には社内のリソースを活用でき、かつ両者に利益があるウィンウィンの活動になっているかが重要」と話す。
同社が自社のリソースを使え、認知度向上などの自社にもメリットがある取り組みに、自社製トラックを使った「小学生向け交通安全教室」がある。
小学生にトラックの運転席に乗ってもらい死角となる場所の確認や人型の支柱を使い内輪差を知ってもらう体験型教室だ。年間4校約440人が参加している。
もう一つ力を入れるのが、高齢者を対象にした「インターネット体験会」。マウスの使い方といった基礎知識に始まり、ゴールはインターネットで目的地までの乗り換え案内ができることという。
高木CSR担当マネージャーは「地方自治体の予算は限られており、高齢者向けのIT教室まで手が回らない。UDトラックスには専門のIT部門がある。社内のリソースを生かせる分野だ」と話す。
(文=尾内淳憲)
日刊工業新聞2017年5月4日