東芝メモリー売却に待ったをかける米WDは、敵か味方か
入札で劣勢に立たされ巻き返しを図った!?東芝は時間との戦い
東芝が2万人超の転籍を伴う主要4事業の分社化を決めた。経営体制を抜本的に見直すため組織に大なたを振るい、経営責任の明確化と再建の取り組みを加速する狙いだ。だが再建に向けた重要なハードルであるメモリー事業売却では、提携先である米ウエスタンデジタル(WD)が“契約違反”として待ったをかけた格好。東芝の経営再建は時間との闘いになっている。
3月末の1次入札に続き、2次入札を準備中。WDは9日付で東芝に意見書を提出。東芝メモリの売却は「合弁契約の極めて重大な違反」と批判した。
東芝は米サンディスクと2000年からメモリー事業において開発、生産の両面で提携してきた。16年にWDがサンディスクを買収してからも関係を維持。特に生産面でのつながりは深く、両社が設立した合弁会社が四日市工場(三重県四日市市)を運営する。
東芝側が50・1%、WD側が49・9%を出資する合弁会社は両社のメモリー事業の要。このため東芝、WDどちらか一方の都合だけで持ち分を第三者に移転できない契約だが、東芝メモリの売却に関し、「見解の相違」が生じている模様だ。
今回の案件では合弁会社の持ち分の移転は2回生じる。1回目は東芝から東芝メモリへの持ち分の移転。合弁契約書には「合弁相手と合意の上で関連会社1社に持ち分を譲渡できる」とある。
「合弁相手の合意」という規定があるが「不当な理由で合意を保留してはならない」との記載もあり、関連会社への移転を基本的に容認する内容ととれる。しかしWDは「正当な理由」を主張し、異議を唱えている可能性がある。
2回目は第三者への持ち分の移転。契約書は「両社の合意なく、持ち分を第三者に移転できない」と規定する。東芝が東芝メモリ株式の過半を第三者に売却すれば、合弁会社の東芝メモリの持ち分も売却先企業へと移転するため、WDはこれを実質的な第三者への売却として「契約違反」を主張し得る。
東芝幹部は「メモリー事業分社化や売却手続きに問題はない」と明言。実際に契約書に「両社の同意不要で権利を移転できるととれる項目もある」(業界関係者)との指摘もある。両社の同意無しに持ち分を第三者へ移転できるか、ここに「意見の相違」がある可能性がある。
ある業界関係者は「入札でWDが劣勢に立たされ、巻き返しを図った」とみる。東芝が3月末で締め切った1次入札には米韓台の10社弱が応札。米ブロードコムと台湾・鴻海精密工業が2兆円超を提示し金額面で先行する一方、WDの提示金額は1兆5000億円程。
WDが東芝メモリを買収するとメモリーのシェアが上がり、独占禁止法の審査に時間がかかるのもネックで、「WDは優先度の低い入札者」(業界関係者)と見なされていた。
仮にWD以外の企業が東芝メモリを買収し、四日市工場の共同運営の枠組みを破棄すれば、WDのメモリー事業は成立しない。WDにとって東芝メモリの入札を有利に進められるかは死活問題で、意見書で法的手段も辞さない考えを示した。
入札の参加企業からは「WD問題が深刻化する可能性も意識している。次のアクションが取れない」との不安の声が上がる。入札を前に進めるには、WDとの溝を埋める必要がある。東芝は近く協議を本格化する意向だ。
「当社の言い分はある。(WDと)戦えないわけではない」―。東芝幹部は自信を見せるが、東芝には時間的制約という弱みがある。
同社は17年3月期に6200億円の債務超過に陥る見込み。2期連続の債務超過で上場廃止になるため、18年3月末までの東芝メモリ売却・資金調達が必要。6月下旬の株主総会までに東芝メモリの売却先を決め、18年3月末までに売却手続きを完了するスケジュールで、時間は少ない。
(文=政年佐貴恵、後藤信之)
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3月末の1次入札に続き、2次入札を準備中。WDは9日付で東芝に意見書を提出。東芝メモリの売却は「合弁契約の極めて重大な違反」と批判した。
東芝は米サンディスクと2000年からメモリー事業において開発、生産の両面で提携してきた。16年にWDがサンディスクを買収してからも関係を維持。特に生産面でのつながりは深く、両社が設立した合弁会社が四日市工場(三重県四日市市)を運営する。
東芝側が50・1%、WD側が49・9%を出資する合弁会社は両社のメモリー事業の要。このため東芝、WDどちらか一方の都合だけで持ち分を第三者に移転できない契約だが、東芝メモリの売却に関し、「見解の相違」が生じている模様だ。
持ち分の移転が2回
今回の案件では合弁会社の持ち分の移転は2回生じる。1回目は東芝から東芝メモリへの持ち分の移転。合弁契約書には「合弁相手と合意の上で関連会社1社に持ち分を譲渡できる」とある。
「合弁相手の合意」という規定があるが「不当な理由で合意を保留してはならない」との記載もあり、関連会社への移転を基本的に容認する内容ととれる。しかしWDは「正当な理由」を主張し、異議を唱えている可能性がある。
2回目は第三者への持ち分の移転。契約書は「両社の合意なく、持ち分を第三者に移転できない」と規定する。東芝が東芝メモリ株式の過半を第三者に売却すれば、合弁会社の東芝メモリの持ち分も売却先企業へと移転するため、WDはこれを実質的な第三者への売却として「契約違反」を主張し得る。
東芝幹部は「メモリー事業分社化や売却手続きに問題はない」と明言。実際に契約書に「両社の同意不要で権利を移転できるととれる項目もある」(業界関係者)との指摘もある。両社の同意無しに持ち分を第三者へ移転できるか、ここに「意見の相違」がある可能性がある。
ある業界関係者は「入札でWDが劣勢に立たされ、巻き返しを図った」とみる。東芝が3月末で締め切った1次入札には米韓台の10社弱が応札。米ブロードコムと台湾・鴻海精密工業が2兆円超を提示し金額面で先行する一方、WDの提示金額は1兆5000億円程。
WDが東芝メモリを買収するとメモリーのシェアが上がり、独占禁止法の審査に時間がかかるのもネックで、「WDは優先度の低い入札者」(業界関係者)と見なされていた。
入札参加企業「次のアクションが取れない」
仮にWD以外の企業が東芝メモリを買収し、四日市工場の共同運営の枠組みを破棄すれば、WDのメモリー事業は成立しない。WDにとって東芝メモリの入札を有利に進められるかは死活問題で、意見書で法的手段も辞さない考えを示した。
入札の参加企業からは「WD問題が深刻化する可能性も意識している。次のアクションが取れない」との不安の声が上がる。入札を前に進めるには、WDとの溝を埋める必要がある。東芝は近く協議を本格化する意向だ。
「当社の言い分はある。(WDと)戦えないわけではない」―。東芝幹部は自信を見せるが、東芝には時間的制約という弱みがある。
同社は17年3月期に6200億円の債務超過に陥る見込み。2期連続の債務超過で上場廃止になるため、18年3月末までの東芝メモリ売却・資金調達が必要。6月下旬の株主総会までに東芝メモリの売却先を決め、18年3月末までに売却手続きを完了するスケジュールで、時間は少ない。
(文=政年佐貴恵、後藤信之)
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日刊工業新聞2017年4月25日「深層断面」から抜粋