ティラワだけじゃないミャンマーの経済特区
再び動き出すダウェー開発
専門家はこう見る
【政策研究大学院大学教授・工藤年博氏】
―この1年でミャンマーは何が一番変わりましたか。
「国際社会の見る目が変わった。かつては軍事政権のキワモノ国家というイメージがあったが、今は普通の国になりつつある。しかし、国内的にはテインセイン前政権時代と比べ、劇的な変化は見られない」
―変化がないことは、国民の不満につながりませんか。
「今のところ、あまり不満の声は聞かれない。軍事政権は半世紀も続いた。国民はすぐに結果を求めてはいないだろう。NLDに代わる野党も育っていない。恐らく2020年の総選挙もNLDが勝ち、25年の総選挙ぐらいからマニフェスト(政権公約)を競う本格的な選挙になるのではないか」
―地方の低開発地域ほど法人税などを減免する投資優遇制度を4月に施行予定です。企業活動への影響は。
「必ずしも一律に低開発地域を優遇するのではなく、都市部でも一部戦略的な地域は優遇の対象にするようだが、企業の投資に影響を与えるほどの効果はないと見る」
「地方へ投資を分散する意図が見えるが、今の段階で電気や裾野産業のない地方にスタンドアローン(単独で)で投資する企業は皆無だろう。ミャンマーはまず商都ヤンゴンや第2の都市マンダレーに産業を集積させ、インフラが一定程度整い、産業に厚みが出てきた段階で地方分散を検討すべきだ」
【上智大学総合グローバル学部教授・根本敬氏】
―経済界からはスーチー政権になり、投資の許認可が遅くなったとの声があります。
「前政権までは特定の要人に依頼すれば認可がすぐに下りる場合もあったが、現政権は手続きをオープンにしようと試みている。そのために時間がかかってしまう。短期的な収益を求める企業には好ましくないだろうが、中長期的には手続きの透明化は企業にとってもよいことだ。長い目で見る必要がある」
―課題である軍との関係はいかがですか。
「この1年で政権と軍の亀裂がはっきりした。典型例が少数民族問題とバングラデシュとの国境沿いに住むイスラム教徒ロヒンギャの問題だ。憲法上、国防相、内務相(警察)、国境相は軍人しか就けず、スーチー氏が軍を差し置いて問題に対処できない。その結果、時にちぐはぐな対応が生じている」
―今後の行方は。
「スーチー氏も軍との衝突を望んでおらず、バランスを取ろうと努めている。何とか時間をかけながら軍を説得し、憲法改正にもっていくのではないか」
―スーチー氏は71歳と高齢です。後継者は育っていますか。
「ピョー・ミン・テインヤンゴン管区首相の人気が高い。スーチー氏の個人商店の色彩が濃い現政権において、ヤンゴン管区首相は独自の判断で腕を振るっている。ただ、地方でも人気があるかは定かではない」
日刊工業新聞2017年3月27日