マンション市場に異変!新築沈み、中古浮上
住宅ストックの均衡崩れ、価格の先安観も根強く
マンション市場が変わりつつある。新築マンションの主戦場首都圏では発売戸数が低迷し、大手の寡占化が進行。新築に代わって実需層のニーズの受け皿となった中古マンションは流通が拡大し、リフォーム需要の喚起にもつながっている。良質な住宅ストックの形成という観点では、新築の供給と中古の流通が均衡することが望ましいが、急速な市場変化は値崩れを起こす懸念もある。将来的な人口減少を見込んだ価格の先安観も根強く、ソフトランディングできるかどうかが焦点だ。
不動産経済研究所がまとめた2016年の首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)マンション販売戸数は前年比11・6%減の3万5772戸と3年連続で減少。価格の高止まりでエンドユーザーの動きが鈍く、デベロッパーも販売戸数を絞っている。
契約率は同5・7ポイント低下の68・8%。7年ぶりに好不調の判断の目安となる70%を下回った。同研究所によると16年の全国のマンション発売戸数は前年比1・4%減の7万6993戸だった。
首都圏に比べて減少幅は小さいのは、多くのデベロッパーが地方での開発にシフトしたため。地方は市場が小さく、継続的に供給を増やすのは難しい。ある業界関係者は「(市場調査の)数字以上に新築マンションは売れていない」と指摘する。
事業環境が厳しくなる中、マンション市場は大手の寡占化が進む。同研究所によるマンション供給戸数ランキングでは、不動産大手5社が首都圏の供給戸数に占める割合は、11年は29・7%だったが、16年は37・4%に増えた。ターミナル駅前の再開発や、1戸当たりの価格が1億円以上の高額物件を手がけるのは、マンション専業のデベロッパーにはハードルが高い。
大手でも好調が目立つのが住友不動産。事業者別供給戸数で3年連続でトップになった。「数年前から利便性重視の傾向が強まることを踏まえ、用地取得を内側へシフトさせたことが奏功した」(同社)。
共働き世帯やシニア世代の都心回帰の傾向をとらえ、供給戸数を伸ばした。年明け以降もモデルルームへの来場者数は前年比10%程度のプラスで推移しているという。
一方、足元では発売戸数に好転の兆しも出ている。不動産経済研究所によると2月の首都圏マンション発売戸数は前年同月比3・3%増の2310戸と2カ月ぶりに増加した。
16年の後半から施工費に下落の傾向が出ており、東京23区以外では軒並み価格が低下している。不動産経済研究所の松田忠司主任研究員は「買いたい物件があれば、今は買い時だ」と話す。
水面下では成約の際にモデルルームの家具を無償で付けたり、高グレードの住宅設備を標準価格で提供したりでの実質値下げの動きも見られるようだ。
今後は地価上昇がマンション価格を押し上げる懸念もある。国土交通省がまとめた17年の公示地価は東京圏の住宅地が4年連続で上昇した。都心部の人気エリアではホテルの開発事業者との用地獲得競争が激化している。
「今動いているプロジェクトはともかく、今後は収益性確保が難しくなってくる。慎重にやっていかないといけない」(大手不動産幹部)。
新築マンションから離れた実需層が中古物件を選択肢に入れるケースが増えた。中古とはいえ東京都心部などでは新築を上回る価格まで高騰した物件もあり、高値では新築と同じだが、今が売り時と考えて物件を手放すオーナーも増え、流通が活性化している。
東日本不動産流通機構(東日本レインズ)によると16年の首都圏中古マンション成約件数は2年連続で前年を上回り、過去最高となった。
中古マンションは販売時や購入後にリフォームやリノベーション(大規模改修)されることが多い。建材・住宅設備メーカー各社は需要の取り込みに力を入れている。
パナソニック・エコソリューションズ社は4月1日、リフォームに特化したショールームを東京都足立区に新設する。同区周辺は一戸建て住宅も多いが、同社の黒木亮司東京建材営業所長は「実感として都内ではマンションリノベーションが最も伸びている」と語る。一戸建て、マンションの両面で顧客を掘り起こす考えだ。
タカラスタンダードは20年度までに売上高を16年度比11%増の2000億円まで伸ばす計画。リフォーム事業の売上高構成比は現状の33%から20年度までに40%へ引き上げる。
LIXILの新宿にある旗艦ショールームでもリフォームを検討する来場者が目立つ。同社はリノベーションの定額制パッケージプランを展開中。13年からマンションタイプを追加したところ「年々伸びている」。
TOTOのショールームではリフォーム目的の来場者が増加。マンション大量供給期だった90年代半ば以降の物件が「適齢期を迎えている」。新設ショールームには必ずマンションのリフォームコーナーを設け、需要の取り込みを進めている。
(文=斉藤正人)
<専門家が読む市況の先行き>
23区以外軒並み価格低下
不動産経済研究所がまとめた2016年の首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)マンション販売戸数は前年比11・6%減の3万5772戸と3年連続で減少。価格の高止まりでエンドユーザーの動きが鈍く、デベロッパーも販売戸数を絞っている。
契約率は同5・7ポイント低下の68・8%。7年ぶりに好不調の判断の目安となる70%を下回った。同研究所によると16年の全国のマンション発売戸数は前年比1・4%減の7万6993戸だった。
首都圏に比べて減少幅は小さいのは、多くのデベロッパーが地方での開発にシフトしたため。地方は市場が小さく、継続的に供給を増やすのは難しい。ある業界関係者は「(市場調査の)数字以上に新築マンションは売れていない」と指摘する。
進む大手の寡占化
事業環境が厳しくなる中、マンション市場は大手の寡占化が進む。同研究所によるマンション供給戸数ランキングでは、不動産大手5社が首都圏の供給戸数に占める割合は、11年は29・7%だったが、16年は37・4%に増えた。ターミナル駅前の再開発や、1戸当たりの価格が1億円以上の高額物件を手がけるのは、マンション専業のデベロッパーにはハードルが高い。
大手でも好調が目立つのが住友不動産。事業者別供給戸数で3年連続でトップになった。「数年前から利便性重視の傾向が強まることを踏まえ、用地取得を内側へシフトさせたことが奏功した」(同社)。
共働き世帯やシニア世代の都心回帰の傾向をとらえ、供給戸数を伸ばした。年明け以降もモデルルームへの来場者数は前年比10%程度のプラスで推移しているという。
一方、足元では発売戸数に好転の兆しも出ている。不動産経済研究所によると2月の首都圏マンション発売戸数は前年同月比3・3%増の2310戸と2カ月ぶりに増加した。
16年の後半から施工費に下落の傾向が出ており、東京23区以外では軒並み価格が低下している。不動産経済研究所の松田忠司主任研究員は「買いたい物件があれば、今は買い時だ」と話す。
値下げの動き
水面下では成約の際にモデルルームの家具を無償で付けたり、高グレードの住宅設備を標準価格で提供したりでの実質値下げの動きも見られるようだ。
今後は地価上昇がマンション価格を押し上げる懸念もある。国土交通省がまとめた17年の公示地価は東京圏の住宅地が4年連続で上昇した。都心部の人気エリアではホテルの開発事業者との用地獲得競争が激化している。
「今動いているプロジェクトはともかく、今後は収益性確保が難しくなってくる。慎重にやっていかないといけない」(大手不動産幹部)。
中古の人気上昇、最高の成約件数
新築マンションから離れた実需層が中古物件を選択肢に入れるケースが増えた。中古とはいえ東京都心部などでは新築を上回る価格まで高騰した物件もあり、高値では新築と同じだが、今が売り時と考えて物件を手放すオーナーも増え、流通が活性化している。
東日本不動産流通機構(東日本レインズ)によると16年の首都圏中古マンション成約件数は2年連続で前年を上回り、過去最高となった。
中古マンションは販売時や購入後にリフォームやリノベーション(大規模改修)されることが多い。建材・住宅設備メーカー各社は需要の取り込みに力を入れている。
パナソニック・エコソリューションズ社は4月1日、リフォームに特化したショールームを東京都足立区に新設する。同区周辺は一戸建て住宅も多いが、同社の黒木亮司東京建材営業所長は「実感として都内ではマンションリノベーションが最も伸びている」と語る。一戸建て、マンションの両面で顧客を掘り起こす考えだ。
タカラスタンダードは20年度までに売上高を16年度比11%増の2000億円まで伸ばす計画。リフォーム事業の売上高構成比は現状の33%から20年度までに40%へ引き上げる。
LIXILの新宿にある旗艦ショールームでもリフォームを検討する来場者が目立つ。同社はリノベーションの定額制パッケージプランを展開中。13年からマンションタイプを追加したところ「年々伸びている」。
TOTOのショールームではリフォーム目的の来場者が増加。マンション大量供給期だった90年代半ば以降の物件が「適齢期を迎えている」。新設ショールームには必ずマンションのリフォームコーナーを設け、需要の取り込みを進めている。
(文=斉藤正人)
<専門家が読む市況の先行き>
日刊工業新聞2017年3月29日