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ネット通販、マツダ、スバルが地価を押し上げた!

工業地9年ぶり上昇、物流施設への投資拡大
ネット通販、マツダ、スバルが地価を押し上げた!

全国の工業地で最も上昇率が高かった地点付近(埼玉県入間市の武蔵工業団地内=21日撮影)

 地価の上昇が続いている。国土交通省が21日発表した2017年公示地価(1月1日時点)によると、全国全用途の地価上昇率は0・4%と2年連続で上昇した。世界的な金融緩和を背景に、日本の不動産市場への積極的な投資姿勢は継続している。オフィスビルや商業施設だけでなく、物流施設などに投資対象が拡大したことで工業地は9年ぶりに上昇した。

 工業地の上昇は物流施設の立地需要の高まりが背景にある。電子商取引(EC)の普及や、企業物流を包括的に受託するサードパーティー・ロジスティクス(3PL)の拡大で、先進的な大型物流施設への需要は年々高まっている。首都圏中央連絡自動車道(圏央道)など高速道路網の整備が進み、物流施設の適地が増えている。
              

 なぜ入間市の工業団地の上昇率がトップ?


 全国の工業地で最も上昇率が大きかったのは埼玉県入間市内の工業団地だった。埼玉県では15年に圏央道の県内区間が全線開通。17年2月には茨城県内区間も全線開通し、成田空港にもアクセスしやすくなる。交通利便性の向上で物流用地の需要が高まっている。

 入間市のほかにも、工業地の上昇率上位10番目までの地点は、ほぼ物流用地としての需要拡大が地価の上昇要因となっている。千葉県船橋市の地点は東京外かく環状道路の整備進展で一層のアクセス性向上が見込まれている。

 神奈川県寒川町の地点は首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の開通区間の延伸効果が寄与している。仙台市では東日本大震災後の復興関連企業の進出や移転需要は落ち着いたが、物流施設用地への需要は引き続き強い。

 沖縄県はもともと工業地が少ないという固有の事情に加え、那覇空港の貨物ターミナル拡大以来、貨物取扱高が急激に増えており、流通業務に必要な土地需要が増加傾向にある。近年では那覇市の南に隣接する豊見城市の豊崎地区で取引額が高騰。その余波が及んだ糸満市の工業地がその影響を受け、著しく地価が上昇している。
            

自動車メーカー、地元産業に好循環


 物流施設の立地需要以外の要因で上昇している地点を見ると、地元の産業の好調な推移が地価に好影響を及ぼしているケースが多い。特に目立ったのがマツダのお膝元である広島市内の地域で、南区では7%近い上昇率を示す地点があった。

 富士重工業の自動車部門の主力工場がある群馬県太田市や、トヨタ自動車の本拠地である愛知県豊田市でも上昇した地点があった。

 航空機産業が主体の岐阜県各務原市でも地価が上昇した。市内の工場適地は完売状態にあり、今後も工業地の需要が見込まれるという。

 また、浜松市の北区や浜北区では、新東名高速道路など交通インフラ整備に加え、事業継続計画(BCP)対策として沿岸部から内陸部へと工場を移転する動きがあり、地価が上昇している。
マツダ関連企業の工場需要で地価が上昇した広島市南区

(文=斎藤正人)
日刊工業新聞2017年3月22日「深層断面」から抜粋
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 先進的な物流施設は投資対象としても注目されており、地価を押し上げた面がある。米国系の大手不動産サービス企業のジョーンズラングラサール(JLL、東京都千代田区)がまとめた不動産投資の用途別割合によると、オフィスは15年に58%を占めていたが、16年は47%に低下した。一方で物流施設は10%から23%に割合を高めた。  JLLによると、日本国内の商業用不動産に対する16年の直接投資総額は15年に比べて11%減少した。東京都心の物件では価格の上昇で期待利回り(キャップレート)がリーマン・ショック前のミニバブル期の水準まで低下。投資家の間でやや警戒感が漂っている。マイナス金利の影響で物件の保有コストが低下し、売却物件が減少しているという事情もある。  J―REIT(上場不動産投資信託)の場合、投資口価格の上昇によって配当利回りが相対的に低下したため、期待利回りの低い物件でも投資対象となるが、「海外投資家は買いたくても買えない状況に陥っている」(大東雄人JLLリサーチ事業部アソシエイトダイレクター)。期待利回りが高い物件を求めて東京都心以外の物件や、物流施設、ホテルなどに投資資金が向かっている。  中でも物流施設は00年以降に投資市場が形成された新しいセクター。「成熟していないため利回りが高い」(同)ことが投資家を引きつけている。 (日刊工業新聞第二産業部・斎藤正人)

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