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「獺祭」が年間を通じて仕込める温度管理の秘密

冷却水でもろみの温度を調節、発酵熱による上昇防ぐ
「獺祭」が年間を通じて仕込める温度管理の秘密

新本社蔵300本の醸造タンクすべてに冷却水が通る

 純米大吟醸酒「獺祭(だっさい)」で知られる旭酒造(山口県岩国市、桜井一宏社長)。冬場に仕込む通常の酒造りと違い社員の手で年間を通じて仕込むのが特徴だ。それを可能にしたのが精密な温度管理だ。

 2015年4月に建て替えが終わった12階建ての新しい本社蔵。中に入ると年間を通じて6度Cに保たれた蔵の中に醸造用のタンクがずらりと並び、フルーティーな香りが漂う。300本のタンクの中で、1カ月以上かけてじっくりと吟醸酒の発酵が進んでいく。

 このタンクの温度管理こそ酒造りのキモの一つ。もろみの温度は5度Cから12度Cの間で推移するが、放っておけば発酵熱で温度が上昇する。

 それを冷やすのが水。すべてのタンクにバルブがついて壁の内部に冷却水の配管が通っており、バルブの開閉でもろみの温度を調節できる。外側をフェルトで覆っているタンクもある。

 「人手による櫂(かい)入れでも温度調節するが、それは0・5度Cくらいの微妙な調節をしたいとき。メーンは水と空調で調節する」と西田英隆取締役製造部長。

 この冷却水を作るのが、空冷ヒートポンプを使った氷蓄熱システムによるチラーだ。夜間の安い電力を使って氷を作り、ほぼ0度Cに近い水を作る。電力の負荷を平準化し空調コストも下げられる。

 水は蒸した酒米の冷却工程でも使われる。酒米は精米し洗って巨大な蒸し機で蒸される。その後、100度C近くある蒸米を、仕込むために5度Cまで下げなくてはいけない。

 米を冷ます「蒸米放冷機」という機械を使うが、通常は室温近くまでしか下がらない。旭酒造では水で冷風を作って冷やすことで10度C以下まで温度を下げることができる。新本社蔵稼働に併せて導入した最新の装置だ。

 「一番の目的は品質にある。年間を通して均一な品質のお酒を提供したくて始めたやり方」(西田取締役)。旭酒造の酒造りでは、水は仕込み水だけでなく冷却用途でも大きな役割を果たしている。
(文=広島・清水信彦)
【事業所概要】▽所在地=山口県岩国市周東町獺越2167の4、0827・86・0120▽主要生産品目=純米大吟醸酒▽年間エネルギー使用量=電力781万キロワット時、A重油481キロリットル(直近12カ月間)▽年間CO2排出量=未算定
日刊工業新聞2017年3月2日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
昨年の出荷量は約2万6000石(約4690キロリットル)。うち海外への出荷は約1割だった。1年で約65%の増収、出荷量は2年前に比べると2倍以上に伸びた。社員の手で年間を通じて仕込む生産体制のため、増産対応もしやすい。

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