人生におけるスポーツの役割。エンターテインメントか学校教育か
「スポーツ×デジタル」の可能性を考える
IoTで選手とファンの距離が近づく
―感動を広げていくためには、ファンを知ることも大切です。デジタルならもっと情報を付加することで、ファンにとって嬉しいアプローチができるようになります。一方で、ファンに楽しんでいただくためにデジタルを活用することもかなり進んでいますね。
小口 私はパ・リーグさんと色々な取り組みをしています。野球の試合映像は2時間くらいありますが、自分の好きな選手の打席だけとか、ホームランだけとかを検索して見られれば、野球のロイヤリティが上がるのではないかということで技術開発を始めました。
映像認識の技術を使って、投球シーンに自動的にタグをつけ、そこに様々なメタ情報をつけていくと、映像が検索できるようになります。当初はエンターテインメント向けだったのですが、今は選手向けにもなっています。
例えば、パ・リーグ全体の対戦のうち、日本ハムの大谷投手が「空振りを取ったシーン」や「ローコースだけ」「フォークだけ」といった映像を絞り込むこともできます。
また、調子が良い時と悪い時の映像を重ねて比較することもできます。「早送りして目的のシーンを探す」といった手間もなく、観たいシーンだけを摘んで観ることができるようになりました。これがテクノロジーで変えていく世界ではないかと考えています。
大河 これは販売しているのですか?
小口 プロ野球の球団と契約し、選手自身が試合終了後に自分の打席をチェックしたり、過去の左投手との対戦を検索して見たり、といったプレイの改善に使っていただいています。
また部活などにおいては、「自分のフォームと好きな選手のフォームとを重ねて比較する」などといった研究にも使えると思います。
松本 先日、米国のあるスポーツリーグから、選手にセンサーをつけて、選手の血圧や脈拍や加速度を計測して一般のお客様に伝えたいといった話が来ました。
中西 方向としては間違いなくそちらに行くと思います。サッカーはFIFAが選手にチップをつけることをOKにしました。これからはIoTを使うことで、選手とファンの距離が近づくでしょう。
出井 ただ、技術を使うことが目的になると面白くないですよね。技術は一旦置いておいて、選手が戦っているリアルな臨場感を観客が感じられるようにしたい。だからやり方をいろいろ考えて観客に伝える。伝わるから楽しい。それがひっくり返ってしまうと、楽しくないですからね。
―スポーツを楽しむ文化を日本に根付かせるためにもICTに期待される役割の大きさを再認識しました。これからもスポーツを楽しむことに貢献していきたいと思います。本日はありがとうございました。