製品の違いをロボット自体が考えるシステムを開発する浜松のベンチャー
【連載】挑戦する地方ベンチャーNo.13 LinkWiz
3DCAD技術者のメッカ、“ハママツ”で産声
同社が浜松市の地で誕生したのは偶然ではない。“ハママツ”は3DCADシステムのエンジニアが集積する地として世界的に認知されている。それはかつて、地元のヤマハ発動機が70年代にいち早く3DCADの開発に着手。そこからスピンオフした技術者がアルモニコスやエリジオンを創設し、世界的に有名なCAD企業に育て上げたからだ。
吹野社長も浜松CAD企業の一角を成すアメリオ(浜松市北区)出身。はじめに浜松市に本社を置くパルステック工業に入社し、3次元スキャナ新規事業開発を担当。その後、外資系玩具メーカーで3D設計ツールの開発に携わり、帰国後にアメリオに入社した。アメリオでは3Dビジョンソフトウエア事業開発に取り組みながら、取締役としてマネジメントも学んだ。
次第にロボット関連への関心が高まり、三浦曜アメリオ社長に打ち明けると、「やりたいことをやればいい。本気で挑戦したいなら(会社を)辞めて自分でやってみろ」と背を押された。意を決し、以前から知っていたエンジニアと3人で起業した。
バーチャルとリアルを橋渡し
会社設立から2年目を迎えた現在、自動車関連などへ導入実績が広がった。設計とモノづくりの現場とのギャップを埋め、バーチャルとリアルを橋渡しする同社の技術は、ユーザーから高く評価されている。技術の優位性は、アメリオで培った高度な3D形状認識テクノロジーにある。
当初は3人全員で開発し、営業に奔走。「知名度のなさ、ベンチャーの難しさを痛感した」(同)と振り返る。17年はプロトタイプを提供し、ユーザーで評価してきたティーチング自動生成ツールなどを本格展開する勝負の年となる。開発力強化のため、16年12月に2人、17年1月にも1人とスタッフを増やした。「5年間は短期的な収益は追求せず、ニューフロンティアが見えたら株式上場も検討したい」(同)と開発重視の考え。2023年には従業員50人で40億円の売り上げを目指す。
魔法のような技術でイノベーション起こす
「ロボットが人の仕事を奪うのではない」(同)というのが持論。ロボットの導入が進む背景には、高齢化に伴う熟練工の減少がある。「熟練工が減ってもロボットがカバーできる。単純作業をロボットに置き換えることができれば、人はより創造的な仕事をするチャンスを得られる」と確信している。
社名のLinkWiz。Linkはロボットと人を”つなぐ”という意味の英語。Wizは「with」でなく、末尾をzとした。”~と一緒に”のwithを連想させながらwiz(魔法使い)の綴りとすることで、「大企業や専門知識のある人でなくても、ロボットが簡単に操作できる魔法のような技術を提供したい」(同)との思いを込めた。
1月には産業革新機構が同社への出資を発表した。新事業展開推進の資金として上限4億円を拠出する。SMBCベンチャーキャピタルも出資を決めた。「大企業がやらないこと、できないことをやりたい。当社のようなベンチャーが大企業をつなぐハブの役割を果たし、大企業を巻き込んでモノづくりのイノベーションを起こす。インダストリー4・0を日本で実現したい」と、ロボットが変える未来のモノづくりを思い描く。
(文=浜松・田中弥生)
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