関西-東北-九州 地方創生のチャンスはどこにある?
経済界トップが語る2017年
東北経済連合会会長 海輪誠氏
「ILC誘致、稼ぐ力育成」
東日本大震災後の復興需要がピークを越えた東北経済。持続的な地域の発展に向けて、自立した産業構造への転換が求められている。東北経済連合会の海輪(かいわ)誠会長に東北地域の進むべき道について聞いた。
―会長就任から半年がたちます。現況をどう見ていますか。
「東日本大震災以降、交通インフラの整備は進んだが、津波被害を受けた街の再生も含めると復興は道半ば。産業面は業種によって、回復度合いのバラつきが大きい。三陸沿岸の基幹産業である水産加工業は、販路喪失や風評被害の影響で売り上げが震災前の水準に届いていない。有効求人倍率は高水準だが、復興に必要な産業に人が集まらないミスマッチも生じている」
―人口減少が深刻化しています。
「東北は他を上回る割合で進んでいる。若い人が進学や就職で首都圏に出て、高齢者の割合が非常に高い。雇用の場の不足が主因で、これ以上になると地域社会が維持できなくなる。人口増加に向けた定住促進や人口還流策に国や自治体、経済界が同じ方向感で取り組む必要がある。独自の文化、物価の安さ、自然豊かで子育てに適した環境など、魅力のPRも大切になる」
―2030年を見据えた新たなビジョンを策定しています。
「月内にまとめる。人口減少や被災地の苦労などのマイナス面をプラスに転じ、夢や元気を与えられるような実効性のあるものにする。大きくは二つ。国際リニアコライダー(ILC)の誘致や東北放射光施設の設置を軸にする新産業の創出と、地場産業の育成で『稼ぐ力』を高める。もう一つはヒト・モノ・カネの交流を増やす。観光や農林水産品の輸出、観光産業の振興も一丸で取り組む必要があり、産学官に金融機関を加えた連携も重要になる」
「当会は『東北は一つ』の理念を掲げるが、今こそ実行の時。地域、業界間のバラつきを解消しなければ、東北は浮上しない」
―17年は東北にとってどのような年になるでしょうか。
「16年は仙台空港の民営化、北海道新幹線の開通など交通インフラが整備、拡充された。今年はそれらを活用していく年になる。ILCについては、この1、2年で政府が手を挙げれば、北上山地への誘致の可能性が見えてくる。東北放射光施設も16年末、建設・運営の受け皿になる法人を設立し、今年はプロジェクトが本格的に動きだすと期待している。観光面でも通年で集客することが重要だ。海外の大型クルーズ船の誘致や寄港の環境整備などに取り組む」
【記者の目/復興・創生、担い手呼び込め】
政府は16―20年度を「復興・創生期間」とし、復興期間は総仕上げの段階に移った。その先にある新しい東北の姿を示すには、いずれ終わるものに依存せず、次を見つめて知恵を絞り、行動しなければならない。担い手不在では実質的な復興・創生はおぼつかない。人を呼び込む地域社会の形成と、産業振興を並行して進める必要がある。
(文=仙台・苦瓜朋子)
〈次ページは九州経済連合会・麻生泰会長〉
日刊工業新聞2016年1月11-13日