孫さんが熱を上げる「アジアスーパーグリッド構想」の現実度
政治や歴史から道のりは長く険しい。でも「ロマン」だけ終わらない予感
「奇跡が起こった」(孫社長)
第二次世界大戦を教訓に経済を統合した欧州は「各国が協力するメリットが分かっている。良いことはやろうとする政治や歴史がある」という。一方の極東・東アジアには政治体制が違う国があり、戦争の禍根を残した国同士もある。
合意は困難だが「経済協力のメリットをインセンティブとして共有できれば、政治的な争いは克服できる」と助言する。政治的合意さえあれば、接続作業に長い時間はかからないという。
16年、アジアスーパーグリッド構想は実現へ前進した。ソフトバンクグループは3月、中国の国家電網公司(北京市)、韓国電力公社(羅州<なじゅ>市)、ロシア・グリッド(モスクワ州)と、送電線接続を調査する覚書を結んだ。構想に共感し、賛同してくれる海外電力事業者が現れたことに「奇跡が起こった」(孫正義ソフトバンクグループ社長)と、喜びを隠せなかった。
さらに、グループのSBエナジー(東京都港区)は、モンゴル企業とともに南ゴビ砂漠に22億平方メートル(22万ヘクタール)の土地を確保した。原子力発電所7基分に相当する700万キロワットの風車を建設予定で、一部が着工した。
孫社長は「どんどん進んでいる」と、手応えを感じている様子。だが、東アジアの政治や歴史を考えると、ゴールまでの道のりは長く、険しい。まだ、ほんの一歩を踏み出したばかりかもしれない。
風力普及でコストが低減できる
16年9月のシンポジウムで、モンゴルからの送電コストの具体的な数値や計算根拠は示さなかった。だが、再生エネのコスト低減を示すデータが多い。
米ブルームバーグの調査によると、太陽光発電で1キロワット時の電気を作る発電コストは米国、豪州、インドなどで10セント(約11円)を切り、火力発電並みになっている。
風力の発電コストは急速に下がっており、世界平均で8セント(約9円)。海外では風力が再生エネの主流となり、原発370基分の約3億7000万キロワットが稼働している。
地域によっては、再生エネがもっとも安い電源となった。技術革新と大量導入による再生エネの発電コストの劇的な低減も、アジアスーパーグリッド構想の実現性を高めている。「ロマン」や「夢」だけで終わらない予感がしてきた。
(文=松木喬)
日刊工業新聞2017年1月4日