売り場が変わる!効率か楽しさか、「買い物の再定義」に動く
「アマゾン・ゴー」と「プレミアムフライデー」が投げかけた消費者との接点
2016年12月、インターネット通信販売最大手の米国アマゾン・ドット・コムが発表した、新しい「販売」の形が話題を呼んだ。米アマゾンはワシントン州シアトルに、レジのない小規模店「アマゾン・ゴー」を設けた。
スマートフォンの専用アプリケーション(応用ソフト)を入店時にかざすと、商品をセンサーで感知し、店外に持ち出すと自動で精算する仕組みだ。社員向けの試験店舗だが、17年からは一般顧客も利用が可能になる。
同社は、ボタンを押すとネット通販サイト経由で日用品が注文できる端末「アマゾン・ダッシュ・ボタン」も日本で発売した。有料会員向けのサービス。どちらも、買い物にまつわる煩わしさを軽減しようという取り組みだ。
国内ではローソンがパナソニックと共同で、かごをレジに置くと自動的に精算と袋詰めをするセルフレジ機「レジロボ」の実証実験を始めた。
2月には無線識別(RFID)タグも導入し、バーコードで商品をスキャンする手間もなくす。売り場の人手不足解消とともに、購入者の利便性向上を目指す。
売り場の無人化、自動化は進むのか。竹増貞信ローソン社長は「我々は会員限定のビジネスではない」と前置きする。その上で「(お客さまが従業員と)『おはよう』といったコミュニケーションをとりたいというニーズもあれば、『早く買いたい』というニーズもある。立地によって(運営のモデルを)変えていく」と話す。
イトーヨーカ堂(東京都千代田区)は都心部のニーズに応えるため、東京都荒川区にネットスーパー専門店を設けた。ベルトコンベヤーを店内に配するなどの工夫で、効率を上げた。
その一方で、同店のシステム構築を手がけた服部功オムニチャネル推進室総括マネジャーは「お客さまは店内にコンベヤーがあるから当店を利用する訳ではない。
問い合わせの電話での応対や、配達ドライバーのあいさつといった『おもてなし』が大事」と強調する。店舗のホームページにはスタッフの「イチオシ商品」の紹介コーナーを設けるなど“手作り感”も加えている。
食品スーパーマーケット、サミット(東京都杉並区)の竹野浩樹社長は「店長とお客さまが普通に話しているのが、近未来の売り場の風景だと思う」と話す。
「ハイタッチ(触れ合いが密)な接客をすれば、過度に他社より安い価格を追わなくても支持される」といった“質”が、差別化の核になるとの見立てだ。
同社は試食品を集めたコーナー「おためし下さい」や、売り場を巡回して要望や質問に応じる専任の案内係を店内に配している。竹野社長は「買い物を楽しくしたい」と狙いを語る。
イオンリテール(千葉市美浜区)が16年12月、ダイエーの旗艦店だった碑文谷店(東京都目黒区)を改装して開いた「イオンスタイル碑文谷」は、イートインコーナーや南欧風の酒場「バル」を充実させた。近隣の住民や友人らの集いの場としての機能を狙う。
モノの販売に直接つながりにくい、“コト消費型”のスペースやサービスの提供は、非効率にも思える。
三菱食品の原正浩執行役員マーケティング本部長兼戦略研究所長は、実店舗が電子商取引(EC)などの台頭する他業態に勝つためには「モノだけではなく“楽しさ”の提供が求められている」と見る。イートインコーナーの設置については「来店する目的を作るため、投資をしても踏み切る企業は増えるだろう」と話す。
ECのビジネスモデルを味方に付ける家電量販店も、実店舗ならではのサービスを追求する。ヤマダ電機は一部店舗で、購入した商品の配達や工事の時に社員が同行するサービスを始めた。
業者に任せるだけではなく、社員が“コンシェルジュ”として購入者宅を訪問し、商品の使い方などを説明する。「ネット(販売)ではできないサービス」と、一宮忠男副会長は力を込める。
各社がこうした取り組みを模索する背景には、品ぞろえや価格でECに太刀打ちするのは難しいという危機感がある。少子高齢化が進む中で「重要なのは『フェースツーフェース』のサービス」(一宮忠男ヤマダ電機副会長)。「『この商品で生活がこう変わる』といった提案ができなければ、家電量販店が生きる道はなくなる」と語気を強める。
ローソンは16年11月、冷凍や常温など四つの温度帯に対応し、デジタル販売時点情報管理(POS)も搭載した移動販売専用車両を導入した。都市部に住む高齢者らの需要に応える。
19年2月期までに400店舗で、移動販売を実施する予定。商品を手に取り、スタッフと交流しながら買い物をする“リアル”な体験を、店舗の外で提供していく考えだ。
消費喚起のため、米国の年末商戦「ブラックフライデー」や中国の「独身の日」は、大幅な値下げを実施している。しかし、官民でプレミアムフライデー(2月24日から実施)を推し進める経済産業省は「(バーゲンは)コンセプトが違うと位置づけている」とし、イベントなどによる盛り上げに期待する。
消費が安いモノに流れていく中、「良いサービスや商品に気付いて対価を支払ってもらうことで、経済循環ができれば」(経産省)との狙いだ。
食料品の値上がりや株価下落の影響もあり、内閣府が毎月調査している消費者態度指数(消費マインド)は低迷傾向だ。だが、節約するだけではなく、「自分が気に入ったモノにはお金を出す」という傾向も見られる。
ファミリーマート(東京都豊島区)は16年11月、RIZAP(同新宿区)と共同開発した低糖質の菓子やデザートなど9種類を発売した。
16日間で計300万食を突破し、「当初計画を大幅に上回る販売」(ファミリーマート)となっている。健康を意識しつつ、おいしいものを食べたいという潜在ニーズをつかんだ形だ。
小売業界などからは、プレミアムフライデーに期待する声が上がっている。しかし、消費者の財布のひもを緩めるのは、魅力ある買い物体験や商材をいかに提供できるか、という“基本”にかかっている。
(文=江上佑美子)
スマートフォンの専用アプリケーション(応用ソフト)を入店時にかざすと、商品をセンサーで感知し、店外に持ち出すと自動で精算する仕組みだ。社員向けの試験店舗だが、17年からは一般顧客も利用が可能になる。
同社は、ボタンを押すとネット通販サイト経由で日用品が注文できる端末「アマゾン・ダッシュ・ボタン」も日本で発売した。有料会員向けのサービス。どちらも、買い物にまつわる煩わしさを軽減しようという取り組みだ。
ローソンとパナソニックが「レジロボ」
国内ではローソンがパナソニックと共同で、かごをレジに置くと自動的に精算と袋詰めをするセルフレジ機「レジロボ」の実証実験を始めた。
2月には無線識別(RFID)タグも導入し、バーコードで商品をスキャンする手間もなくす。売り場の人手不足解消とともに、購入者の利便性向上を目指す。
売り場の無人化、自動化は進むのか。竹増貞信ローソン社長は「我々は会員限定のビジネスではない」と前置きする。その上で「(お客さまが従業員と)『おはよう』といったコミュニケーションをとりたいというニーズもあれば、『早く買いたい』というニーズもある。立地によって(運営のモデルを)変えていく」と話す。
店内にコンベヤーを配した意味
イトーヨーカ堂(東京都千代田区)は都心部のニーズに応えるため、東京都荒川区にネットスーパー専門店を設けた。ベルトコンベヤーを店内に配するなどの工夫で、効率を上げた。
その一方で、同店のシステム構築を手がけた服部功オムニチャネル推進室総括マネジャーは「お客さまは店内にコンベヤーがあるから当店を利用する訳ではない。
問い合わせの電話での応対や、配達ドライバーのあいさつといった『おもてなし』が大事」と強調する。店舗のホームページにはスタッフの「イチオシ商品」の紹介コーナーを設けるなど“手作り感”も加えている。
食品スーパーマーケット、サミット(東京都杉並区)の竹野浩樹社長は「店長とお客さまが普通に話しているのが、近未来の売り場の風景だと思う」と話す。
「ハイタッチ(触れ合いが密)な接客をすれば、過度に他社より安い価格を追わなくても支持される」といった“質”が、差別化の核になるとの見立てだ。
同社は試食品を集めたコーナー「おためし下さい」や、売り場を巡回して要望や質問に応じる専任の案内係を店内に配している。竹野社長は「買い物を楽しくしたい」と狙いを語る。
「来店する目的を作る投資増える」
イオンリテール(千葉市美浜区)が16年12月、ダイエーの旗艦店だった碑文谷店(東京都目黒区)を改装して開いた「イオンスタイル碑文谷」は、イートインコーナーや南欧風の酒場「バル」を充実させた。近隣の住民や友人らの集いの場としての機能を狙う。
モノの販売に直接つながりにくい、“コト消費型”のスペースやサービスの提供は、非効率にも思える。
三菱食品の原正浩執行役員マーケティング本部長兼戦略研究所長は、実店舗が電子商取引(EC)などの台頭する他業態に勝つためには「モノだけではなく“楽しさ”の提供が求められている」と見る。イートインコーナーの設置については「来店する目的を作るため、投資をしても踏み切る企業は増えるだろう」と話す。
ECのビジネスモデルを味方に
ECのビジネスモデルを味方に付ける家電量販店も、実店舗ならではのサービスを追求する。ヤマダ電機は一部店舗で、購入した商品の配達や工事の時に社員が同行するサービスを始めた。
業者に任せるだけではなく、社員が“コンシェルジュ”として購入者宅を訪問し、商品の使い方などを説明する。「ネット(販売)ではできないサービス」と、一宮忠男副会長は力を込める。
各社がこうした取り組みを模索する背景には、品ぞろえや価格でECに太刀打ちするのは難しいという危機感がある。少子高齢化が進む中で「重要なのは『フェースツーフェース』のサービス」(一宮忠男ヤマダ電機副会長)。「『この商品で生活がこう変わる』といった提案ができなければ、家電量販店が生きる道はなくなる」と語気を強める。
米国や中国とのイベントとは一線
ローソンは16年11月、冷凍や常温など四つの温度帯に対応し、デジタル販売時点情報管理(POS)も搭載した移動販売専用車両を導入した。都市部に住む高齢者らの需要に応える。
19年2月期までに400店舗で、移動販売を実施する予定。商品を手に取り、スタッフと交流しながら買い物をする“リアル”な体験を、店舗の外で提供していく考えだ。
消費喚起のため、米国の年末商戦「ブラックフライデー」や中国の「独身の日」は、大幅な値下げを実施している。しかし、官民でプレミアムフライデー(2月24日から実施)を推し進める経済産業省は「(バーゲンは)コンセプトが違うと位置づけている」とし、イベントなどによる盛り上げに期待する。
消費が安いモノに流れていく中、「良いサービスや商品に気付いて対価を支払ってもらうことで、経済循環ができれば」(経産省)との狙いだ。
食料品の値上がりや株価下落の影響もあり、内閣府が毎月調査している消費者態度指数(消費マインド)は低迷傾向だ。だが、節約するだけではなく、「自分が気に入ったモノにはお金を出す」という傾向も見られる。
ファミリーマート(東京都豊島区)は16年11月、RIZAP(同新宿区)と共同開発した低糖質の菓子やデザートなど9種類を発売した。
16日間で計300万食を突破し、「当初計画を大幅に上回る販売」(ファミリーマート)となっている。健康を意識しつつ、おいしいものを食べたいという潜在ニーズをつかんだ形だ。
小売業界などからは、プレミアムフライデーに期待する声が上がっている。しかし、消費者の財布のひもを緩めるのは、魅力ある買い物体験や商材をいかに提供できるか、という“基本”にかかっている。
(文=江上佑美子)
日刊工業新聞2017年1月1日