今年も大型M&Aラッシュ、2017年の「傾向と対策」
中国の魅力薄れる。注目はやはりライフスタイル分野
≪米国≫
【クボタ】畑作用農機向け作業機器拡大
クボタは海外の畑作用農機市場を攻略している。同農機に装着する作業機器(インプルメント)の事業拡大を狙い、米国事業統括子会社を通じて7月に米グレートプレーンズマニュファクチュアリング(GP)を買収した。買収額は同社案件で過去最高の4億3000万ドル(約495億円)だった。
GPとクボタの米トラクタ販売子会社は07年に提携し、共同で主力の小型トラクター事業拡大に取り組んできた。買収によりGPをグループ内に取り込み、大型畑作農機に適したGPの播種・耕起用インプルメントを品ぞろえに加えるほか、開発・製造段階からの協業により競争力を高める。
【帝人】“単純な素材メーカーからの脱却”狙う
帝人が米最大手の自動車向け複合材料成形メーカー、コンチネンタル・ストラクチュラル・プラスチックス(ミシガン州、CSP)を同社過去最大の約840億円で買収する狙いは“単純な素材メーカーからの脱却”だ。
CSPの“魅力”は中核事業の炭素繊維と共通点が多い高い加工技術と「米自動車ビッグ3」への強固な販路。これらを活用し、燃費改善など自動車メーカーの課題解決につながる帝人の機能素材の提案を強める考えだ。
帝人は汎用品の不採算工場を閉鎖するなど高収益事業への転換を急ぐ。中国の台頭などで汎用化リスクのある素材事業にユーザーへの課題解決力を付加し、事業基盤を固める狙いもある。
≪欧州≫
【ダイキン工業】総合空調冷凍機器の基盤強化
ダイキン工業は7月にイタリアの業務用冷凍・冷蔵機器メーカーのザノッティを買収した。買収額は9800万ユーロ(約119億円)。同社が持つコールドチェーン商品と販売網を取り込み、欧州で総合空調冷凍機器メーカーとしての事業基盤を強化する。
また、11月にはスウェーデンの換気用フィルターメーカーのディンエアも買収した。ダイキンは18年度に15年度実績比約22%増の売上高2兆5000億円を狙う中期経営計画を掲げ、世界各地域で事業拡大を進めている。欧州市場では18年度の売上高を2800億円に成長させる計画だ。
【昭和電工】電炉用黒鉛電極、効率化を追求
昭和電工は独SGLカーボンから電炉用黒鉛電極事業を買収することで、事業の効率化を追求する。新たに欧州に工場を獲得し、アジアと米州、欧州と適地生産体制を構築できるのが狙いの一つだ。
加えて、生産能力で世界首位に躍り出る。規模拡大により間接部門の統合や調達コスト削減なども目指す。世界的な“鉄冷え”で電炉用黒鉛電極市場も厳しく、国内外で業界再編の必要性が指摘されていた。
昭和電工は事業統合による直接的なコスト削減額として60億円を見込んでいる。コスト競争力を高めて“厳寒”を乗り切る考えだ。
【IDEC】創業70年の歴史で初の大型買収
IDECは17年1月16日に産業用スイッチメーカー、仏アペムグループを約292億円で買収する。「これほど大きな買収は創業70年の歴史で初」(舩木俊之会長兼社長)。製品やエリアの重なりが少なく大きな相乗効果が見込めるという。
IDECはFA業界向け標準品の代理店販売が中心。アペムは農業機械や建設機械、防衛・航空向けで特注品の直販に強い。営業エリアでも重なるのは米国のみ。両社はともに産業用スイッチメーカーだが似て非なる企業だ。15年度ベースで2社の売上高の合算は557億円。相互補完できる強みを生かし、グローバル展開を加速する。
≪国内ヘルスケア≫
【富士フイルム】18年度、事業売上高1兆円目指す】
富士フイルムは武田薬品工業の子会社で総合試薬メーカーの和光純薬工業(大阪市中央区)を17年4月に買収する。買収額は約1547億円。富士フイルムは15年度に約4200億円だったヘルスケア事業の売上高を18年度は1兆円にすることを目指しており、買収で弾みをつける。
和光純薬は細胞の増殖や分化誘導に使われる培地を開発しており、富士フイルムは再生医療分野を強化できると見込む。また同社は和光純薬が臨床検査薬事業を通じて医療機関に太いパイプも持つ点も評価した。相乗効果を早期に最大化できるか、注目される。
日刊工業新聞2016年12月30日