“新参者”富士フイルムが和光純薬買収で狙う大学や医療機関とのパイプ
再生医療に必要な3大要素を全て手の内に。1兆円へ中長期の布石
相思相愛の関係
和光純薬工業にとって富士フイルムは、武田薬品工業に次ぐ第2位株主というだけでなく、武田以上の一番の取引先である。和光純薬は試薬、臨床検査薬、化成品の主要3事業を持つことが自社の強みと考え、全ての事業を継承できる相手先の選定を武田に要望していた。富士フイルムは3事業で和光純薬と取引があり、まさに相思相愛の関係と言える。
和光純薬は両社の3事業の管理業務効率化に向けた自社の管理部門の人員削減を懸念し、当面の人員の現状維持を求めていく考えだ。
今後も武田薬品との関係は継続しつつ、富士フイルムの各種医療機器に応じた試薬や検査薬の研究開発などを加速する。また富士フイルムが力を入れるiPS細胞など再生医療事業の試薬や培地液などの製品やノウハウの提供などで相乗効果が期待されている。
<15日の会見要旨>
富士フイルムHDの古森重隆会長兼CEO、助野健児社長兼最高執行責任者(COO)の会見での主なやりとりは次の通り。
―相乗効果は。
古森会長 質的・量的な拡大を達成できる画期的なマイルストーンだ。最大のメリットは、再生医療事業の3大要素で当社に唯一欠けていた培地が手に入ること。小回りが利く和光純薬の技術と当社の基礎的な技術を組み合わせれば、もっとすばらしい製品を生み出す最高の布陣になる。もう一つは販売チャンネル。和光純薬は臨床検査薬などを通じ病院に強く、当社がもっと入り込む上で有効だ。
―合意までの経緯は。
古森会長 和光純薬とは親密な関係を築いており、3―5年前に親会社の武田薬品工業に買収の可能性を聞いたことがある。その時は断られたが、ずっと欲しい会社だった。それが入札という話になったので、迷わず応じた。当然すさまじい競争になったが、それを乗り越えてもやるべきだと判断した。経営者の直感もあった。
―19年3月期に達成を目指す再生医療事業の黒字化は。
助野社長 黒字化をできるだけ前倒ししていくことが買収の意味でもある。和光純薬の培地が加わり、再生医療は飛躍的に伸ばしていける。シナジーを入れ、10年強で投資回収できるとみている。単純に売上高や利益を買うM&A(合併・買収)はしないが、この先も1+1が3や4になるならあらゆる領域でやっていく方針に変更はない。
日刊工業新聞2016年12月16日の記事を加筆・修正