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“新参者”富士フイルムが和光純薬買収で狙う大学や医療機関とのパイプ

再生医療に必要な3大要素を全て手の内に。1兆円へ中長期の布石
“新参者”富士フイルムが和光純薬買収で狙う大学や医療機関とのパイプ

左から富士フイルムの古森重隆会長兼CEO、助野健児社長兼COO、戸田雄三取締役兼CTO

 富士フイルム武田薬品工業の子会社で試薬大手の和光純薬工業(大阪市中央区)を買収する。再生医療の技術などを取得し、成長株とみなすヘルスケア分野の底上げにつなげる。中長期を見据えた自社の競争力強化につなげられるかが試される。

 和光純薬の2016年3月期連結売上高は793億円。同期のヘルスケア事業売上高が約4200億円だった富士フイルムにとっては目先のトップライン(売上高)を押し上げる効果も期待できるが、中長期の飛躍的な成長に向けた布石という意味合いが大きい。

 和光純薬は創薬研究などで使われる試薬の大手で、iPS細胞(人工多能性幹細胞)やES細胞(胚性幹細胞)研究用の製品を多数持つ。電子材料をはじめとする化成品事業も展開している。再生医療や高機能材料に力を注ぐ富士フイルムとの相乗効果が見込める分野が多い。

 同社が特に期待をかけている和光純薬のノウハウは、再生医療向け細胞の増殖や分化誘導に使われる培地だ。富士フイルムはこれまで臓器や組織をつくるための細胞や、細胞培養に必要な足場材を手がけてきた。これらに和光純薬の培地を加えることで、「再生医療に必要な3大要素を全て自社グループで保有することになる」(助野健児社長兼最高執行責任者)。

 富士フイルムは08年に中堅製薬の富山化学工業を買収して医薬品事業に本格参入した。以来、積極的なM&A(合併・買収)で業容を拡大してきたものの、“新参者”だけに大学や医療機関とのパイプは一層太くする必要がある。

 富士フイルムの古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)は和光純薬について「臨床検査薬(事業)を通じて、ほとんどの病院に販売チャンネルがある」と述べ、医療業界への食い込み状況を高く評価した。

 ただ、富士フイルムは和光純薬の9・71%の株式を持つ第2位株主だ。和光純薬が富士フイルムの再生医療向け足場材「セルネスト」を販売するなど、具体的な業務提携もしている。富士フイルムがこのレベルの関係で満足せずに買収を決断したのは、事業拡大や技術開発に向けて意思決定を速めるためだ。

顧客基盤に敬意を払いつつ求心力高める


 それが実現するか否かは、買収後の統合プロセスであるポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)にかかる。富士フイルムのPMIに関する考え方は、「任せきりという事は、まずない。富士フイルムの方針は徹底させる。お目付け役も送り込む」(古森会長兼CEO)。和光純薬の技術・顧客基盤には敬意を払いつつ、求心力を高めるかじ取りを追求していく。

 もっとも、19年3月期にヘルスケア事業の売上高1兆円を目指す富士フイルムにとっては、和光純薬に続く二の矢、三の矢も必要になってくるだろう。

 幅広い視点で成長に資する優良株を見定め、リスクを恐れずにM&Aに踏み切り、買収後は迅速に相乗効果を最大化する。富士フイルムが培ってきたこの勝ちパターンをどれだけつくれるか注目される。

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日刊工業新聞2016年12月16日の記事を加筆・修正
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
 先日、古森さんは日刊工業新聞へのインタビューで「打ちたい手がまだ三つ、四つある」と語っていたが、和光純薬買収はその中には入っていないように個人的には思う。東芝メディカルをキヤノンに持っていかれて相当に悔しかったはず。次のサプライズを待とう。

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