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4年目の官製春闘に暗雲

官邸、経済界に不協和音
4年目の官製春闘に暗雲

経団連の榊原会長(左)と安倍首相

 4年目となる“官製春闘”の先行きに暗雲が垂れ込めている。消費喚起により「経済の好循環」を何としても実現したい安倍晋三首相は「少なくとも今年並みの賃上げ」「4年連続のベースアップ(ベア)」を経済界に求める。だが、足元は円安傾向ながら企業の経営環境は依然厳しく、政権の要請にどう応えるか苦しい立場に追い込まれている。2017年3月の集中回答日へ向け、厳しい労使交渉は不可避の状況だ。

機運高める


 「経済の好循環を継続するカギは来年の賃上げ。榊原(定征)会長にも今、うなずいていただいた」―。11月中旬、官邸で開かれた働き方改革実現会議。安倍首相は真正面に座る経団連の榊原会長を見据え、経済界が同意したとの機運を高めることに躍起だった。「今年並みの水準の賃上げを期待する。特に4年連続のベアの実施をお願いしたい」。首相はそうたたみかける。

 17年の官製春闘は異例ずくめで始まった。早くも11月に、政権が労働組合のお株を奪うかのように積極的な賃上げを要請。しかもその手法にまで言及した。結果、例年なら12月に本格化する経営側の議論が、官邸から背中を押されるように11月から始まっている。

 もう一つは、来春には原油高による消費者物価の上昇を見込めることを理由に「期待物価上昇率を勘案した賃上げ」という新たな“物差し”を首相が提示したことだ。

 石油輸出国機構(OPEC)の減産合意を視野に入れたものだが、原油価格の上昇は輸入物価を引き上げる“悪い物価上昇”となり、個人消費を冷やしかねない。需給がともに拡大していく過程での“良い物価上昇”が視野に入らなければ、賃上げに結びつきにくい。

減益相次ぐ


 企業を取り巻く経営環境は厳しい。賃上げ率は官製春闘が始まった14年春闘から3年連続で2%を超えるものの、16年春闘は年初の国際金融市場の混乱から円高が進み、賃上げ率は15年春闘を下回った。17年春闘を控えた経営環境はさらに厳しく、16年4―9月期決算は4年ぶりの減益に陥った上場企業が相次いでいる。

 官邸と経済界は“車の両輪”として日本経済をけん引してきたはずだった。だが、官邸の賃上げ頼みが先行する現状を前に不協和音が感じられる。経済界からは「過去3年間で2%を超える賃上げを実現しながら個人消費は上向いていない」。こうした批判が公然と聞かれるようになった。

 とりわけ基本給を底上げするベアについては慎重にならざるを得ない。経団連の榊原会長は賃上げの「モメンタム(勢い)は継続しなければならない」との認識を示しながらも「ベアは重い存在」と苦渋の表情をみせる。経済同友会の小林喜光代表幹事も「将来も続く固定費で、これだけ不確定な時代に(実施に踏み切るには)勇気がいる」と同調。来年の春闘では定期昇給や賞与を優先する企業が多いとの見通しを示す。

慎重姿勢


 経営側の苦しい事情は、経団連がまとめた春闘交渉へ向けた基本方針原案ににじむ。4年連続賃上げを会員企業に求めつつ、具体的な賃上げ方法についてはベアを含む多様な選択肢を例示。各企業の労使交渉に委ねる考えを示した。

 また期待物価上昇率を勘案した賃上げについては「物価動向は考慮要素の一つではあるが機械的に反映すべきでない」と慎重姿勢を崩さない。

 さらに経団連は、賃上げだけでは経済の好循環は実現しないとの認識も原案に盛り込んだ。社会保障制度の先行きなど家計が抱く将来不安を払拭(ふっしょく)しなければ個人消費を喚起するのは難しい。官民を挙げた取り組みの必要性に言及した。

 政権は財政規律を順守しつつ一段の構造改革に踏みだし、将来を展望できる道筋を示すことが求められる。

日刊工業新聞2016年12月2日
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
官製春闘をめぐる構図を前に思うのは、労組の存在感の低下。連合がベア2%要求方針を固めた直後には麻生太郎財務相が「もっと(賃金が)上がってもおかしくない」と語り、要求水準が低いとの認識を示しています。

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